第十二話 先祖代々の農法
全70話完結予定です。毎日5話ずつ、12時・15時・18時・21時・23時に投稿します。
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ダレン村の畑に立ったとき、土を「術野の目」で見るまでもなく、疲弊の色が分かった。
表土が浅い。乾燥している。同じ場所に同じ作物を何年も植え続けた土の色だ。前世で農業に詳しかったわけではないが、消化器外科医として患者の体を診続けてきた目には、「枯渇した組織」がどう見えるかが分かる。農地の土も、違わなかった。
「輪作という方法があります」と俺は村人に言った。「同じ畑に同じ作物を植え続けると、土が特定の栄養分を吸い尽くして疲れます。別の種類の作物を一年おきに植えると、土が回復します」
「聞くな」
怒鳴り声が飛んできた。
ルーカスという五十代の農夫だった。日焼けした顔が赤くなっていた。
「先祖代々この方法でやってきた。よそ者の子供に何が分かる」
俺はルーカスを見た。
怒鳴り声は、怒りより先に恐怖がある。この人は「変えること」が怖いのだ。変えて失敗したら、という恐怖だ。
「強制するつもりはありません」と俺は言った。「ただ一つだけ聞かせてください」
「何だ」
「去年の収穫は、一昨年より多かったですか。少なかったですか」
ルーカスが口をつぐんだ。
「……少なかった」
「五年前は?」
「……少なかった」
「十年前と比べたら」
ルーカスが地面を見た。「……ずっと、少しずつ減っている」
「土が疲れているのです。同じ畑に同じ作物を植え続けたから。先祖代々の農法が間違いだと言っているのではありません。土が変化した、ということです」
ルーカスが黙った。
「全部変える必要はありません。一区画だけ、違う作物を試してみませんか。失敗しても一部だけの損で済みます」
長い沈黙だった。
ミリアが横で黙って見ていた。介入せず、ただ見ていた。
「……一区画だけなら」とルーカスが言った。「失敗したらどうする」
「その時は俺が責任を持って、元通りにできる方法を考えます」
「……約束できるか」
「できます」
ルーカスが鼻を鳴らした。それ以上は言わなかった。
村長代理の老人が「一区画なら試してみる価値はある」と後押しした。
帰り道、ミリアが言った。
「あなたは説得が上手ですね」
「上手というより、経験則です。怒鳴る人を正面から押し返しても、怒りが増すだけです。怒りの奥にある不安に触れる方が早い」
「どこで覚えたのですか」
「……人を診ていると、自然に分かってきます」
ミリアが少し首を傾げた。「人を診る、というのは薬草師とは違う意味で使っていますよね、あなたは」
「気のせいですよ」
ミリアが「そうですか」と言ったが、その目は納得していなかった。
村の端で、老人が声をかけてきた。
「若様、少し話を聞いてくれませんか。この村のことを一番よく知っているのは、私かもしれません」
グスタフ、という名の八十代の老人だった。




