第十一話 領地という患者
全70話完結予定です。毎日5話ずつ、12時・15時・18時・21時・23時に投稿します。
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「全部で七つ、村があります」
父アルベルトが地図を広げた。手描きの略図で、位置関係だけが描かれている。
「一週間かけて全部見てきます」とレオンは言った。「カーセン村を基準点にして、他の村との比較をします」
「ミリアさんが同行する、と言っていたが」
「薬草の産地確認も兼ねているそうです。助かります」
父が頷いた。「護衛を一人つける。クルトを」
クルトは二十五歳の若い騎士だった。がっしりした体格で、口数が少ない。「坊ちゃんの護衛を仰せつかりました」と頭を下げたが、「坊ちゃん」という呼び方には内心で少し苦笑した。
「よろしく、クルト。記録を書くのを手伝ってもらえますか」
「……書記、ですか」
「見た問題を、すぐに書き留めていきたい。俺は歩きながら口で言うから、クルトが書いてくれれば助かる」
クルトが少し困った顔をした。が、「分かりました」と言った。
三人でカーセン村から視察を始めた。
一週間前に解決した水源問題の現状確認から入る。水源を「術野の目」で見ると、汚染の靄はほぼ消えていた。沸かす習慣も定着している。
「カーセン村は基準です。ここと他の村を比べます」
次にダレン村、フォード村、エルン村、セイル村、マルタ村を順に回った。カーセン村の解決後との違いが分かりやすかった。
農地の土の色、屋根の状態、水源の質、住人の顔色。「術野の目」を使うまでもなく、目に見える問題が多かった。術野の目で診ると、さらに深いところの問題も浮かぶ。
ミリアが横で「この村の薬草は水不足で弱っています。土が乾いている」「あの村の土壌は薬草に向いている」と補足を加えていった。
クルトが手帳に、俺の口述をもくもくと書き留めていた。字が丁寧だった。
三日かけて六村を見た。
問題を分類すると、「農地」「水」「建物」「人の健康」の四つに整理できた。どの村も複数の問題を抱えていたが、緊急性はバラバラだった。
「全部一度には無理だ」と俺は言った。「優先順位を決めます」
「三つの基準は?」とミリアが聞いた。
「緊急性・費用・効果の継続性です。直しても一年で元に戻るものより、一度直せば長く持つものを優先する。治療の優先順位を決める方法と同じで、重篤なものから先に手を打つ、という考え方です」
ミリアが「なるほど」と頷いた。クルトが「優先順位……書き留めました」と言った。
「それで構いません」
七村のうち最後のバルカ村だけは、遠くて今日は行けなかった。
館に戻って手帳を整理した。
カーセン村と他の六村を比較すると、解決後の変化が数字として見えた。「直せば変わる。変わった場所と変わっていない場所が、これだけ違う」
(外科手術で患部を取り除いた後と前で、患者がどれだけ変わるか。医師が一番知っている)
手帳を閉じて、窓の外を見た。
七番目の村に、まだ行けていない。




