第五十四話 証明できるか
王太子は昨日と同じ部屋で待っていた。
「昨日のことを聞いた」とエドワードが言った。「貧民街の建物崩壊で、お前が指示を出したと」
「たまたまその場にいました」
「たまたまではないだろう。なぜあの建物が危険だと知っていたのか」
「以前に視察した時に記録していました。崩落リスク高、と手帳に書いていました」
王太子が少し止まった。「視察した時? いつ」
「前回の王都訪問の時です。通りがかりに見えたので」
「……見えたから、記録した。それだけで」
「それだけです」
王太子が少し笑った。「お前らしい」と言った。「三人が助かった。救助隊長が感謝していたと聞いた」
「救助隊が動いたからです。俺は指示を出しただけです」
「お前の指示があったから動けた」とエドワードが言った。「話を変える。お前の診断能力は本物だ。それは分かった。では、正式な場で証明できるか」
「どういう意味ですか」
「医学として、だ。教会の治癒魔法と同じ患者を診断・治療できると証明できるか。公開の場で」
俺は一拍考えた。
(これは来た。答えを出す場面だ)
「できます」と言った。「患者が一人いれば十分です」
エドワードが目を細めた。「本当に言い切るんだな」
「嘘ではありません。四十二年間……」と言いかけて止まった。「長年、診断してきました。診れば分かる。分かれば何をすべきかが見える。それだけです」
「具体的な計画を聞かせてくれ。私に動ける余地があるかもしれない」
「公開実証の場が必要です」と俺は言った。「患者の自発的な同意と、公正な観察者の立会いがあれば。王立学術院が立会人になれれば、結果の信頼性が生まれます」
「学術院か。院長とは面識がある」
「もう一つ、お願いがあります」
「言え」
「弟のことです」
俺はガブリエルの件を話した。禁書庫への不正アクセスとして内部調査が始まっていること。拘束の可能性があること。
エドワードが「大神殿がか」と言った。
「はい。王太子殿下から大神殿に問いかけを出していただければ、大神殿は答えを用意しなければならない。少なくとも、拙速な動きを抑制できます」
「大神殿への問いかけ……」とエドワードが少し考えた。「名目が必要だ。内部調査の透明性を求めるという形なら動けるかもしれない」
「それで十分です」
「分かった。両方を同時に進める。公開実証と、大神殿への問いかけ。お前は準備を整えてくれ」
「はい」
退出した。
クルトが廊下で「若様、本当に『できます』と言い切ったんですか」と聞いた。
「嘘ではない」と俺は言った。
「患者が一人いれば十分、という言葉も」
「その通りです。一人の命が動けば、世界が変わる。それは前世でも、今でも変わらない」
クルトが「……若様がそう言うなら、そうなんでしょうね」と言った。
宿に戻ると、エステルが待っていた。「ガブリエル様の情報が入りました」と言った。「神学院の外に移動したことが確認されました。行き先は不明ですが、自発的に動いているようです」
「逃げた?」
「おそらく。完全な拘束前に動いたと思われます」
俺は地図を広げた。「この方向に向かっているとすれば、どこへ行けるか」




