第十四話 目に見えない毒
全70話完結予定です。毎日5話ずつ、12時・15時・18時・21時・23時に投稿します。
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フォード村の村長は温厚な男だった。
「腹は痛まないんですが、頭が痛くて、目がかすむ人が多くて。毎年のことなんですが」と言いながら俺たちを案内してくれた。
「毎年、同じ季節に?」と俺が聞いた。
「いえ、年中です。特に年寄りに多い。私も最近は頭がぼんやりして」
腹痛とは違うパターンだ。俺は村の古井戸に向かった。
井戸の周辺を見た。石組みが古い。土台部分の石に亀裂が走っている。「術野の目」を使うと、亀裂の隙間から土壌が染み込んでいる経路が見えた。
(土壌成分か。色が赤みがかっている。鉛に近い金属が含まれている地層……)
水源汚染というより、土壌汚染だった。カーセン村の腐敗物による急性汚染とは種類が違う。こちらは微量が長年にわたって蓄積する、慢性中毒だ。
「この井戸の石組みに亀裂があります。その隙間から、土の中の金属が水に少しずつ溶け出しています」と俺は村長に言った。
「金属?」
「目に見えない小さな粒が、長い時間をかけて体に溜まっていく。頭痛や目のかすみは、そのせいかもしれません」
村長が「そんなことが……」と言葉を失った。
「でも体が出そうとする力があります。飲み水を変えれば、時間と共に回復します」
「飲み水を変えるには、井戸を直さないと」
「石組みを完全にやり直すか、汚染されていない場所に新しい井戸を掘るかです。ボロス棟梁に相談すれば、費用の見積もりを出してもらえます」
「費用が……」と村長が顔をくもらせた。
「一度に全額は難しいかもしれません。その場合は仮設の水汲み場所を確保しながら、段階的に対処することも考えられます」
隣でミリアが「この村の薬草が弱いのも、もしかして土壌の影響かもしれません」と言った。
「その可能性があります」と俺は頷いた。「金属が多い土壌では、薬草の有効成分が変質することがあります」
ミリアが「なるほど……だからここの薬草は効能が薄かった」と呟いた。
護衛のクルトが「俺もここの出身の友人がいます。頭痛が続いていると聞いていました。そういうことだったんですね」と静かに言った。
その言葉に、俺は少し胸が重くなった。
こういう問題は個人の話ではなく、構造の問題だ。一人の頭痛が「毎年のこと」と片付けられる間、誰もが少しずつ壊れていく。「慣れれば大丈夫」という言葉が、一番怖い。
「今すぐ全部は解決できません」と俺は村長に言った。「でも、まず飲み水だけは別の水源から汲むようにしてください。川の上流の、石組みのない場所から。沸かして飲む。それだけで、少し症状が和らぐはずです」
「分かった……試してみます」
帰り道、クルトが「若様、俺にも何かできることはありますか」と言った。
「今日は書き留めてくれた。それが一番助かっています」
「それだけですか」
「フォード村の井戸工事の段取りで、ボロス棟梁への連絡係になってもらえますか。俺は各村を回りながらでは一箇所に長く居られないので」
クルトが「承りました」と答えた。その声に、少し張りが出た。
次は三村を一気に診る予定だった。




