第四十九話 二通の手紙
朝、クルトが「お手紙が届いています」と言った。二通あった。
一通はミリアから。一通は母から。
クルトが「お邪魔ですか?」と気を使った。
「いや、いてくれ。人がいる方がいい時がある」
封を開いた。まずミリアの手紙から。
「お母さんの墓に行きました。あなたが言ってくれた言葉を思い出しました。治せたはず、という言葉です。あの時、私は泣いてよいのだと気づきました。私たちが始めていることは、お母さんへの答えでもあると思います。早く戻ってきてください」
俺はしばらく手紙を見ていた。
(ミリアのお母さん。治せたはずの命。前世で俺が救えなかった命も、どこかで同じ言葉を持っている)
外科医として四十二年間、救えた命と救えなかった命の両方を知っている。救えなかった命への後悔は消えない。でもそれが「次の患者を救う」という動力にもなってきた。
ミリアは同じことを言っている。
「私たちが始めていることは、お母さんへの答えでもある」
その通りだと思った。
もう一通を開いた。母ヘンリエッタの手紙だった。
「王都はどうですか。あなたが出発してから、領地が少しずつ変わっています。農民のグスタフさんが『三男様の農法でよく育っている』と言っていました」
それから一行空いて、こう続いていた。
「あなたが産まれた時、私は分かっていました。あなたは普通の赤ちゃんと目が違いました。誰かの魂が宿っている、と思いました。ずっと待っていました、あなたが話してくれるのを。待ち続けます」
俺は手紙から目を上げた。
(産まれた時から、か)
五歳の頃に「目が変わった」と言った母の言葉を思い出していた。でも産まれた時から、という。レオンとして生まれたその時から、母には分かっていた。
それでも一言も言わなかった。十五年間、待ち続けた。
「若様、泣いているんですか?」とクルトが言った。
「目が疲れただけだ」と俺は言った。
クルトが「そうですか」と言った。しばらく間を置いて「……疲れ目ですね」と言った。
「そうだ」
「ミリア様からの手紙は良い内容でしたか?」
「良い内容だった」
「お母上からは」
「……良い内容だった」
俺は返事を書いた。
ミリア宛てには「必ず戻ります。戻ったら一緒に続けましょう」と書いた。それと「お母上の墓に行ってくれて、ありがとう」と一行追加した。
母宛てには「もう少し待ってください。話すべき時が来たら、話します」と書いた。
両方の手紙を封じた。
クルトが「送ります」と持っていった。
部屋に一人になった。
(一人ではなかった。産まれた時から)
母が待っていた。ミリアが続けていた。グスタフ老人が農法を実行していた。
俺が王都で一人で考えている間も、繋がっていた。
翌日の朝、クルトが「ガブリエル様から手紙が届きました」と言った。
「今度は何だ」と思いながら封を開いた。




