第二十五話 禁書の断片
全70話完結予定です。毎日5話ずつ、12時・15時・18時・21時・23時に投稿します。
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工事三日目の朝、クルトが「若様、手紙が届きました」と言った。
ガブリエルからだった。封を開けた。
「兄上へ。禁書庫で見つけた。古代医師団のスキル名は『術野の目』だった」
俺は手紙を持ったまま、工事現場から少し離れた木陰に行った。
続きを読んだ。
「禁書庫の古代医師団の記録に、彼らのスキル名が『術野の目』と記載されていた。また三百年前に当時の大神殿が彼らを異端として処刑した記録もあった。私はこれが兄上のスキルと同一ではないかと思っている。もし危険な情報なら捨ててほしい。ただ、知っていてほしかった。ガブリエルより」
俺はしばらく木に寄りかかって、手紙を持ったままでいた。
(三百年前に処刑された医師たちが、俺と同じスキルを持っていた)
「術野の目」という名前は、鑑定の儀で「検分士」と判定された。でもこの名前はずっと俺の中にあった。自分のスキルを心の中で呼ぶとき、「術野の目」と呼んでいた。それが古代の医師団の正式なスキル名だった。
外科手術の術野。俺が四十二年間、手術台の上で使い続けた言葉だ。
(なぜ俺が今この時代に、このスキルで転生したのか)
答えは分からなかった。分かろうとすることが正しいのかも分からなかった。
ミリアが近づいてきた。
「何かありましたか」
「少し、大事な手紙でした」と俺は言った。「ガブリエルから」
「内容は話せますか」
「……俺のスキルが、三百年前に存在した医師たちと同じスキルだったかもしれない、という情報がありました」
ミリアが目を丸くした。「つまり、あなたのスキルは昔の偉い医師たちと同じもの?」
「そうかもしれない。確認できるわけではありませんが」
「怖いですか?」
「……少し。でも、だからといって直すのをやめる気にはなれません」
「それがあなたらしい」とミリアが言った。
「ガブリエルには禁書庫に近づくなと書きます。これ以上踏み込むと危ない」
「でも弟さんはもう踏み込んでいるかもしれません」
「分かっています。だから急いで書く」
返信を書いた。「禁書庫にはもう近づくな。十分だ。お前が調べてくれたことは大事な情報になった。ありがとう。ただし今後は身の安全を最優先にしてくれ。兄より」
封をしながら、工事の音を聞いていた。
ボロスが若手職人に指示を出している声。クルトが土砂を運ぶ音。それらが続いていた。レオンが少し抜けていても、チームは動いていた。
(古代の医師団も、俺と同じことをしたかった。直したかった。それで処刑された)
「直す」という行為が、この世界では危険なことなのかもしれない。でも外科医が手術台を降りないように、俺にも止まれない理由があった。
「工事の進捗を確認しに行きましょう」とミリアが言った。
「そうします」




