第二十九話 調査団の影
全70話完結予定です。毎日5話ずつ、12時・15時・18時・21時・23時に投稿します。
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公文書は簡潔だった。
「聖ヴァロワ正教会大神殿の名において、ヴェルディア領における無認可医療行為の有無を調査するため、調査団を派遣する。一週間後に到着の予定」
父が「これは公式文書だ。無視できない」と言った。
「分かっています」
「最悪、お前の活動を全て止めることになるかもしれない」と長兄ヴィルが言った。「公の場で問題ありと判断されれば、父上の立場にも影響が出る」
「……記録があります」と俺は言った。
「記録?」とヴィルが聞いた。
「最初から全ての活動を文書化しています。何をどこでなぜ行ったか、全部残っています。医療行為と診断・助言の区別も明記してあります。治癒魔法は一度も使っていません。それが証明できれば問題ないはずです」
父が俺を見た。「……お前はそのために記録をつけていたのか」
「顧問就任時に『全て記録させてください』とお願いしました。何かある時のためです」
ヴィルが「……用意周到だな」と言った。「お前が記録をつけていなければ、今頃かなり危うかった」
「幸い、全部あります。一週間で整理します」
父が「対処できるか」と聞いた。
「できます。事実は全部こちらにあります」
方針が決まった。調査団が来るまでに記録を整理し、説明できる形にする。ミリアにも証言者として協力を頼む。村長や村人の証言も用意する。
夜、書斎で記録を広げた。
ヨハン救命の記録。橋の診断報告書。水源浄化の経緯と結果。農地診断の記録。薬草調合の分担記録。全部ある。
(準備は十分だ)
父が認めてくれている。ミリアが一緒にいる。村人が証言できる。記録がある。
「一つで欠けていたら危なかった」と俺は思った。「全部が揃っているから、動ける」
翌日、ミリアに話した。
「私も証言できます」と即答した。「薬草調合は私が行った。診断と薬の提供が別の行為であることも説明できます。私が証言すれば、あなたが医療行為を行っていないことの裏付けになる」
「ありがとうございます」
「当たり前です」とミリアが言った。
村長のエルンストにも連絡した。「もし調査団が村を訪れた際に、実際に何が行われたか正直に話してください」と頼んだ。エルンストが「あんたたちがやったことは見てきた。嘘はつかない」と言った。
ボロスにも同じことを頼んだ。「橋の件で俺が証言する。工事前と工事後の状態は、俺が一番よく知っている」と言った。
記録を整理しながら、俺は夜の窓から外を見た。
一週間後に調査団が来る。でも直すべきことは止まらない。バルカ村の石材産業の準備も、進めなければならない。
(恐れながら進む。それだけだ)




