第30話 旅する少女と18歳の夏
3人が突然田舎にやってきた5日目の朝、朔は鳥のさえずりで目を覚ます。
目を開けると、カーテンの隙間から陽光が漏れ込み、畳の上に細い金色の線を描き出しているのが見える。
温泉。仕切り板。3人の女の子。
そして、あの言葉たち。あれからもうすぐ1週間が経とうとしているというのに——その間には、陽葵が魚を捕まえようとしてワニに遭遇し、半日格闘した挙句なぜかワニと親友になるという事件や、結月が日常的にポケットに忍ばせているスタンガンをうっかり子供に拾われるという事件、詩織がご飯を炊いている最中に突然かまどの絵を描き始め、結果的に鍋の飯が黒焦げの炭と化すといった、一連のシュールな出来事があったにもかかわらず——
未だに記憶に新しい。
朔は顔を枕にうずめる。
顔が赤く染まる。
恥ずかしいからではなく、自分がひどく最低な人間に思えるからだ。
3人の女の子は彼にこんなにも優しくしてくれるのに、自分は彼女たちに何も返せないことをはっきりと自覚している。「返したくない」わけじゃない——「誰に返せばいいのかわからない」のだ。
体を起こし、服を着替え、部屋を出る。
廊下は静寂に包まれている。古い木の床が足元で微かに「ミシッ」と鳴り、まるで囁き声のよう。壁のランプはすでに消えているが、窓からの陽光が廊下を明るく照らし出している。
裏庭へと向かう。
縁側には祖母が座り、手に湯呑みを持ちながら、庭のイチョウの木を見つめている。
朝の光が彼女の白髪に降り注ぎ、髪の毛一本一本に銀のコーティングを施しているかのようだ。
「おはよう、朔ちゃん」
「おはよう、ばあちゃん」
「よく眠れたかい?」
「うん」
「それならよかった」
祖母は隣の空きをポンポンと叩く。「こっちへ来て座りなさい」
朔は歩み寄り、祖母の隣に腰を下ろす。
朝の風は冷たく、草木と土の香りを運んでくる。イチョウの葉が風に揺れ、サラサラと音を立てる。木の下では紫陽花がちょうど見頃を迎えており、青、ピンク、紫の花の手毬が身を寄せ合い、まるで小鳥たちがひそひそ話をしているようだ。
「朔ちゃん」
「ん?」
「何を悩んでいるんだい?」
「もし3つの選択肢があって、どれもすごく良いんだけど、どれを選べばいいかわからない時——ばあちゃんならどうする?」
祖母は少し考える。
「それなら、どれも選ばないね」
「どれも選ばない?」
「ああ。選ばずに、待つ」
「何を待つの?」
「これを選ばずにはいられないという選択肢が現れるのを待つんだよ。あなたの母親がどうして父親を選んだのか、知っているかい?」
朔は首を横に振る。
「あの子にはたくさんの選択肢があったからね。大勢の人が彼女を追いかけていた。月乃森家の坊ちゃんも含めて——お金持ちで、ハンサムで、頭が良くて、優しい男たち」
「でも、彼女はお前の父親を選んだ」
「どうして?」
「なぜなら——お前の父親と一緒にいる時が、一番長く笑っていたからさ」
朔は祖母を見つめる。
「一番長く笑っていた?」
「そう。一番大きな声で笑うわけでも、一番綺麗に笑うわけでもない——一番長く笑うんだ。一瞬だけ笑わせてくれる人はいるけれど、すぐに笑えなくなる。でも、ずっと笑わせてくれる人もいる。シワができるまで笑って、それでもまだ笑っていられるような」
「お前の母親が選んだのは、そういう人なんだよ」
「だから——朔、考えてごらん。誰と一緒にいる時、お前は一番長く笑っている?」
朔は思考を巡らせる。
陽葵と一緒にいる時、彼はよく笑う。大笑いではない、「思わず口角が上がってしまう」ような笑いだ。彼女はあまりにもやかましくて、笑わずにはいられないから。
結月と一緒にいる時も、笑うことはある。だがそれは過去の話。最近は、結月の前であまり笑わない。「笑いたくない」わけじゃない——「笑えない」のだ。笑ってしまえば、彼女に誤解させてしまうから。
詩織と一緒にいる時、笑っている時間は一番短い。「楽しくない」わけじゃない——詩織があまりにも静かすぎて、笑い声を上げればその静寂を壊してしまいそうだからだ。しかし、口角を上げる必要のない笑いもある——心の奥底での笑いだ。詩織と一緒にいる時、彼は心の中で笑っている。
