第三十九話 症状が消える
全70話完結予定です。毎日5話ずつ、12時・15時・18時・21時・23時に投稿します。
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エステルに依頼してから五日後、クルトが来た。
「北の国境が静かになっています。越境兵の報告が、昨日から途絶えました」
俺は何も言わなかった。
(効いたか。まだ断言はできない)
偶然かもしれない。伯爵が別の判断をした可能性もある。ランセル家老が動いたという確証はない。
「もう少し様子を見ましょう」と言った。
三日後、また情報が来た。交易商人の話として「伯爵領で内政の大規模見直しが始まった」という話が流れていると。
「さらに二日後」とクルトが続けて持ってきた。「ランセル家老が伯爵に直接進言したという話が聞こえてきました。詳細は不明ですが、外征の延期が決まったと」
俺は書斎の椅子に座った。
(機能した。間接的だが、確かに機能した)
症状が消えた。病因に直接触れずに、情報を適切な人に届けることで、症状が自然に収まった。手術で言えば、切らずに治った。
父に報告した。
「越境が止まったのはなぜか知っているか」と父が聞いた。「騎士団は動かしていない」
「情報を届けました」と俺は言った。「伯爵領の内部矛盾を、適切な人に知らせました。それだけです」
父がしばらく黙った。
「……医師というのはそういうものか」と父が言った。
「そういうものです。病気を治すのは医師ではなく、体自身です。医師はただ、体が治れるように整える。今回も同じでした」
父がまた黙った。
「レオン」
「はい」
「お前に全て任せる」
俺は一瞬だけ止まった。
(全て、か)
「……ありがとうございます」
「任せるというのは、好きにしていいということではない。責任が増えるということだ。それは分かっているな」
「分かっています」
「良い。引き続き頼む」
父が出て行った。
ヴィルが入れ替わりに来た。「聞いた。うまくいったな」と言った。
「今回は、です」
「ただし」とヴィルが言った。「伯爵が後で『ヴェルディア家が工作した』と知れば、怒るかもしれない」
「その時はその時で診断します」
ヴィルが少し笑った。「その答え方がお前らしい」
ミリアが夕方に来た。報告を聞いていた。「越境が止まった。本当に組織の病も診断できるんですね」と言った。
「情報があれば、できることもあります」
「でも、情報を読む目が必要です。あなたでなければ、あの情報を繋いで診断書にはできなかった」
「ミリアの疫病の記述があったからです。あれが一番効いたと思います」
「そうですか」
ミリアが少し黙った。「……正直に聞いていいですか」
「どうぞ」
「あなたは怖くないんですか。こういうことをしていると、敵が増えていく。調査団も、今回の伯爵も。次に何が来るか分からない」
俺は少し考えた。
「怖い、という感覚は医師の時もありました。手術台の前で、患者の状態が想定より悪かった時。でも怖いから止まるという選択肢は、医師にはありません」
「ここでも同じですか」
「同じです。止まれば、誰かが困ります。それが嫌なので動いています」
ミリアが「……分かりました」と言った。
翌朝、館に見覚えのない紋章の書状が届いた。
王都の紋章だった。
「王立鑑定院院長の名において、ヴェルディア家の三男レオン殿に王都への召喚を命ずる」
父の顔が変わった。ヴィルが「王都か」と言った。
俺は書状を読んだ。
(また、次が来た)




