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48歳元外科医、転生先でハズレスキル『術野の目』を武器に医術なき王国を立て直す  作者: ヲワ・おわり


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第三十四話 北の圧力

全70話完結予定です。毎日5話ずつ、12時・15時・18時・21時・23時に投稿します。

ここまで読んで「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

報告が来たのは夕食の後だった。


「北の国境で、モーランド伯爵の兵が五名越境しました」


騎士の一人が広間に来て言った。父の顔がすっと変わった。


「道に迷ったと言っています。返還を求めますか」


「返せ」と父が言った。「丁重に」


騎士が出て行った。


「二度目だ」とヴィルが言った。「先月もあった。同じ五名、同じ言い訳だった」


「意図的な示威行動か」と父が言った。


「ほぼ確実です。この時期に続けて起きるのは偶然ではない」


父が「騎士団を国境に増員するか」と言った。「五十人出せば、示威には示威で応じられる」


ヴィルが「それが現実的です。軍事的に劣勢と思われると、次は百名で来る可能性があります」


俺は「待ってください」と言った。


二人が振り返った。


「診断させてください。なぜ今、この時期に越境が増えているのか。理由があるはずです。その理由が分からないまま騎士団を増やしても、症状を抑えるだけです」


父が「診断? 軍事問題を診断できるのか」と聞いた。


「人体と同じです」


俺は続けた。「越境行為は症状です。症状の裏に病因がある。病因を特定できれば、症状は自然に収まります。武力で症状を抑えても、病因が残る限り再発します」


父がしばらく俺を見た。


「……病因を特定するのにどのくらいかかる」


「一週間いただけますか。伯爵領の情報を集めます。今そこで何が起きているのかが分かれば、なぜ越境しているかが見えてくるはずです」


ヴィルが「騎士団の準備は進めていいな。情報収集と平行して」と聞いた。


「もちろんです。情報収集はあくまで保険です。万が一、間に合わなければ騎士団で対応してください」


父が「……一週間だけ待とう」と言った。「その間に情報を集めてくれ。結果が出なければ、その後は騎士団を動かす」


「ありがとうございます」


翌朝、クルトを呼んだ。


「モーランド伯爵領に関する情報が欲しいです。領内を行き来している商人から聞けることはありますか」


クルトが少し考えた。「騎士の中に、商人の親族がいる者が何人かいます。伯爵領と取引している商人を辿れるかもしれません」


「一週間以内に何でも集めてください。税収の話、作物の話、噂で構いません」


「分かりました」とクルトが言った。「自分にできることをやります」


クルトが出て行った。


ミリアが「モーランド伯爵というのは、どういう人なのですか」と聞いた。


「会ったことはありません。ただ、二度続けて同じ方法で越境してくる、ということは、今の状況を誰かに見せたい意図があるはずです。誰かに、というのは国王か、周囲の諸侯か、あるいは自分の家臣か」


「自分の家臣に見せるために越境する?」


「内部の問題を抱えているとき、指導者は外に敵を作ることで内部を引き締めようとすることがあります。よくある構造です」


ミリアが「……複雑なんですね」と言った。


「人体と同じです。症状は複数の原因から来ることが多い。一つだけ見ていても分からない」


その日の夕方、クルトが戻ってきた。「商人から聞いた話があります」と言った。「モーランド伯爵領では今年の税が例年より三割高く、商売ができないとこぼしていた商人が三名いたそうです」


「三割」


「はい。三年続けてそれに近い数字だという話でした」


俺は手帳にそれを書いた。


(税が三割高い。三年続けて。それは何かを示している)


「明日も続けてください。疫病の話や、伯爵家の内部の話があれば特に」


クルトが「はい」と言って戻っていった。


一週間の期限が始まった。

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