第16話 一途な温もり
海への旅行の後、朔の生活は再び別の奇妙なリズムへと突入していく。
「奇妙」と言うのには理由がある――表面上、すべてはごく普通に見えるからだ。
陽葵は普通に毎日LINEで何十件もメッセージを送ってくるし、たまに彼の家に「遊びに」来る(窓から)。昼休みになれば、やはり弁当を持って彼のところにやって来る。
結月は毎日朝食と夕食を作り、洗濯をし、掃除を済ませてから、静かに自分の部屋へと戻っていく。
詩織は相変わらず毎日美術室で絵を描いている。
すべてが以前と同じだ。
しかし、すべてが違っている。
なぜなら海へ行ったあの日、朔は陽葵に「これから傷つくことがあれば、俺のところへ来い」と告げているからだ。
その言葉はまるで、ただでさえ波立っている湖面へと投げ込まれる一の石。
波紋が広がっていく。
幾重にも。
止める術はない。
陽葵は変わってきている。
悪くなったわけではない――より積極的になっているのだ。
以前の彼女の「攻撃」が一日一回だとすれば、今は一日十回に及ぶ。
朝は早く登校し、手にコーヒーを持って校門で朔を待っている。
休み時間になると、朔の教室を「通りかかり」、彼の机に飴を一つ置いていく。
昼休みには弁当を持って彼を訪ね、向かいに座って、食べながら口にする。「先輩、今日の前髪ちょっと乱れてますね」、「先輩、今日の服の色すごく似合ってます」、「先輩、今日は私のこと考えてくれましたか」と。
放課後は教室の入り口で彼を待ち、二人で一緒に駅まで歩く。
「先輩、また明日!」
「ああ。」
「先輩、明日は何のお弁当がいいですか?私が作りますよ!」
「何でもいい。」
「じゃあ唐揚げにします!最近唐揚げの練習をしてるんです!」
「わかった。」
「先輩が『わかった』って言ってくれる!先輩、やっと断らなくなってくれてる!」
陽葵は笑いながらバスに駆け乗り、車窓から朔に向かって手を振る。
朔はバス停に立ち、バスが街の曲がり角に消えていくのを見送る。
彼の口角がわずかに上がる。
そして笑顔を収め、振り返って家路につく。
家に帰れば、彼を待つもう一人の存在があるのを知っているからだ。
いや。
「待つ」のではない。
「彼が帰ってくるのを待っている」のだ。
だが、玄関で出迎えることはない。
「お帰りなさい」と言うこともない。
「今日はどうだった?」と尋ねることもない。
彼女はただ――そこにいる。
静かに、沈黙し、まるで存在しないかのように存在している。
この種の「存在」は、いかなる「不在」よりも人の心を苦しめる。
もし彼女がいなければ、朔は「彼女はもう吹っ切れているのだ」と自分に言い聞かせることができるからだ。
しかし、彼女はずっといる。
ただ姿を見せないだけだ。
それが朔に、自分自身を処刑人のように思わせる。
「わからない」というナイフで、一刀、また一刀と彼女の心を切り裂いているように。
一方の彼女は避けることも、痛みを訴えることもない。
ただ黙って耐え忍んでいる。
毎日。
来る日も来る日も。
七月下旬、梅雨が明け、本格的な夏がやって来る。
日差しはさらに強まり、蝉の鳴き声は一層響き渡り、空気はより重くまとわりつく。
朔が美術室で過ごす時間はますます長くなっていく。
絵を描く必要があるわけではない――彼は絵が描けない。
彼が必要としているのは静寂だ。
説明も、選択も、誰かと向き合うことも必要としない静寂。
詩織は決して彼に「どうしたの」とか「何を考えているの」とは聞かない。
彼女はただ彼をそこにいさせてくれる。
絵を描き。
静かに。
寄り添ってくれる。
この種の寄り添いには言葉も、交流も、いかなる形の「見返り」も必要ない。
ただ存在するだけでいい。
まるで、あの古い桜の木のように。
話しかけることも、笑いかけることも、何をしてくれるわけでもない。
だが、それはそこにある。
百年もの間。
ずっとそこにある。
「浅倉くん」と詩織が不意に口を開く。
「ん?」
「最近、美術室に来る回数が増えているね」
「そうか?」
「うん。以前は週に三、四回。今は毎日来てる」
朔は少し沈黙する。
「ここが一番静かだから」
「家は静かじゃないの?」
「家は静かすぎる。その静けさは、人を居心地悪くさせるんだ」
「美術室の静けさは居心地がいい?」
「ああ」
「どうして?」
朔は少し考え、窓の外に目を向ける。
窓の外の空は青く、雲は白く、日差しは眩しい。遠くのグラウンドでは走っている人がいて、その影が長く伸びている。
「なぜなら、家の静けさは誰かが意図的に作り出している静けさだから。美術室の静けさは――ただの静けさだ」
詩織は筆を置き、振り返り、深い茶色の瞳で朔を見つめる。
「浅倉くん」
「何?」
「考えたことはある?もしかしたら神城さんは、意図的に静けさを作っているわけじゃないかもしれないって」
「じゃあ、彼女は何をしているんだ?」
「あなたを待っている」
朔の指がわずかに動く。
「あなたが先に口を開くのを待っているの。彼女はすでに、言えることはすべて言葉にしている。『あなたがそばにいないことに慣れる』。『体はここにあっても、心はここにあらず』。『なら、私は答えの中であなたを待つ』。彼女はそう伝えている。今はあなたの番なの」
