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「絶対にヨリを戻したい元カノ義妹でヒロインは確定済み……のはずが、クールな幼馴染とウザい後輩が修羅場を加速させる」  作者: KANI_CRAB
第三巻 霧晴れゆく選択肢

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第26話 逃げるは恥だが、田舎へ逃げるは役に立つ

一週間。


和夫は彼に一週間の時間を与えている。


だが、朔にとって一週間は短すぎる。いや、短すぎるのではない――根本的に足りないのだ。たとえ一年、十年、一生を与えられても、彼はきっと考えをまとめることはできない。


なぜなら、彼は「考えられない」わけではない、「考えるのが怖い」からだ。


答えを出すということは、選択を迫られるということ。


選択をするということは、誰かを傷つけるということ。


誰かを傷つけるということは、その痛みを一生背負って生きていくということ。


彼は背負いたくない。


だから、考えることを恐れている。


だからといって、考えないでいれば問題が消えるわけではない。


問題はそこにある。まるで一つの石のように、心の上に重くのしかかる。どかさなければ、ずっと押し潰されたまま。どかそうとすれば、自分の足に落ちてくる。




月曜日、朔は学校で詩織の姿を見つける。


彼女は校門の前に立ち、手に缶コーヒーを持っている。


彼を見ると、歩み寄り、それを差し出す。


「おはよう」


「おはよう」


二人の会話はいつも通り短い。しかし朔は、詩織の目の下にうっすらとクマがあることに気づく――彼女もよく眠れていないのだ。


「昨夜、寝てないのか?」


「寝たわ。少しだけ」


「何を考えてるんだ?」


詩織は少し考える。


「あなたのこと。あなたが来てくれるかどうか」


「俺は来るよ」


「分かってる。でも、考えることと分かっていることは――違うから」


朔はコーヒーを受け取り、一口飲む。


温かくて、少し苦い。


いつもと同じだ。


しかし、なんだか味が変わっているような気がする。


コーヒーが変わったからではない。


コーヒーを飲む人間が変わっているからだ。


昼休み、朔は美術室には向かわない。


教室に座り、窓の外を眺めている。


グラウンドでは生徒たちがサッカーをしている。笑い声は風に吹き飛ばされ、曖昧な破片に変わる。空は青く、雲は白く、日差しは眩しい。


すべてが正常だ。


しかし、すべてが異常でもある。




「先輩!」


陽葵が教室の入り口に姿を見せる。手にはお弁当箱を持っている。


彼女の笑顔は相変わらず眩しいが、朔は彼女の瞳に一つの感情が混ざっていることに気づく――心配だ。


「どうしてここに?」


「お弁当を届けに来たんですよ」陽葵は朔の向かいに座る。


「先輩、最近何かあったんですか?」


「何もないよ」


「嘘です。最近、全然美術室に来ないじゃないですか。私のメッセージにもあまり返事をくれないし。前は返信が遅くても、少なくとも返してくれたのに。今は――『既読』すらつかない」


朔はしばらく沈黙する。


「陽葵」


「はい?」


「もし一つだけ打ち明けたら、秘密にしてくれるか?」


陽葵はまばたきをする。


「もちろんです」彼女は言う。「先輩、話してください」


朔は深く息を吸い込む。


そして、すべてを彼女に打ち明ける。


婚約のこと。詩織の父親のこと。和夫の出した条件。父親の会社の危機。一週間の期限。


陽葵は聞き終えると、長い間黙り込む。


彼女の表情は複雑だ――怒りでもなく、悲しみでもない。朔には読み取れない、様々な感情が入り混じった表情を浮かべている。


「先輩」


彼女はようやく口を開く。「どうするつもりですか?」


「分からない」


「どうしたいんですか?」


「分からない」


「詩織先輩のことは好きですか?」


「分からないんだ」


「先輩、知ってますか。『分からない』というのも、一つの答えなんですよ」


「何の意味?」


「選択をしたくないという意味です。誰一人として選びたくない。だって選んでしまえば、もう一人を傷つけることになるから。そして先輩は、誰も傷つけたくないんです」


「だから『分からない』って言うんだな」


「『分からない』と言えば、選ばずに済むから」


朔は言葉を失う。


彼女の言う通りだからだ。


「先輩」


陽葵は立ち上がり、朔の目の前まで歩み寄り、手を伸ばして彼の頭を撫でる。


「大丈夫です。分からなくてもいいんです」


「ゆっくり考えればいいんです」


「でも、一人で抱え込まないでくださいね」


「先輩には私がいます。神城先輩もいます。詩織先輩だっています」


「私たちは、みんなここにいますよ」


朔は陽葵を見つめる。


彼女の青い瞳を、その真剣な表情を、わずかに震える唇を見つめている。


「陽葵」


「はい」


「ありがとう」


「どういたしまして。何があっても、私は先輩のそばにいますから」


「それはもう聞いたよ」


「なら、もう一度言います」




その日の夜、朔はある決断を下す。


逃げることにするのだ。


もちろん永遠に逃げ続けるわけではない――日本はそれほど広くないし、逃げ場なんてどこにもない。だから、ほんの一時のことだ。彼はこの環境から、この人たちから、この声から離れる必要がある。自分が一体何を求めているのか、静かに考えるための場所が必要なのだ。


