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「絶対にヨリを戻したい元カノ義妹でヒロインは確定済み……のはずが、クールな幼馴染とウザい後輩が修羅場を加速させる」  作者: KANI_CRAB
第四巻 均衡を壊す第四のピース

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第31話 理性崩壊の擬似ハーレム

田舎から帰ってきた日の夜、はある決意をする。


もう逃げない、と。


考えがまとまったからではない――むしろ、まとまらないからだ。分からないのなら、もう考えるのはやめる。とにかく前に進み、行けるところまで行く。少なくとも、これ以上彼女たちを心配させず、待たせず、逃げる背中を見せることだけはしない。


朔は、彼女たち三人とともにいることを決意する。


それはとても勇敢な決意だ。


だが残念なことに、その勇敢さは十二時間ももたない。


月曜の朝、校門をくぐりながら、朔は心の中で何度も唱える。「今日は普通に。普通にするんだ。普通の人間のように」


教室に入り、鞄を置いて席につく。窓の外は日差しが心地よく、空気も澄んでいて、すべてがごく普通だ。


そして、足音が聞こえてくる。


一人ではない――二人の足音。一つは軽快で、もう一つは落ち着いている。一人はウサギのように跳ね、もう一人は猫のように歩く。


陽葵と結月が同時に教室の入り口に姿を見せる。


「先輩!おはようございます!」飛び込んできた陽葵の金髪が、朝の光の中で燃える炎のように揺れる。今日はサイドテールにしていて、毛先には赤いリボン、制服の襟元にはウサギのブローチをつけている。


「おはよ」後ろから続く結月は優雅な足取りで、手には缶コーヒーを二つ持っている。制服姿だが、襟元のリボンはいつもより少し緩めで、鎖骨がわずかに覗く絶妙なバランスだ。下ろした髪は毛先が少し巻かれていて、日差しを受けて柔らかな光を放つ。


