表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48歳元外科医、転生先でハズレスキル『術野の目』を武器に医術なき王国を立て直す  作者: ヲワ・おわり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/64

第十二話 先祖代々の農法

全70話完結予定です。毎日5話ずつ、12時・15時・18時・21時・23時に投稿します。

ここまで読んで「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

ダレン村の畑に立ったとき、土を「術野の目」で見るまでもなく、疲弊の色が分かった。


表土が浅い。乾燥している。同じ場所に同じ作物を何年も植え続けた土の色だ。前世で農業に詳しかったわけではないが、消化器外科医として患者の体を診続けてきた目には、「枯渇した組織」がどう見えるかが分かる。農地の土も、違わなかった。


「輪作という方法があります」と俺は村人に言った。「同じ畑に同じ作物を植え続けると、土が特定の栄養分を吸い尽くして疲れます。別の種類の作物を一年おきに植えると、土が回復します」


「聞くな」


怒鳴り声が飛んできた。


ルーカスという五十代の農夫だった。日焼けした顔が赤くなっていた。


「先祖代々この方法でやってきた。よそ者の子供に何が分かる」


俺はルーカスを見た。


怒鳴り声は、怒りより先に恐怖がある。この人は「変えること」が怖いのだ。変えて失敗したら、という恐怖だ。


「強制するつもりはありません」と俺は言った。「ただ一つだけ聞かせてください」


「何だ」


「去年の収穫は、一昨年より多かったですか。少なかったですか」


ルーカスが口をつぐんだ。


「……少なかった」


「五年前は?」


「……少なかった」


「十年前と比べたら」


ルーカスが地面を見た。「……ずっと、少しずつ減っている」


「土が疲れているのです。同じ畑に同じ作物を植え続けたから。先祖代々の農法が間違いだと言っているのではありません。土が変化した、ということです」


ルーカスが黙った。


「全部変える必要はありません。一区画だけ、違う作物を試してみませんか。失敗しても一部だけの損で済みます」


長い沈黙だった。


ミリアが横で黙って見ていた。介入せず、ただ見ていた。


「……一区画だけなら」とルーカスが言った。「失敗したらどうする」


「その時は俺が責任を持って、元通りにできる方法を考えます」


「……約束できるか」


「できます」


ルーカスが鼻を鳴らした。それ以上は言わなかった。


村長代理の老人が「一区画なら試してみる価値はある」と後押しした。


帰り道、ミリアが言った。


「あなたは説得が上手ですね」


「上手というより、経験則です。怒鳴る人を正面から押し返しても、怒りが増すだけです。怒りの奥にある不安に触れる方が早い」


「どこで覚えたのですか」


「……人を診ていると、自然に分かってきます」


ミリアが少し首を傾げた。「人を診る、というのは薬草師とは違う意味で使っていますよね、あなたは」


「気のせいですよ」


ミリアが「そうですか」と言ったが、その目は納得していなかった。


村の端で、老人が声をかけてきた。


「若様、少し話を聞いてくれませんか。この村のことを一番よく知っているのは、私かもしれません」


グスタフ、という名の八十代の老人だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