スマホを開き、田舎へ向かう電車の時刻表を調べる。


祖母は田舎で百年続く温泉旅館を営んでいる。子どもの頃、彼は毎年の夏休みになると数日間そこに滞在する。そこには山があり、川があり、蝉の声があり、蛍がいて、祖母の切ったスイカと漬物がある。


そこはとても静かだ。


彼には静寂が必要なのだ。


父親にメッセージを送る。「おばあちゃんの家に数日泊まってくる」


「どうした? 何かあったのか?」


「何でもない。ただ少し静かに過ごしたいだけだ」


「分かった。おばあちゃんによろしく伝えておいてくれ」


朔は荷造りを始める。


ごく簡単なものだ――数着の着替え、一冊の文庫本、ノートパソコン、そして詩織が贈ってくれたあの絵。


キャンバスに描かれているのは、花火だ。


金赤の、翠緑の、銀白の光が夜空に咲き誇っている。


彼は絵を丸め、慎重にバックパックの中へ収める。


それからスマホを手に取り、三人にメッセージを送信する。


陽葵へ。


「数日、田舎に行ってくる。戻ったら連絡する」


詩織へ。


「少し時間が必要だ。探さないでくれ」


結月へ。


「行ってくる。おばあちゃんの家だ。住所は知ってるだろ」


送信を終えると、彼はスマホの電源を切り、バックパックを背負い、部屋を出る。


廊下は薄暗い。


センサーライトは点灯しない――彼の足音がとても軽く、センサーを反応させないからだ。


結月の部屋の前を通り過ぎる時、彼は少し足を止める。


ドアの隙間から光は漏れていない。


彼女は眠っている。


あるいは――起きているが、電気を消しているだけか。


朔は数秒だけ思考する。


それから階段を下り、リビングを抜け、ドアを開ける。


夜風が吹き込み、ひんやりと冷たい。


彼は深呼吸をする。


そして、夜の闇の中へと歩みを進める。




電車は夜の闇の中を突き進む。


車内には人が少ない――残業帰りのサラリーマンが数人、イヤホンで音楽を聴いている女子高生が一人、鞄を抱えて居眠りしている中年男性が一人。


朔は窓際の席に座り、外の景色を眺めている。


街の灯りが遠くで瞬き、まるで金色の海のようだ。電車が市街地を抜けるにつれて、その灯りはだんだんと減り、暗くなり、最後には完全な暗闇に飲み込まれる。


窓の外の風景は、田園と丘陵へと姿を変える。月明かりが水田に降り注ぎ、水面が銀白の光を反射して、まるで巨大な鏡のようだ。遠くに見える山の影は黒々としており、大地の輪郭線のように見える。


朔は窓の外を見つめたまま、頭の中で記憶を辿る。


幼い頃の出来事。


あの頃は、まだ母親がいる。毎年の夏、家族揃って電車に乗り、祖母の家を訪れる。母親は美味しい料理をたくさん作り、父親は祖母と談笑し、彼は一人で川に入って魚を捕まえ、山で虫を捕り、庭で蛍を追いかける。


あの頃の生活はとてもシンプルだ。


選択する必要もなく、迷う必要もなく、誰も傷つける必要はない。


ただ――生きているだけでいい。


楽しく生きているだけで。


やがて母親がいなくなる。


父親は変わり、彼自身も変わってしまう。


彼は論理で自分を守る術を身につけ、感情の代わりに理性を使うことを覚え、「分からない」という言葉で選択から逃げることを学習する。


そうすれば傷つかずに済むと思い込んでいる。


しかし、それは間違いだ。


選択しないということも、また一つの選択なのだ。


傷つかないということは、誰一人として近づけないということ。


誰一人として近づけないということは、孤独であるということ。


孤独にはなりたくない。


しかし、傷つきたくもない。


だから彼は二つの間で揺れ動く。まるで時計の振り子のように、永遠に止まることなく。


電車が駅に到着する頃には、もう深夜になっている。


朔は駅を出て、人気のないホームに立つ。


田舎の空気はとても澄んでいる――土の匂い、青草の匂い、そして少しばかりの牛糞の匂いが混じっている。不快なものではなく、「これぞ田舎だ」と思わせるような匂いだ。


空は暗く、星が無数に輝いている。都会の空ではこれほどの星は見えない――光害がひどすぎるからだ。しかしここでは、天の川がはっきりと見え、まるで光を放つ川のように、夜空全体に架かっている。