「先輩、これどうぞ!」陽葵が鞄からピンク色の弁当箱を取り出し、朔の机に置く。


「今日のお弁当は特製です!愛情たっぷりですよ!」


「弁当なんて頼んでないぞ」


「私が勝手に作ったんです!」


朔は弁当箱と陽葵を交互に見る。


陽葵の目はキラキラと輝き、「早く開けて開けて」と訴えかけているようだ。


朔はため息をつき、弁当箱を開ける。


中身はエビフライ、卵焼き、ミニトマト、そして海苔でハート型に切られたおにぎり。エビフライもハートの形に並べられ、卵焼きには『好き』の二文字が書かれている。


「……弁当に字を書くのか?」


「はい!そうすれば、先輩が食べる時に私の気持ちが伝わりますから!」


「食べる時に字は消えるだろ」


「でも、先輩の心からは消えません!」


結月が歩み寄り、缶コーヒーを一つ朔の机に置く。


「これ飲んで」と彼女は言う。


「好きなやつでしょ」


朔はコーヒーに目を落とす――高めの缶コーヒーで、微糖。普段はもったいなくて買えないやつだ。


「ありがとう」


結月はこくりと頷いて自分の席に座り、陽葵は手を振りながら自分のクラスへと戻っていく。


結月の席は朔の二列前。朔の角度からは、彼女の横顔と肩に落ちる髪が見える。


すべてが、ごく普通だ。


だが朔は、何かが違うと感じる。


彼女たちが変わったわけではない。


変わったのは自分の方だ。


心拍数が、以前より早くなっている。




午前の一時間目、朔は授業を聞いている。


先生が黒板に数式を書き、朔がノートに写す。すべてが普通だ。


その時、背中に何かが当たるのを感じる。


指ではない――ペンだ。


誰かがペンで、背中をそっとなぞっている。


朔は後ろを振り向く。


二列後ろに座る結月は、うつむいて教科書を読んでいる。表情は平然としていて、何もしていないかのようだ。


だが朔の目には、彼女の手にあるペンのキャップが外されているのが見える。


彼女がペンで突いたのだ。


朔は前を向き直す。


また、ツンと突かれる。


再び振り向く。


結月は相変わらずうつむいて教科書を読んでいる。


「なんで突くんだよ」


結月が顔を上げ、灰色の瞳で彼を見つめる。


「してない」


「しただろ。二回も突いた」


「ペンがうっかり当たったのかも」


「お前のペンは『うっかり』二回も当たるのか?」


「当たる」


朔は彼女を三秒見つめ、前を向く。


また、ツン。


今度はもう振り向かない。


振り向いても無駄だと分かっているからだ。彼女は絶対に認めない。


しかし背中の突かれた部分に、妙な感覚が残る――痛みではない、くすぐったさだ。心の中までくすぐられるような。




昼休み、朔は美術室へ向かう準備をする。


静寂が必要だ。冷静になるために、詩織が醸し出すあの静かな、言葉を必要としない空間が欲しい。


しかし教室を出ようとした時、陽葵が入り口を塞ぐ。


「先輩!お昼休みです!一緒にお弁当食べましょう!」


「美術室で食べるよ」


「じゃあ私も美術室に行きます!」


「美術室は食堂じゃないぞ」


「でも詩織先輩は毎日そこで食べてるじゃないですか!」


言い負かされた朔は、仕方なく二人で美術室へ向かう。


美術室のドアは半開きになっている。北窓から差し込む光が、空中に斜めの光の柱を描き出す。その中で、埃がゆっくりと舞っている。


詩織はイーゼルの前に座り、手に筆を持っている。足音を聞いても、彼女は振り向かない。


「来たの?」


「ああ」


「一人連れてる」


陽葵が朔の後ろから顔を出す。


「詩織先輩!私も来ました!」


「うん」詩織は筆を置き、振り返って陽葵と朔を見る。「座って」


朔が窓際の椅子に座ると、陽葵もその隣に座る。


詩織は棚から座布団を二枚出して床に置き、再びイーゼルの前に座る。


三人。


静寂。


だがその静寂は、以前とは違う。


以前の静寂は『それぞれが自分のことをしている』静寂。今の静寂は『みんなが同じことを考えている』静寂だ。


何を?


朔には分からない。


しかし、感じることはできる。


陽葵が弁当箱を開け、エビフライを一つ挟んで朔の口元に運ぶ。


「先輩、口開けてください。あーん」


朔はエビフライと陽葵を交互に見る。


「自分で食べる」


「だめです!私が作ったんですから、私が食べさせます!」


朔はちらりと詩織を見る。詩織は絵を描いていて、こちらを見ていない。だが、彼女の筆が少しだけ止まる。


朔は口を開け、エビフライをかじる。


サクサクしていて、とても美味しい。


「美味しいですか?」


「美味しい」


「よかった!」


陽葵は笑い、また別のおかずを挟む。「もう一口!」


「自分で――」


「あーん!」


朔はまた食べる。


三口目。


四口目。


五口目。


あっという間に、朔は弁当の半分以上を平らげてしまう。


「陽葵、もう食えない」


「あと最後の一口です!ほら、あーん」


朔は口を開ける。


今度は、エビフライではない。


陽葵の指だ。


彼女はうっかり、自分の指まで朔の口に突っ込んでしまったのだ。


温かくて、ほんのり塩味がする。


朔は固まる。


「せ、先輩っ――横に人がいるんですから、こういうのは二人きりの時にしましょうよぉ――」


陽葵の顔は茹でダコのように真っ赤になり、手を引っ込めようとするが、朔の歯はまだ彼女の指を軽くくわえたままだ。


朔は歯を離す。


陽葵は手を引っ込め、背中に隠してうつむく。耳まで血が滲みそうなほど赤い。


「わ、私、ちょっとお手洗いに行ってきます!」


彼女は走り去っていく。朔の理解では、この子はおそらくもう戻ってこないだろう。おそらく。


「得意でもないのに、何でバカなことを……」


美術室には、朔と詩織だけが残される。


「浅倉くん」


「なんだ?」


「顔、赤いよ」


「……日差しのせいだ」


「外は曇りだけど」


朔は口をつぐむ。


詩織は筆を置き、立ち上がって朔の前に歩み寄る。


「浅倉くん」


「なんだ?」


「私にも、できるよ」


「何が?」


詩織は答えない。彼女はそっと、朔の唇にキスをする。


ひんやりとしている。


花びらにとまる蝶のように。


「ここ。あの子の匂いがする。だから、私の匂いで上書きするの」


朔の心臓が大きく跳ねる。


詩織は、ますます大胆になっているのではないか?


