第二十六話 来なかった理由
全70話完結予定です。毎日5話ずつ、12時・15時・18時・21時・23時に投稿します。
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工事四日目の昼過ぎ、ミリアが「少し話していいですか」と言った。
「バルカ村の問題とは別の話で」
「もちろんです」
川辺の石に座って、二人で話した。
「お母さんのことです。もう少し詳しく話したかったことがあって」
「聞かせてください」
ミリアが少し間を置いた。
「教会に頼んだのですが、『寄付が少ない家には対応できない』と言われました。それが理由で来なかったんです」
「……そうですか」
「『神の御心に委ねよ』という言葉だけいただいて、帰っていただきました。お金のある家には治癒魔法で対応するのに、うちには来ない。父は薬草師です。大きな収入はない。だから」
俺は黙って聞いた。
「来られなかった、じゃないんです。来なかったんです。そこが……ずっと引っかかっていて」
「来られなかったのではなく、来なかったのです」と俺は言った。
ミリアが俺を見た。
「そうです。事実として、来なかったんです。来られなかった、という言い方は相手に理由を作ってしまう。来なかった、というのが正確です」
「……そうですよね。分かっていました。でも誰かに言ってもらわないと、整理できなかった」
「怒っていますか」
「怒っています」とミリアは言った。はっきりと。「ずっと怒っています。でも怒っても仕方ないから、薬草師になりました。自分でできることをしようと思って」
「その怒りは正しい」
ミリアが顔を上げた。
「仕方があります」と俺は続けた。「怒りは正しい怒りです。お金がある人だけが命を助けてもらえる、それは間違っている。仕方ないで終わらせなくていい。私たちが、お金がなくても診られる方法を作れれば」
「でも、できますか。そんなことが」
「今すぐはできません。でも、できる方向に動くことはできます。それが今やっていることです」
ミリアが川を見た。水の音が続いていた。
「あなたと一緒にいれば、何かできる気がします」とミリアが言った。「最初にそう思いました。直せるものを直していく、という感覚が、あなたと一緒にいると本物だと思える」
「力を貸してもらえると助かります」
「もうずっと貸しています」とミリアが言った。その声に、微笑みが滲んでいた。
川の向こうで、工事の音が続いていた。
「明日で工事が終わる予定です」とボロスが午後に報告に来た。
「いよいよですね」とミリアが言った。グレゴリオの顔が頭に浮かんだ。
「明日は早起きしよう」と俺は言った。
「私も来ます」とミリアが即答した。




