第五十話 古代の一節
手紙を読んだ。三度読んだ。
「禁書庫の古代医学書の一節を筆写しました。これが最後にします。危険を感じています。内容を書き写します」
そして一節が続いていた。
「術野の目:古代医師団の最高位診断スキル。人体・構造物・組織・国家の病を見抜き、最適な処方を示す能力。このスキルの使用者は古代より医師団の長とされてきた」
俺は「国家の病」という言葉で止まった。
(国家の病を診断する)
人体と建物と組織を診てきた。次は国家か。スケールが大きすぎる。しかしガブリエルが言う「古代医師団の最高位スキル」という位置付けは、それを示している。
手紙の最後に「兄上、これは何を意味するのでしょう」と書いてあった。
ガブリエルへ急いで返信を書いた。「安全な場所に移れ。禁書庫への侵入が知られていれば、危険だ。すぐに返信をくれ」
クルトに「今すぐ送ってください」と頼んだ。
翌日、帰郷の準備を始めた。
王都での用件は終わった。鑑定院の判定保留という結果が出た。王太子と話した。侍医を診た。ドレイク家の工作を退けた。
馬車が領地に向かって走り始めた。
クルトが「大変な旅でしたね、若様」と言った。
「そうですか」
「そうですよ。鑑定院に行って、王太子様に会って、ドレイク家も来て」
「慣れました」
「慣れるものじゃないですよ、普通は」とクルトが言った。「……若様はいつも大変なことを慣れたで片付けますね」
「ほかに言い方がないので」
城壁が後ろに遠ざかった。三日後、見慣れた山並みが見えてきた。
(ここに戻ってきた)
胸の中が落ち着いた。王都は大きくて、問題が多くて、疲れた。領地は小さいが、見えている問題と直すべきものが分かっている。
館の前でミリアが待っていた。
「お帰りなさい」
「ただいまです」
ミリアが「見せたいものがあります」と言った。目が明るかった。
「なんですか」
「薬草の新しい調合法を試していました。留守の間に三種類、成功しました」
書斎に入ると、薬草の記録が並んでいた。俺が出かけている間に、ミリアが独自に研究を進めていた。
「これはどういう効果ですか」と俺は一つを指した。
「熱を下げる成分の抽出速度を上げました。通常の半分の時間で同じ効果が出ます」
「それは実用的です」
「あなたがいない間に色々試せました」とミリアが言った。「一人でやると、失敗もしましたが、成功もしました」
「失敗の記録も見せてください。失敗の方が大事なことが書いてあります」
ミリアが「そういうと思いました」と言って別の記録を出した。
二人で記録を見た。一人ではなかった。王都に行っている間も、ここで続いていた。
「ガブリエルから手紙が来ました」と俺は言った。
「どんな内容でしたか」
「古代の文献を筆写してくれました。術野の目が何なのか、少し分かりました」と俺は言った。「それと……危険を感じている、と書いていました」
ミリアが俺を見た。「ガブリエル様は大丈夫ですか」
「返信を送りました。でもまだ返事が来ていません」
数日後、王都の神学院から手紙が来た。「ガブリエル様が行方不明です」と書いてあった。




