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48歳元外科医、転生先でハズレスキル『術野の目』を武器に医術なき王国を立て直す  作者: ヲワ・おわり


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第三十三話 村が証言する

全70話完結予定です。毎日5話ずつ、12時・15時・18時・21時・23時に投稿します。

ここまで読んで「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

調査団が出かけた。


馬車三台が朝霧の中を北に向かった。ガーランド司祭も同乗している。俺は門の前で見送った。


「行ってらっしゃいませ」


ヴィクトール上司祭は何も言わなかった。


館に戻った。


(待つ時間が一番きつい)


外科医時代、手術室の外で結果を待つ家族に何を言えばいいか、いつも迷った。自分が術者の側でも、手術が終わって管理が始まってからの待ちは違う重さがある。今日はその感覚と似ていた。


書斎で石材産業の試算を続けた。バルカ村の山の規模から見積もれる採石量、王都への輸送距離、荷車一台あたりの積載量。数字を並べた。頭は動いていた。でも窓の外が気になった。


昼過ぎにミリアが来た。「何か食べますか」と言った。「食べていないでしょう」


「今から食べます」


「今から、というのは今まで食べていないということですね」


「……そうです」


ミリアが「もう、」と言ってパンと干し肉と水を持ってきた。


「クルトは」


「情報収集に出ています。村を回る調査団の動きを、別ルートで確認してくるそうです」


「自分で考えて動いてくれるんですね」


「あなたがそういう人を育てているんです」とミリアが言った。「クルトが書記から情報収集に変わったのは、あなたが『何でも見えたことを言ってくれ』と言ったからだと思います」


俺はパンをかじった。


(人に何かを頼むと、その人が変わっていく。それは気づいていなかった)


夕方、クルトが戻ってきた。


「カーセン村でエルンスト村長が、ダレン村でグスタフ老人が、バルカ村でグレゴリオ様が話を聞かれました。三村とも同じことを言っていたそうです」


「同じこと」


「はい。治癒は一切なかった、と」


クルトが続けた。「エルンスト村長は『水の問題を指摘してもらった。後は自分たちで直した』と。グスタフ老人は『農法を教えてもらった。薬は何も受け取っていない』と。グレゴリオ様は『土の中の水の道を見つけてもらった。工事はボロス棟梁がやった』と言ったそうです」


「ボロスは」


「『私が工事した。若様は目で見えたことを教えてくれた。それだけだ』と言ったそうです」


俺はしばらく何も言わなかった。


(直してきたことが、証言として返ってきた)


橋を直した。水を浄化した。農地の問題を指摘した。薬草の分担を明確にした。水脈を掘り当てた。全部、その通りのことが証言として戻ってきた。


作られた証言ではない。あの人たちが見てきた事実を、そのまま言葉にしたものだ。


「書記官が記録していたそうです。治癒魔法の使用例は一件も見つかっていないと」


「ガーランド司祭は」


クルトが少し間を置いた。「それが……全ての村で、一切の追加質問をしなかったそうです」


「追加質問をしなかった」


「はい。調査団の書記官が村人に聞いている間、ずっと黙っていたと。書記官の方が不思議がっていたそうです。なぜ司祭が黙っているのか、と」


俺はそれを聞いて、少し考えた。


(ガーランド司祭は何かに気づいているかもしれない。この調査が、自分の望む結果に向かっていないことに)


夜、ヴィクトール上司祭が戻ってきた。


「確認できました」と上司祭が言った。「正式な判断は後日通知します」


「ありがとうございます」


上司祭が廊下を歩いて行った。


ミリアが「後日通知、というのは」と小声で聞いた。


「問題なし、という意味だと思います。問題があれば、今夜中に何かを言ってくるはずです」


クルトが「……終わりましたね」と言った。


「一段落です」と俺は言った。「次はモーランド伯爵の問題が待っています」


窓の外は暗かった。北の方角から風が来た。


(直してきた。今日は、それが証言として返ってきた日だった)


外科医として患者が目を開けた瞬間に似ていた。でも今日のはもっと広い。七つの村で積み上げてきたものが、全部繋がって戻ってきた感覚だった。

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