朔は深呼吸をする。


それから記憶にある道を辿り、祖母の家へと歩き出す。


二十分ほど歩くと、その古い建物が視界に入る。


百年続く温泉旅館――『浅倉屋』だ。


木造の建築、黒い瓦と白い壁。入り口には赤い提灯が一つ吊るされており、そこには「浅倉」の二文字が書かれている。提灯の光が夜風に吹かれて静かに揺れ、まるで優しい一つの瞳のようだ。


朔は戸を開ける。


「おばあちゃん、ただいま」


返事はない。


ロビーは静まり返っており、壁に掛かった古い時計がチクタクと音を立てているだけだ。カウンターの奥に人影はないが、机の上にはまだ湯気を立てているお茶が一杯置かれている。


「おばあちゃん?」


「あらあら――朔ちゃんじゃない!」


祖母が奥から姿を現す。


彼女は濃紺の浴衣に灰色のカーディガンを羽織り、白髪交じりの髪を後ろで綺麗にまとめている。顔には無数の皺が刻まれているが、その瞳は二つの黒い宝石のように明るく輝いている。


「おばあちゃん」


朔は歩み寄り、祖母を軽く抱きしめる。


祖母の体はとても小さく、細いが、とても温かい。


「どうしたんだい? 急にやって来るなんて」祖母は朔の背中をポンポンと叩く。


「何か悩み事でもあったのかい?」


「ううん。ただおばあちゃんに会いたくなっただけだよ」


「嘘おっしゃい」祖母は笑う。「朔ちゃん昔から嘘が下手なんだから。嘘をつくと、すぐに耳が赤くなるんだよ」


朔は無意識に耳に触れる。


赤くなっている。


「ほらごらん」祖母は笑いながら言う。「でも大丈夫。話したくないなら、話さなくていいんだよ。さあ、まずはご飯にしよう。お腹が空いてるだろ?」


「うん」


祖母は台所へ入り、湯気の立つ味噌汁、焼き魚、白いご飯、そしてお漬物を乗せたお盆を運んでくる。


「さあ、お食べ」


朔は腰を下ろし、箸を進める。


味噌汁は熱いが、とても美味しい。焼き魚は香ばしく、皮はパリパリで身は柔らかい。白いご飯は一粒一粒が立っていて、噛むほどに甘みが広がる。


食べ進めるうちに、ふと目頭が熱くなる。


悲しいからではない。


ただ――彼が「家族」の味を口にするのは、本当に久しぶりだからだ。


結月の作る料理は美味しいが、それは「洗練された」味であり、「家族」の味ではない。


陽葵の作る料理は上達しているが、それは「努力」の味であり、「家族」の味ではない。


祖母の作る料理は、「何も考えなくていい」味がする。


ただ食べるだけ。


ただ生きるだけ。


ただ愛されているだけ。


「おばあちゃん」朔は箸を置く。


「ん?」


「ここに何日か泊まってもいい?」


「もちろんさ。ここはあんたの家なんだから、いたいだけいればいい」


「ありがとう、おばあちゃん」


「馬鹿な子だね。何があっても、おばあちゃんはここにいるんだから」


「うん」




食事を終えた朔は、温泉に向かう。


温泉は旅館の裏庭にあり、石造りの露天風呂になっている。お湯は乳白色で、ほんのりと硫黄の匂いがする。立ち上る湯気が、月明かりの下で薄いヴェールのように揺れている。


朔は服を脱ぎ、湯船に浸かる。


お湯は熱く、肌が赤くなるほどだ。


だが、それがとても心地よい。


その心地よさは「身体的な心地よさ」ではない――「心的な心地よさ」だ。


まるで自分の中にある何かが、熱いお湯でふやけ、溶け出し、流れ去っていくような感覚。


彼は岩肌にもたれかかり、空を見上げる。


頭上で天の川がゆっくりと流れ、星々が瞬き、まるで彼に向かってウインクをしているかのようだ。


彼は思う。もし、この瞬間に時間が止まればいいのに、と。


選択する必要も、迷う必要も、誰も傷つける必要もない。


ただ温泉に浸かり、星を眺め、何も考えずにいられたなら。


だが、時間は止まらない。


問題は消えてなくならない。


彼女たちは――まだ彼を待っているのだから。


朔は目を閉じる。


今夜、彼は夢を見ない。


あるいは――夢を見たとしても、目が覚めれば忘れてしまう。


どちらでも構わない。


重要なのは、彼が今ここにいるということ。


祖母の家にいて。


温泉に浸かり。


星空の下にいること。


ひとまず今は――安全だ。

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