第十七話 領地診断書
全70話完結予定です。毎日5話ずつ、12時・15時・18時・21時・23時に投稿します。
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クルトと二日かけて書いた書類が、ようやく完成した。
十ページほどの冊子になった。表紙に「ヴェルディア子爵領・第一次診断報告書」と書いた。自分で苦笑いした。病院の術前記録と同じタイトルの付け方になった。
内容は四つの分野に分けた。「農地」「水源」「建物・道路」「住民の健康」。それぞれの村ごとに問題・優先順位・推定費用・解決見込み時期・期待効果を記した。
村ごとの問題が一覧になっていると、全体像が見えた。
父アルベルトと長兄ヴィルに書類を提出した。
二人が並んで読んだ。父が先に読み終えた。次にヴィルが。
「……これほど広く問題があったとは」と父が言った。
「一度に全部は直せません。優先順位通りに進めれば、三年で大半は解決できます」
「費用はかなりかかるな」とヴィルが言った。「全部は一度にできない」
「分かっています。最優先はフォード村の井戸です。健康被害が直接出ています。次がエルン村の屋根、冬前に崩落する可能性があります。その次がダレン村の輪作試験。費用対効果が長期で最も高い投資になります」
ヴィルが「バルカ村は」と聞いた。
「最重要課題です。ただし他とは難易度が段違いなので、別途議論が必要です。今日は見積もりの対象に入れていません」
「なぜ」
「費用の問題ではなく、構造の問題です。もう少し調査が必要です」
ヴィルが頷いた。「合理的だ」
父が書類の最後のページを閉じた。「この書類、家臣全員に配りたい。よいか」
「もちろんです。それが目的で書きました。俺が知っていても、動けるのは俺一人です。家臣が共有すれば組織で動けます」
父が俺を見た。「レオン、お前はいつからこういう仕事の仕方を覚えた」
「……自然に覚えました」
父は追求しなかった。「分かった」とだけ言った。
ヨハンが「クルトも大変よく手伝いました」と言った。
クルトが「書き直しばかりで……でも完成しました」と言った。表情が引き締まっていた。
家臣への配布が決まった翌日、ガーランド司祭から書状が届いた。
「再び領主館を訪問したい」という内容だった。
「前回より緊張感があります」とヨハンが言った。封筒の端が少し堅い折り方をされていた。
「何を言われるか、予想しておこう」と俺は言った。
「何が来ると思いますか」とミリアが聞いた。
「水の浄化や農地の話は問題ないとして、薬草剤の配布が引っかかるかもしれません。あれは治癒行為に近いと解釈されると、教会の領分に踏み込んだことになる」
「でも私が調合したのです。私は薬草師見習いで、貴族でも聖職者でもない」
「その点は盾になります。俺が薬を渡したわけではない。ミリアさんが薬草師として置いていった」
ミリアが「それは正しい解釈ですね」と頷いた。
俺は窓から外を見た。秋が深くなってきていた。
「攻めてくるなら、事実で返す。それだけです」




