第五十八話 王太子の宣言
「カールが別人のように元気になった」と王太子が言った。「お前の助言の通りにしたら、三週間で完全に回復したと言っている」
「生活習慣を変えれば体は自分で戻ります。私は方向を示しただけです」
「方向を示すのが医師の仕事だろう」とエドワードが言った。「私はこれで確信した。お前のスキルは本物だ」
「ありがとうございます」
「それを受けて、私は動く」と王太子が言った。
俺は「何をされるのですか」と聞いた。
「王立鑑定院の判定保留を撤廃し、新たな鑑定カテゴリを設ける。診断・分析系スキル、という区分だ。ヴェルディア家三男レオン殿のスキルはその第一号とする。これを正式に提案する」
「父王の裁可が必要では」
「必要だ。だから提案だ。しかし私が動ける範囲で動く。父王に対して、正式に裁可を求める」
俺は一拍考えた。
「公開実証の準備を始めましょう」
「え?」と王太子が少し意外そうな顔をした。
「殿下の宣言が効力を持つには、公開の場での証明が最も強い根拠になります。宣言と実証が両輪で動けば、反対する側も否定しにくくなります」
エドワードが「……お前は本当に」と言って止まった。「感謝の言葉より次の手か」
「感謝しています。ただ感謝で問題は解決しません」
「それがお前らしい」と王太子が笑った。
翌日から大神殿が反発を始めたという知らせが来た。「王太子は宗教的権威を侵している」という声明だった。
「想定内です」と俺はクルトに言った。
「大神殿が本格的に動いてきます。怖くないですか」とクルトが聞いた。
「怖いと感じる前に次の手を考える癖があります」
ガブリエルが「王太子が動いてくれた。これは大きい」と言った。
「後ろ盾があれば戦える」と俺は言った。「でも戦うのは記録と実績です。人の力は、それを動かすための条件を作ることです」
父が「これでモーランド伯爵の問題も少し楽になる」と言った。「王太子が後ろ盾になれば、伯爵が動きにくくなる」
「そういう効果もあります」と俺は言った。「全て繋がります」
その夜、公開実証のための準備リストを書いた。
患者の選定。評価基準の事前合意。王立学術院の観察者の確保。自分の診断手順の整理。ミリアに薬草調合の準備を頼む手紙。
ミリアへの手紙に「公開実証の日、来てもらえますか。一人では心細い。というのは言い訳で、本当はあなたの調合の力が必要です」と書いた。
(言い訳の方が本音かもしれないが、必要なのも本当だ)
手紙を封じた。大神殿の反発と王太子の宣言という嵐が動いている夜に、俺は次の準備を始めていた。