「ばあちゃん。俺には、やっぱりわからないよ」
「わからないなら、わからないでいいさ。若者には、時間がたっぷりあるんだから」
「でも——彼女たちは、俺を待ってる」
「待たせておけばいい。待つことも、また一つの愛の形だよ」
朔は祖母の顔を見る。
「待つことも、愛?」
「ああ。もしあの子たちが本当にあんたを好きなら、選ぶのが遅いからといって嫌いになったりしない。待ちきれなくて嫌いになるくらいなら——それは最初から、本当の好きじゃなかったってことさ」
「だから——焦る必要はないんだよ」
「ゆっくり考えな。はっきりとわかるまで」
「ただ、あまり長引かせるんじゃないよ。なぜって——待つのは、とても苦しいからね」
朔はこくりと頷く。
「ありがとう、ばあちゃん」
「どういたしまして。朝ごはんの支度をしてくるよ。あの子たちを起こしてきなさい」
「まだ起きてないの?」
「昨夜は遅くまで温泉に入っていたからね。きっと疲れ切っているんだろう」祖母は笑いながら言う。「一人ずつ、呼んできな」
朔は立ち上がり、部屋へと向かう。
まずは陽葵を起こしに行く。
ドアをノックする。
「陽葵、起きろ」
返事はない。
もう一度ノックする。
「陽葵?」
やはり返事はない。
朔はドアを押し開ける。
陽葵は布団にうつ伏せになっている。掛け布団は脇に蹴飛ばされ、パジャマはしわくちゃで、髪は枕いっぱいに広がっている。彼女は深く眠り込んでおり、口を少し開け、微かないびきをかいている。
朔は近づき、掛け布団を拾い上げて彼女にかける。
「陽葵、もう起きる時間だぞ」
陽葵はモゾモゾと動き、寝返りを打つが、目を覚ます気配はない。
手を伸ばし、彼女の頭をポンポンと軽く叩く。
「陽葵」
陽葵の目がゆっくりと開く。
朔の姿を見た瞬間、彼女の瞳が輝きを放つ。
「先輩——おはよう——」
その声はまだ眠気を帯びていて、ふにゃふにゃと甘い。
「おはよう。ばあちゃんが起きろって」
「んぅ……。先輩、今、私の頭撫でましたね」
「……撫でてない」
「撫でました。私、感じましたもん」
「気のせいだろ」
「気のせいじゃありません!」
陽葵は上体を起こす。髪はボサボサだが、その笑顔は太陽のように眩しい。
「先輩の手、すごく暖かかった。覚えてます」
朔はぷいっと顔を背ける。
「早く顔洗ってこい」
「はい!」
陽葵はベッドから飛び降り、部屋を駆けていく。
朔は結月を起こしに向かう。
ノック。
「結月、起きろ」
ドアはすぐに開く。
結月はすでに服を着替え、髪を整え、薄くメイクまで済ませている。
「おはよう」
「お前——いつ起きたんだ?」
「十分前よ」
「じゃあ、どうして部屋を出ないんだ?」
「あなたが呼びに来るのを待っていたの」
「俺が呼びに来るって、どうしてわかるんだ?」
「だって——あなたは毎回、必ず来てくれるから」
朔は言葉を返さない。
「昔、付き合ってた頃——デートの時は毎回、うちまで迎えに来てくれたわ。『いいよ、一人で行くから』って言っても、あなたは必ず来てくれた」
「それは——俺が行きたかったからだ」
「わかってる。だから、待っていたの」
彼女は部屋を出て、朔の横を通り過ぎる時、ふと足を止める。
「今日も来てくれて、ありがとう」
彼女は去っていく。
朔はその場に立ち尽くし、彼女の背中を見送る。
「今日も来てくれて、ありがとう」
彼女が口にしたのは「おはよう」ではない。
「おはよう」じゃない。
「今日も来てくれて、ありがとう」だ。
それはつまり——彼女が毎日、待っているということ。
彼が来るのを。
起こしに来てくれるのを。「おはよう」と言ってくれるのを。そして——迎えに来てくれるのを。
だが、彼が彼女を迎えに行くことは、もうずいぶん長い間なかった。
それでも、彼女は待っている。
朔は大きく深呼吸をし、詩織を起こしに向かう。
ノック。
「詩織、起きる時間だ」
ドアが開く。