「でも俺は――」
「何を言えばいいかわからない、でしょう?」詩織が言葉を引き取る。「わかっているわ」
「それならどうして俺に言わせようとする?」
「なぜなら、」詩織は前を向き直し、再び絵を描き始める。「言葉にしなければ、永遠にわからないままになるから」
筆がキャンバスの上で微かな摩擦音を立てる。
陽光が空気中をゆっくりと移動していく。
蝉の鳴き声が窓の外から聞こえてくる。
「詩織」
「ん」
「お前はなぜ、そんなに俺に優しくしてくれるんだ?」
詩織の筆が一度止まる。
そして再び動き出す。
「なぜなら、あなたが私に優しくないから」
朔は一瞬呆然とする。
「何だって?」
「あなたは私に優しくない」詩織はもう一度繰り返し、まるで事実を述べるかのように淡々とした口調で続ける。「自ら私に話しかけようとしないし、何を描いているのかも聞かない。絵を褒めてもくれないし、遊びに誘ってもくれない。メッセージも送ってこない。あなたは私に少しも優しくないの」
「じゃあ、どうしてお前は――」
「あなたが私に優しくないから、私はあなたに優しくしなくてもいいの」詩織は言う。「私があなたに優しくするのは、ただ私がそうしたいから。あなたが優しくしてくれるからでも、あなたが必要としているからでも、他のいかなる理由からでもない。ただ――私がそうしたいから」
彼女は筆を置き、振り返り、深い茶色の瞳で朔を見つめる。
「これが好きということ。理由は必要ない」
朔は彼女の目を見つめ返す。
その瞳には静けさがあり、揺るぎなさが宿り、人の視線を逸らさせない力がある。
「詩織」
「ん」
「俺がお前を好きかどうか、俺自身もわからない」
「わかっている。でも構わないわ。ゆっくりわかっていけばいいの」
「もし、ずっとわからないままだったら?」
「それなら、ずっと待つ」
「いつまで?」
詩織は少し考える。
「あなたがわかるようになるまで」
詩織が再び前を向く背中を見つめ、彼女が筆を手に取り絵を描き続けるのを見つめ、薄いTシャツの下で肩甲骨が微かに上下するのを見つめる。
もしかしたら自分は永遠にわからないままなのではないか、と彼は思う。
しかし、永遠にわからないままではいられない。
待っている人がいるからだ。
一人ではない。
三人だ。
そして、彼女たちをこのままずっと待たせ続けるわけにはいかない。
七月末、陽希がLINEグループに一件のメッセージを送ってくる。
『夏祭り、八月十五日。みんなおいで!』
陽葵が即座に返信する。『行く行く行く!』
『わかった』
『わかった』
朔はスマートフォンの画面を見つめ、キーボードの上で指を少しの間止める。
『了解』
そしてスマートフォンを置く。
八月十五日。
夏祭り。
今から二週間後。
二週間後、彼は選択を迫られる。
あるいは――答えを知らなければならない。
これ以上、先延ばしにはできないのだから。
夜、朔はベッドに横たわり、天井を見つめる。
天井には細い亀裂が走り、照明の台座から部屋の隅まで、まるで小さな稲妻のように伸びている。
その亀裂を見つめながら、彼は思う――
もし人生もこの亀裂のように単純であればどんなにいいだろうか。
どこから始まり、どこで終わるのか。
一本の直線。
分岐点も、選択も、分かれ道もない。
だが人生は亀裂ではない。
人生は一本の木だ。
同じ一本の根から出発し、無数の枝葉を分かつ。
どの枝もそれぞれ異なる方向を指し示す。
花を咲かせる枝もあれば、そうでない枝もある。
風に吹かれて折れる枝もあれば、ずっと伸び続ける枝もある。
そして彼は、幹の上に立ち、無数に広がる枝を見つめながら、どこへ向かえばいいのかわからずにいる。
スマートフォンが一度震える。
LINEの通知。
陽葵:『先輩、おやすみなさい!また明日!』
詩織:『おやすみ』
結月は――
結月からはメッセージが来ない。
朔は結月とのトーク画面を見つめるが、最後のメッセージは三日前の「おやすみ」のままだ。
少し躊躇する。
そして一行の文字を打ち込む。
『結月、おやすみ』
送信。
画面の向こうは長い沈黙に包まれる。
朔がもう返事は来ないのではないかと思うほどに。
やがて、メッセージが届く。
『おやすみ、朔』
たったの一言。
だが朔は、その一言を長い間見つめ続ける。
なぜならその言葉の中には、あるメッセージが込められているからだ――
「浅倉」じゃなく。
「朔」と呼んでいる。
それが意味するのは――
彼女はまだ諦めていない。
彼女はまだ待っている。
朔はスマートフォンを置き、目を閉じる。
天井のあの亀裂は暗闇の中に溶け込んでいく。
だが明日、太陽が昇る頃には、再び姿を現すに違いない。
決して癒えることのない傷跡のように。
そして彼の心の中にも、同じような亀裂が一つある。
傷跡ではない。
それは躊躇。
どこへ進むべきかわからない迷い。
「わからない」という言葉が、心に刻み込んだ、ますます深くなる痕跡。
夏祭り、残り十四日。
カウントダウンはすでに始まっている。
だが彼は、まだ何の覚悟もできていない。




