第二十八話 石の可能性
全70話完結予定です。毎日5話ずつ、12時・15時・18時・21時・23時に投稿します。
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水が戻った翌日、村の周辺を歩いた。
「終わった」という感覚がある。でも医師は術後管理を怠らない。「直した後」に何が必要かを考えるのも、治療の一部だ。
バルカ村に水が戻っても、若者がいなければ村は維持できない。老人と子供だけでは、農地も維持できない。若者が戻る理由を作る必要があった。
山肌を歩いていると、斜面の一部に露出した石があった。
(何だ、この石は)
「術野の目」でその石を診た。白みがかった質感、比較的均一な組成。砂岩の一種だった。
これは、建材として価値がある石だ。
前世で医療施設の建設に関わった際に石材の知識を少し学んだことがあった。この質の砂岩は、加工しやすく、耐久性も一定ある。王都の建築に使われているものと近い成分だと感じた。
グレゴリオを呼んだ。
「この山から昔、石を切り出したことはありますか」
グレゴリオが「ありましたよ」と言った。「もう三十年以上前のことだが、この山の石を切り出して売っていた時期があった」
「なぜ止まったのですか」
「採算が合わないと言われて。王都まで運ぶ道が悪くて、運搬費で利益が消えてしまうと」
「道が悪かったから」
「そうです。山道を荷車で通れなかった。当時は」
俺は手帳に「道が悪かった」と書いた。そして、「セイル村の道が修繕された」という記録を思い出した。
「セイル村の道は、今年補修されました。荷車が通れるようになっています」
グレゴリオがゆっくり頷いた。「……それは、つまり」
「道が直ったなら、石材の輸送が可能になるかもしれません。採算が変わる可能性があります」
グレゴリオが山を見上げた。「……若い頃に石切りをしていた仲間がいる。今は別の村に移ってしまっているが、呼び戻せるかもしれない」
若者が戻る理由、という言葉が頭に戻ってきた。
「石切りの仕事があれば、若者が来る理由になる可能性があります」と俺は言った。
その日の夕方、馬車で館に戻り、父に報告した。
「バルカ村の山に石材産業の可能性があります。道が修繕されたことで採算が変わった。試験的に採石を始めてもよいでしょうか」
父が少し笑った。「お前が言うなら試してみよう」と即答した。
「可能性があります、という段階です。確実ではありません」
「分かっている。お前がそこまで言うなら、価値がある話だということくらいは分かった」
ミリアが「石切りで薬草群落が壊れないよう、工事の設計に口を出させてください」と言った。
「もちろんです。バルカ村の薬草は価値が高い。守りながら進めます」
父が書類に何かを書き込み始めた。手が早い。石材産業の試験実施を正式承認する書類だった。
その夜、書斎で石材産業の試算をまとめながら、ふと思った。
セイル村の道を直した時、俺はバルカ村のことを考えていなかった。でも、その道が巡り巡ってバルカ村の可能性を開いた。
直したものは、思わぬ場所で繋がっていた。
そこに玄関から父の声が聞こえた。「レオン、来てくれ」
「どうしましたか」
「大神殿から公文書が届いた。調査団を派遣する、という内容だ」