詩織は入り口に立っている。すでに着替えを済ませており——白いTシャツに深青色の長ズボン、髪は低い位置でポニーテールに結んでいる。その表情は穏やかだが、朔は彼女の目の下に薄いクマがあることに気づく。
「よく眠れなかったのか?」
「眠りました。あまり長くは」
「何を考えてたんだ?」
「あなたのことを。あなたが、呼びに来てくれるかどうか」
「俺は来たぞ」
「はい。だから、とても嬉しいです」
彼女は部屋を出て、朔の横を通り過ぎる時、手を伸ばし、朔の指先にそっと触れる。
ひんやりとしている。
温泉の時と同じように。
「行きましょう」
「ああ」
二人は一緒に食堂へと向かう。
朝の光が窓から差し込み、廊下にいくつもの光の斑点を描いている。
詩織は朔の隣を歩き、二人の手は時折触れ合う。
その触れ合いの度に、誰かが朔の心の中でピアノの鍵盤を押し、メロディーのない歌を奏でているかのように感じる。
朝食後、3人の女の子たちは荷物の整理に向かう。
彼女たちは今日、出発する——今日は日曜日で、明日は授業があるからだ。もっとも、朔を含めた彼らの学習能力を考えれば、学校に行く必要など全くないのだが。
朔は庭に立ち、イチョウの木を見上げている。
「朔ちゃん」
祖母が後ろから歩いてくる。
「ばあちゃん」
「考えはまとまったかい?」
「まだ」
「あの子たちが、お前を見る目を見たかい。あんな目はね、義務や契約、あるいは単なる独占欲なんかで装えるものじゃないんだよ」
朔は祖母の顔を見る。
「陽葵がお前を見る目は『未来』を見ている。彼女は、お前と一緒に未来を創りたいのさ。結月がお前を見る目は『過去』を見ている。彼女は、かつてお前たちに存在したあの頃に戻りたいと願っている。詩織がお前を見る目は『現在』を見ている。彼女は過去も未来も気にしていない、彼女が気にしているのは——今、お前がそこにいるかどうか、それだけさ」
「3つの眼差し、3つの感情、3つの愛。どれが優れているなんてことはない。ただ、どれがお前に一番合っているか、それだけだよ」
朔は沈黙する。
陽葵の笑顔を思い出し、結月の涙を思い出し、詩織の眼差しを思い出す。
未来。過去。現在。
自分はどれを望んでいるのか?
かつてはわからなかった。
しかし今、その答えの輪郭が目の前に浮かび上がりつつあるのを感じる——彼は、どれ一つとして失いたくないのだ。少なくとも、今の段階では。
「ばあちゃん、俺、欲張りすぎなのかな?」
「欲張りで何が悪いんだい? 欲張りってことは、まだ欲望があるってこと。欲望があるってことは、まだ生きているって証拠さ」
「でも、欲張れば人を傷つける」
「生きていれば人を傷つけるものさ。誰も傷つけずに生きるなんて不可能だ。お前にできるのは、誰を傷つけるか、そしてどの程度傷つけるかを選ぶことだけだよ」
「ばあちゃんが若い頃にも、こういうことってあった?」
祖母は思いを巡らせる。
「あったね。二人の男。一人は金持ちで、もう一人は貧乏。一人はハンサムで、もう一人はそうじゃない。一人は甘い言葉をささやくのが上手で、もう一人はひどく口下手だった」
「どっちを選んだの?」
「口下手な方を選んだよ」
「どうして?」
「だって——あの人が私を見る目は、他の人とは違っていたから」祖母は語る。「他の人が私を見る目は『欲しい』だった。あの人が私を見る目は『必要だ』だった」
「欲しいと必要って、何が違うの?」
「欲しいは一時的なものさ。必要は一生のものだよ」
朔は祖母の瞳を見つめる。
その黒く、しわに囲まれた瞳には、イチョウの木の影が映っている。
「ばあちゃん、ありがとう」
「どういたしまして」
祖母は朔の肩を叩く。
「行きなさい。あの子たちが待っているよ」
朔は身を翻し、旅館へと歩き出す。
ロビーでは、3人の女の子がすでに荷物の整理を終えている。
陽葵はゲームセンターで取ったウサギのぬいぐるみを抱きかかえ、結月はボストンバッグを手にし、詩織は画板と画材箱を背負っている。
彼女たちは朔を見つめる。
未来。過去。現在。
朔は彼女たちの前に立つ。
「先輩、私たち、もう行きます」
「ああ」
「見送ってくれないんですか?」
「見送るさ」
3人は連れ立って旅館を出る。
