第五十二話 大神殿の記録
「禁書庫への不正アクセス」という言葉が重かった。
エステルが持ってきた情報を整理した。大神殿が内部調査を始めている。ガブリエルが対象だ。拘束の可能性がある。さらにドレイク家が大神殿の一派と連携している。
(複数の問題が一点に集まりつつある)
ガブリエルが送ってきた手紙の内容は、古代医学書の一節だった。禁書庫の資料を筆写した。それが「不正アクセス」として記録されている。
「記録が証拠になる」という構造は、自分が使ってきた手法と同じだった。ただし今回は、それが弟への武器になっている。
父が「大神殿が次男を拘束しているなら、正式に抗議する」と言った。
「父上、それは逆効果になる可能性があります」と俺は言った。
「なぜだ」
「大神殿は内部調査中と言えば、外からの抗議を『情報漏洩』として処理できます。父上が動けば、大神殿は『ヴェルディア家が禁書庫問題に関与している』という名目を作れる」
父が「……では何もしないのか」と言った。
「急いで見えないものを切ると、傷が広がります。今は外から、大神殿が動きにくくなる圧力をかける方法を探します」
ヴィルが「王太子殿下への相談か」と言った。
「それが一番可能性があります。王太子は大神殿の上位にある王権の側です。王太子が問いかけを出せば、大神殿は答えを用意しなければならない」
「王太子殿下が動いてくれるか」
「前回の訪問で、一度話しました。今日、エステルが連絡を取ってみると言っています」
父が「……分かった。お前に任せる」と言った。今度は最初から声が穏やかだった。「急いでくれ」という言葉が続かなかった。父が少し落ち着いてきている。
「できる限り」
その日の夕方、エステルが「王太子殿下のご側近から、明日のご面会をご承諾いただきました」という知らせを持ってきた。
「動きました」とクルトが言った。
「動きました」
翌日の面会に向けて、整理した。ガブリエルの問題。大神殿の内部調査。ドレイク家の関与。それを王太子に伝えて、何を求めるか。
(大神殿が動きにくくなる状況が必要だ。王太子の問いかけは、それになれる)
その夜、窓の外から人の声が来た。
「東3区で建物が崩れた!」
クルトが立ち上がった。「若様、東3区というと……」
「以前、記録した場所です」
俺は上着を掴んで立ち上がった。




