第十六話 三村の診断
全70話完結予定です。毎日5話ずつ、12時・15時・18時・21時・23時に投稿します。
ここまで読んで「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。
前日、ミリアがフォード村に薬草剤を届けてきた。「村長がお礼を言っていました」と報告してくれた。
エルン村、セイル村、マルタ村。三村を一日で回る計画を立てた。
「一日で三村は急ぎすぎませんか」とミリアが出発前に言った。
「全部を詳しく診るわけではありません。今日は『初診』です。緊急かどうかを判断するだけでいい」
外科手術でいえば、開腹前の全体評価だ。一度に全部直そうとせず、まず「何が一番危ないか」を確認する。
エルン村は最初から分かりやすかった。
村の中央にある集会所の屋根を見た瞬間、「術野の目」が強く反応した。木の骨組みが内側から腐食していた。表面の板は生きているが、骨組みが空洞に近い部分がある。
「この屋根は今冬は越せません。雪が積もれば崩れます」と俺は言った。
「え、でも去年も雪が積もりましたが」と村の古老が言った。
「去年は運が良かった。今年は運を頼らない方がいい。ボロス棟梁を早急に呼んでください。冬前に補修しないと」
古老が青ざめた。
セイル村は別の問題だった。
村の主要道路の一部が、歩くとわずかに沈む感覚があった。ミリアが「あれ、道が傾いていますよ」と気づいた。
「術野の目」で地盤を診ると、道の下に水が溜まっていた。粘土質の土壌の上に砂利を敷いただけで作られた道で、地下水が上がってきて地盤が緩んでいた。
「荷車が通ると、そのうち沈みます。部分的に土台から作り直す必要があります。ただし緊急性はエルン村の屋根より低い」
クルトが手帳に「セイル村道路・中優先・土台工事」と書いた。
マルタ村の橋は小さかった。
カーセン村で直した橋の半分ほどのサイズだが、傾きが出ていた。「術野の目」で見ると基礎部分のずれが確認された。補強で対処可能な範囲だった。
「これはボロス棟梁のチームで直せます。エルン村の屋根の次で問題ありません」
三村を回り終えて、ボロスのところへ行った。
「三件まとめて頼みたい。優先順位はこの通りです」と俺は手書きの計画書を渡した。
ボロスが計画書をじっくり読んだ。
「エルン村の屋根が最重要か」
「冬前に崩れる可能性があります」
「……確かにな。去年から気にはなっていたが、誰も言わないから」
「気になっていたんですか」
ボロスが唇の端を上げた。「職人は見えている。ただ動かないだけだ。誰かが声を上げないと」
「ではボロス棟梁が声を上げていただければ」
「あんたが声を上げるから俺は動ける。逆だ」
俺は笑った。ボロスも、珍しく口角を少し上げた。
「三件まとめてか。うちの職人を二人育てれば、同時進行できる。あの橋の工事からもう半年、育ちました」
「それは助かります。書き留めておきます」
クルトが「若様はいつから大工の棟梁になったんですか」と言った。
「なっていません」
「でも計画書は棟梁みたいです」
ボロスが「この子は良いことを言う」と言った。
三村の工事計画が動き始めた。あとはバルカ村だけが残っていた。




