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48歳元外科医、転生先でハズレスキル『術野の目』を武器に医術なき王国を立て直す  作者: ヲワ・おわり


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第三十六話 上司祭の限界

全70話完結予定です。毎日5話ずつ、12時・15時・18時・21時・23時に投稿します。

ここまで読んで「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

調査団が出発する朝、ヴィクトール上司祭が「最終見解を述べたい」と申し出てきた。


広間に全員が集まった。昨日と同じ席順だった。父が俺の隣に座っていた。


ヴィクトールが書類を開いた。


「今回の調査において、ヴェルディア家の三男レオン殿による無認可の医療行為は確認されなかった。よって今回の件については問題なしと判断する」


父が「ありがとうございます」と言った。


ヴィクトールが続けた。


「ただし」と上司祭が言った。「今後、ヴェルディア家の方々は一切の医療的言及・診断・助言を行わないよう、教会として要請する。これは正式な要請である」


俺は落ち着いて口を開いた。


「具体的にはどのような行為が禁止されるのでしょうか」


「人の病状について語ること。薬を与えること。治療に類する助言一切」とヴィクトールが言った。


「では確認させてください」


俺は続けた。「農地の土壌診断は禁ずるのですか。橋の構造診断は。水源の汚染診断は。これらも医療的助言に含まれるのでしょうか」


ヴィクトールが少し止まった。


「それは……医療行為ではない」


「そうです。ではこれらは今後も行ってよいということでしょうか。この三点については、先ほど仰った禁止事項の対象外という理解でよいですか」


「……それは、禁止事項には含まれない」


「では、具体的にどの行為が禁ずる対象なのかを、書面で明示していただけますか」


広間が静かになった。


ヴィクトールが書記官を見た。書記官が何かを言おうとして、止まった。


(書面で明示するということは、禁止行為の定義を文書化するということだ。それは同時に、文書に書かれていない行為を教会が容認するという意味になる。曖昧な禁止よりもはるかに縛られる)


ヴィクトールは分かっている。その目が分かっていた。


「……今回は口頭での要請に留めます」と上司祭が言った。


「承知しました」


それだけで終わった。


書記官が書き留めをやめた。ガーランド司祭が出口の方を見た。


「以上です」とヴィクトールが言った。「ご協力に感謝します」


「こちらこそ、丁寧な調査をありがとうございました」


一礼して退席した。


廊下を歩きながら、父が横に来た。「お前はどこでそういうことを覚えた」と言った。


「前の仕事で、よく使いました」


「前の仕事、か」と父が言った。それ以上は聞かなかった。


馬車が出発する音がした。調査団が帰っていく。


ガーランド司祭が最後に広間を出た。出口のところで俺を一瞥した。何も言わなかった。「手ごわい」とも「負けた」とも取れる目だった。


ミリアが来た。「終わりましたね」と言った。


「一段落です」


「次はモーランドですね」


「はい」と俺は言った。「今度はモーランドの番です。クルト、エステルとの件、準備を進めておいてください」


「分かりました」


馬車の音が遠くなった。調査団が消えた。広間に光だけが残った。


(一つ終わった。次が始まる)


問題は続く。でも今日だけは、少し落ち着いて考えられる気がした。

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