日差しは強く、目を眩ませるほどだ。
空は青く、雲は白く、風は軽やかだ。
駅に着いた時、陽葵がふと立ち止まる。
「先輩」
「なんだ?」
「私たちのこと、思い出してくれますか?」
「ああ」
「本当に?」
「本当だ」
陽葵が笑う。
「それならよかったです」
彼女は手を伸ばし、朔の手をぎゅっと握り、そして離す。
「先輩、また学校でね——」
彼女は振り返り、電車に乗り込む。
結月が朔の前に立つ。
「浅倉」
「なんだ?」
「あなた、私に答えを一つ借りているわよ」
「わかってる」
「いつ返してくれるの?」
「すぐに」
「すぐって、いつ?」
「すぐは、すぐだ」
結月の口角が上がる。
「わかった。待ってるわ」
彼女は手を伸ばし、朔の手の甲にそっと触れる。
そして彼女も振り返り、電車に乗り込む。
詩織が朔の前に立つ。
「浅倉君」
「なんだ?」
「私は答えを求めません」
「どうして?」
「だって——答えは重要じゃないから」
「じゃあ、何が重要なんだ?」
「あなたです。あなたがいてくれれば、それだけで十分です」
彼女は手を伸ばし、朔の手を握る。
指を絡ませ合う。
そのまま3秒。
そして、離す。
「学校で会いましょう、浅倉君」
電車のドアが閉まる。
朔はホームに立ち、電車が遠ざかっていくのを見つめる。
車窓から、3人の女の子が彼に向かって手を振っている。
朔はホームに立ち尽くし、長い時間を過ごす。
風が吹く。
雲が流れる。
鳥が鳴く。
彼はうつむき、自分の手を見る。
掌には、まだ3人の温もりが残っている。
3つの温もり。
3つの感情。
3つの愛。
かつては、どれを選ぶべきかわからなかった。
しかし今思えば、もしかすると——選ぶ必要などないのかもしれない。
もしかすると——すべてを手元に残しておけるのかもしれない。
「恋人」としてではなく。
「人生における大切な人」として。
この考えはひどく身勝手だ。
わかっている。
しかし、これが今の彼に思いつく唯一の答えだ。
彼は振り返り、祖母の家へと歩き出す。
道中、川を過ぎ、石橋を渡り、イチョウの木のそばを通る。
夏はもうすぐ終わるが、秋はまだやってこない。
まだ時間はある。
まだ時間はある——より良い自分になるための。
彼女たちにふさわしい人間になるための。
彼女たちを泣かせないような人間に。
笑って「君たちのことが好きだ」と言えるような人間に。
今はまだその人間ではないが、彼は必ずなれるはずだ。
浅倉屋。
祖母が玄関に立ち、彼が帰ってくるのを見つめている。
「見送ってきたかい?」
「うん」
「泣いたのかい?」
「泣いてないよ」
「嘘おっしゃい。目が真っ赤じゃないか」
「目に砂が入っただけだ」
「今日は風なんて吹いてないよ」
「今日は吹いてる」
祖母が笑う。
「入りなさい、お昼の支度ができているよ」
朔は扉をくぐる。
ふと後ろを振り返る。
空は青く、雲は白く、イチョウの木は青々と茂っている。
夏はまだ、ここにある。
そして彼もまた、ここにいる。
第三巻 完
あとがき:
浅倉朔は3人の女の子を見送った午後、祖母の手伝いで蔵の掃除をする。
蔵の片隅で、彼は一冊の古いアルバムを見つける。
ページをめくると、若き日の祖母の写真がある。
モノクロ写真の中、一人の若い女性がイチョウの木の下に立ち、とても美しい笑顔を見せている。
その隣には、不器用に笑う若い男が立っている。
それが、祖母の選んだ「口下手」な男だ。
朔は長い間、その写真を見つめる。
そしてスマホを取り出し、一枚の写真を撮る。
3人に送信する。
添えられたメッセージは:「ばあちゃんが若い頃」
「きれい!!!」
「お似合いね」
「イチョウの木、まだありますね」
朔は返信を見て、笑みをこぼす。
口角を上げるだけの笑いではない——本物の、心の底からの、笑いたいから笑うという笑顔だ。
祖母が後ろから歩いてきて、彼が笑っているのを目にする。
「吹っ切れたかい?」
「うん。だって——」朔はスマホの画面に映る3人のアイコンを見つめる。
「彼女たちは、まだここにいるから」
祖母が微笑む。
「それならよかった」




