第五話 橋が直る日
全70話完結予定です。毎日5話ずつ、12時・15時・18時・21時・23時に投稿します。
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「橋を閉める? 何故だ」
カーセン村の農夫が、太い眉をひそめた。他にも数人が集まっていた。どの顔も「子供が来て何を言う」という色をしていた。
「支柱が腐食しています。このまま使い続けると崩落の危険があります」
「崩れるわけがない。何年も使ってきた橋だ」
「内部が腐っています。石工の棟梁ボロスさんも確認されました」
ボロスが隣に立っていた。無言だったが、農夫たちはボロスの顔を見た。棟梁が黙って頷いた。それだけで、空気が変わった。
「……棟梁がそう言うなら」
「工事は何日かかる」
「三日ほどいただければ、補強は完了します」
反発が半分、「万が一のためなら」という理解が半分。そういう割合だった。それでも、橋は閉まった。
工事が始まった翌朝から、俺は現場に通った。
三日目の午後、補強材の選定でボロスと意見を交わした。
「北の杉を持ってきた。あんたの言う通りだ、水に強い」とボロスが言った。
「腐食した支柱の全部を交換するべきでしょうか、それとも部分補強が先ですか」
「今回は全交換が確実だ。俺はそう判断する」
「ならそれで。腐食の速度を見ると、部分補強では二年持たないと思います」
「……どうして腐食の速度が分かる」
「見えます、スキルで」
ボロスが短く「ふん」と言った。もう疑う顔ではなかった。
補修が完了した夕方、ボロスが荷重試験をした。重い石を積んだ荷車を橋に乗せる。二十分待って、問題なし。
「完成だ」とボロスが言った。その声に、職人としての満足が滲んでいた。
翌朝、村人が橋を渡り始めた。
最初に渡ったのは、七十歳近い老婆だった。杖をついて、ゆっくりと橋を渡りきった。それから振り返って、俺を見た。
「ありがとうございます」
たったそれだけの言葉だった。
俺はそれ以上のものを求めていなかったし、必要もなかった。「直った」という事実だけで十分だ。でも、老婆の顔を見た時、胸の奥に何かが温まった。四十二年間感じ続けてきた感覚と、同じものだった。
ボロスが俺の隣に立った。
「あんたは変わった子供だ。俺の弟子じゃないが、何かあれば呼べ」
それだけ言って、道具を担いで歩いていった。
その日の夕食の席で、次兄ガブリエルからの手紙が届いた。
王都の神学校からだった。「元気でやっている」という報告と、近況がいくつか。そして最後の一文に、「レオンが何かやっているという噂が届いた。詳しく聞かせてくれ」と書いてあった。
辺境の出来事が、すでに王都に届いているのか。
俺は苦笑しながら手紙を畳んだ。
「ガブリエルから何か?」と母が聞いた。
「元気だそうです。またいつか帰ってくると書いてました」
「そう」と母がほっとした顔をした。
次兄は聡い男だ。手紙の文章の端々に、それが滲み出ていた。教会の中にいながら、外で何が起きているかを見る目を持っている。
「橋の件は終わりました」と俺は言った。「次は、別の村の水源を見てみようと思います」
父が頷いた。長兄が「また何かを診つけたのか」と言った。
「まだ診ていない場所の方が多いので」
そこに、玄関から薬草師の見習いが来ている、という知らせが入った。
「薬草師の娘?」と俺は首を傾げた。
「はい。カーセン村の薬草師の娘さんだそうです。若様に会いたいと」
翌日、その娘が来ることになった。




