第四十四話 前例のないスキル
鑑定院の奥の部屋は、外から見るより広かった。
円形の部屋に五つの椅子が弧を描くように並べられている。俺は中央の椅子に座った。
五人の鑑定士が順番に来た。
最初は建築物担当だった。五十代の男で、目が細かった。長い時間をかけて「術野の目」を観察した。
「検分士の変種のような。しかし精度が桁違いだ」とつぶやいた。「建物の内部構造まで見えているのか?」
「見えます」
「木材の腐食の進行状況は」
「見えます」
「……前例がない」と鑑定士が言った。
二番目は医術関連の鑑定士だった。若い。三十代前半に見えた。俺のスキルを診た後、少し間を置いた。
「人体を見る能力がある。しかし治癒魔法とは全く異なる原理だ。治癒は病変に作用するが、これは診断に特化している。治療機能がない」
「そうです」
「……こういうスキルは、記録にない」
三番目は農業・土壌担当だった。老人で、椅子に座っても背筋が伸びていた。
「土壌分析のスキルとも似ているが、範囲が広すぎる。土だけでなく水も見る。それだけでなく建物も人体も」と言った。「これは一つのスキルなのか? 複合スキルではないのか?」
「鑑定では単一のスキルとして確定しています」
「……そうか。それが問題だ」
四番目は記録担当の鑑定士だった。五人の中で最も静かな人物だった。俺のスキルをしばらく観察した後、一言だけ言った。「組織の構造を見たことは?」
俺は止まった。
(この質問が一番核心に近い)
「あります」と答えた。
鑑定士の顔色が変わった。「どの程度まで見えましたか」
「情報を集めれば、その組織の内部矛盾まで診断できます」
「……」
鑑定士が何か言いかけた。「これは古代の……」と言いかけて、止まった。
「なんですか」と俺は聞いた。
「いえ。失礼しました」と言って、椅子から立った。
五番目は年配の女性の鑑定士だった。全員の調査を見守っていたような立場に見えた。
「総括します」と女性が言った。「前例のないスキル型です。建築・医術・土壌・組織、いずれのカテゴリにも該当しますが、単一のカテゴリでは説明できません。既存の分類基準では対応できないと結論します」
「つまり」
「前例のないスキルです」
ルドルフ博士が部屋の端から進み出た。「……院長に直接報告します」と言った。
調査が終わった。廊下に出ると、頭が重かった。
五人に順番に「見られる」という経験は想定していなかった。「術野の目」で見られている感覚があった。
(外科医は見る側だった。見られる側は、こういう感じか)
クルトが外で待っていた。「長かったですね。大丈夫ですか」
「疲れました」
「中で何があったんですか」
「五人の鑑定士に順番に調べられました。全員が、分からない、という顔になりました」
クルトが「それは良いことですか」と聞いた。
「院長が動くかもしれません。そうであれば良いことです」
宿に戻る途中、「組織の構造を見たことは?」という質問と、「これは古代の……」と言いかけた鑑定士の言葉が頭に残っていた。
(古代の、何だ?)
答えは出なかった。ガブリエルの手紙に「古代医師団のスキル」という記述があったことを思い出した。「古代の……」と言いかけた鑑定士は、それを知っているのかもしれない。




