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48歳元外科医、転生先でハズレスキル『術野の目』を武器に医術なき王国を立て直す  作者: ヲワ・おわり


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第三十七話 矛盾の地図

全70話完結予定です。毎日5話ずつ、12時・15時・18時・21時・23時に投稿します。

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クルトが翌朝また戻ってきた。


「もう少し掘れました」


書斎に三人で集まった。クルト、ミリア、俺。


「伯爵の筆頭家老は、ランセルという老人だそうです。先代の時代から仕えている人物で、外征には一貫して反対しているという噂があります」


「反対派の家老」


「はい。それと、伯爵の次男エドガーという人物が最近発言力を増してきた。内政を優先すべきという考えを持っていて、父の外征路線と対立しているという話です」


俺は手帳に書き込んだ。


「ランセル家老が届け先だ」


「なぜですか」と、ミリアが聞いた。


「外征に反対している人物が、内政崩壊の証拠を持てば、反対する根拠が増える。伯爵を止める論拠が強化される。次男エドガーも内政派だが、若い。家老の方が伯爵への発言力が高いはずです」


「送る文書には何を書くんですか」


俺は考えた。


「三年不作の具体的な数値。疫病の可能性とそのリスク。過剰徴税が民心を失わせているという状況。これを匿名の文書にまとめます」


ミリアが「疫病の可能性について、症状の特徴を加えてはどうですか」と言った。「具体的な医学的根拠があれば、家老が無視できなくなります」


「詳しく」


「疫病には伝播経路があります。もし兵が罹患した状態で外征すれば、帰還した際に領内へ感染が広がる。その一文を入れれば、外征に軍事的なリスクが生まれます。家老が伯爵に進言しやすくなるはずです」


(これは効く)


俺は「採用します」と言った。「その一文を文書に加えてください」


ミリアが「私が書きます」と言って、紙を引き寄せた。


文書の骨子を作った。数値と状況分析と医学的根拠。匿名ではあるが、情報の質が匿名の信頼性を補う。ランセル家老が判断できる人物であれば、送り主が誰であれ内容で動くはずだ。


「誰が届けますか」とヴィルが途中から入ってきた。


「中立の商人に頼みます」


「エステルという人物を知っています」とクルトが言った。「ベルナルディア中央部を拠点に、複数の領を往来している女性商人です。中立で口が堅いと評判です」


「いつ領内に来ますか」


「三日後に来る予定だと聞きました」


ヴィルが「もし失敗したら、伯爵が怒る可能性がある」と言った。


「そうです」


「それでもやるか」


「リスクはあります。ただ、成功すれば被害ゼロで解決できる。失敗しても今と大差ない。騎士団の準備は続けてください」


ヴィルが「分かった」と言った。「三日、待つ」


ミリアが文書を書き終えた。俺が確認した。数値は正確だ。疫病の伝播リスクの記述は具体的だ。匿名でも、これを読んだ家老が動かないはずがない。


「完成です」とミリアが言った。


「ありがとうございます」


「私の知識が役に立てて良かったです」


「ずっと役に立っています」と俺は言った。「最初から」


ミリアが少し黙った。「……それは橋の頃から、ですか」


「ヨハンを診た夜から、です」


三日後、エステルが来る。それまでの間、バルカ村の石材産業の準備を進めることにした。問題を待ちながら別の問題を動かす。それがこの三ヶ月で身についたやり方だった。

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