「詩織、お前――」


「どうしたの?」詩織は振り返る。


「好きな人とキスするなんて、ごく普通のことだけど」


彼女は向き直り、イーゼルの前に戻って座り、筆を手に取る。


再び絵を描き始める。


まるで何事もなかったかのように。


朔は椅子に座り、詩織の背中を見つめる。


心臓が張り裂けそうなほど激しく鳴っている。


彼の理性の防衛線は、おそらくすでに完全に崩壊している。


そう、朔は思う。




放課後、朔は一人で廊下を歩く。


今日起きた出来事を反芻している。


どれも、一つ一つを取り出せばささいなことだ。


だがそれが積み重なると、小石のように、ただでさえ波立つ心の湖に投げ込まれていく。


波紋が広がる。


幾重にも。


止められない。


「浅倉」


朔は顔を上げる。


結月が廊下の先に立ち、窓枠に背を預けて腕を組んでいる。一日中曇っていたが、放課後になって意外にも晴れ間が覗く。窓から差し込む夕日が彼女の顔を照らし、その輪郭を金赤色の光で縁取っている。


「なんでここに?」


「待ってた」


「待っててどうするんだ?」


「一緒に帰るの」


「俺たち、毎日一緒に帰ってないか?」


「昔はね。最近は違う。最近のあんたは、いつも陽葵と帰るか、詩織と帰るか。それか一人で帰ってる」


朔は沈黙する。


「だから今日は、私が待ってた」


二人は一緒に校門を出る。


夕日が街をオレンジ色に染め上げる。遠くの空はオレンジから紫へとグラデーションを描き、巨大な水彩画のようだ。


二人は無言のまま歩く。


下駄――いや、今日は革靴だ。結月のローファー――埃一つない靴が夕日を反射し、朔の目を眩ませる。


『カツッカツッ』という足音が、朔の内心をさらに掻き乱していく。


「浅倉」


「なんだ?」


「照れてる?」


「なんで分かるんだ?」


「耳、赤いから」


朔は耳に触れる――確かに、少し熱い。


「それは暑いからだ」


「今はもう九月だよ」


「九月だって暑い」


「暑くない」


「暑いんだって」


結月が彼をちらりと見る。


「浅倉、知ってる?あんた、嘘をつく時はいつも耳が赤くなるのよ」


「嘘なんてついてない」


「今まさに嘘ついてるじゃない」


朔は口をつぐむ。


なぜなら――確かに嘘をついているからだ。


心臓の鼓動が早いのは、天気のせいではない。


彼女のせいだ。


彼女が隣を歩いている。彼女と一緒に帰っている。彼女が待っていてくれた。


どれも、昔はごく普通のことだった。だが今は、その一つ一つが彼の胸を高鳴らせる。


「手、繋いでもいい?」


朔の足がピタリと止まる。


「えっ?」


「手を繋ぐの。昔付き合ってた頃は、毎日繋いでた。今は――もうずっと、繋いでない」


朔は彼女を見つめる。


表情は平然としている。だが朔は、彼女の指先が微かに震えていることに気づく。


「結月」


「ん」


「お前、変わったな」


「どこが?」


「昔なら勝手に繋いできた。聞いたりしなかった」


結月は少しの間、沈黙する。


「昔は、私にその資格があったから。今は――自信がないの」


朔は手を差し出す。


「繋ごう」


結月は彼の手を見つめ、少し呆然とする。


それから手を伸ばし、朔の手を握りしめる。


彼女の指は冷たくて、細い。


けれど、とても強く握ってくる。


「……ありがとう」


二人は再び歩き出す。


手を繋いだまま。


夕日が背後でゆっくりと沈んでいく。


長く伸びた二人の影が重なり合い、一枚の絵のようになる。


朔は思う。自分の理性の防衛線は、もう存在しないのだろうと。


『崩壊寸前』ではない。


『すでに崩壊している』のだ。


だが、悲しいとは思わない。


むしろ――少し嬉しいとさえ感じる。


この『嬉しい』という感情が恐ろしい。


けれど、同時に期待してしまう。


明日を。


明日、何が起こるのかを。


明日――彼女たちが何をしてくるのかを。


自分はたぶん、おかしくなってしまったのだろう。


だが、おかしくなるならそれでもいい。


少なくとも、狂っている時の自分は、本物なのだから。

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