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ンードラロギア  作者: ああああ


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第八十一章:自暴自棄の追体験

八十一章です。

オルダ一行がアルブール王国の王都イルファーンに到着した頃には、既に夜の帷が下りていた。


「アンジュの嬢ちゃん。悪いが城への挨拶は明日だ。サーガイル王子に伝えておいてくれ」

オルダは松葉杖を突きながらも、その鋭い眼光で王宮の灯りを見据えていた。


「かしこまりました。……それにしても、アンゾールマでの戦い、そして魔王の降臨。信じがたい激闘を乗り越えられたのですね」

アンジュの言葉に、オルダは鼻を鳴らす。


「あぁ、月の蝕の前哨戦……と言っても、ありゃあ規模こそ小さかったが、中身は最悪だったぜ。俺たちにはまだ、圧倒的に力が足りねえ」


そんな二人の後ろで、アルトが不意に足を止めた。

「……あれ? 僕、ここを知ってる?」


「ん? イルファーンにいたことは覚えてるんだろ?」

ラッシュが問いかけるが、アルトは胸を押さえ、苦しげに表情を歪めた。


「そうじゃないんだ……。ここで、何かを失いかけて……すごく、すごく苦しい思いをした気がする」


「「……!!」」

ラッシュとエネアウラの顔色が同時に変わる。それは、アルトがエルキアとの「決別」を迎え、雨の中で彼女に舌を噛まれた、あの衝撃的な嵐の夜の記憶だった。


「アルト君! そうよ! あなたはここで大事な人と、その……離れ離れになりそうになったの! その人のこと、思い出せない!?」

焦るエネアウラが彼の肩を掴む。だが、その強すぎる「外部刺激トリガー」に、アルトの脳内パッチ(安全装置)が作動した。


「……う、う~ん……あ、あれ、なんだか前が暗くな……」


「おいアルト! 大丈夫か!?」

そのまま倒れ込むアルト。慌てて抱きとめたオルダは、不敵な笑みを浮かべた。

「荒療治だが、追体験をさせるしかねえな。アンジュの嬢ちゃん、この街で最高級の宿――『ハッスル・キャッスル』のVIPルームを手配してくれ。エネアウラとアルトをそこにぶち込む」


「「えええええっ!?」」

エネアウラとアンジュの声が夜空に響き渡った。


「何を考えているのですかオルダ様! そんな、アルト殿の貞操がこの女狐に奪われるだけですよ!」


「オルダ様、私とアルト君をあんな『愛の闘技場』に押し込めてどうするんですか!?」


アンジュの糾弾とエネアウラの困惑(と微かな期待)。


だが、オルダは揺るがない。

「あそこはな、エルキアとアルトが一緒に寝ていた因縁の部屋なんだよ。同じ環境、同じ匂い……追体験だよ、追体験(という名の放置)」


「「はぁ!?」」


そうこうしているうちに、アルトが「ふにゃ……」と目を覚ます。

「あれ? 僕、寝てたの?」


「アルト、大丈夫か? ……りっちゃん。お前も一緒に行け。こいつらが一線を越えないよう、ずっと監視してろ」


『心得た、主様の主。眠らぬ我が、恥骨を赤く染めながら見届けてやろう』


「よし! 後は任せたぜ! 明日の朝、ラウンジ集合な! 行くぞ、ラッシュ!」

オルダは松葉杖をバトンのように軽やかに操り、ラッシュを連れて闇の中へ消えていった。


「「「…………あいつら、逃げやがった!!」」」

取り残された女三人(と骨一人)の怒りが頂点に達した瞬間、妙な連帯感が生まれた。


「いいわ……。アンジュさん、部屋の手配をお願い。この際、徹底的にやってやるわ!」


「ええ! 私も今はVIPルームの内観が興味深いです!」


近衛騎士の権限をフル活用し、一行は最高級宿『ハッスル・キャッスル』の最上階へ。

扉を開けた瞬間、一行を襲ったのは、暴力的なまでの「官能ピンク」の色彩だった。


「ななな……なんと破廉恥な!!」

アンジュの叫びが部屋に響く。

中央に鎮座するは、巨大な円形ベッド。壁という壁は鏡張りで、死角が一切存在しない。さらに、浴室の仕切りは完全透明なクリスタルガラス。ベッドに寝そべりながら、湯船の隅々まで鑑賞できるという「国賓もリピートする」理由が、あまりにも明確すぎる設計だった。


「……これ、エルキア様、本当に正気で泊まってたの?」

エネアウラが顔を引きつらせる。アルトだけが「わあ、きらきらしてるね!」と無邪気に鏡を触っているのが、唯一の救いだった。


「いいわね、りっちゃん殿! くれぐれも、アルト殿とこの女狐が取り返しのつかないことにならないよう、監視を頼みますわよ!」


『まかせておけ! 我の眼窩は、あらゆる死角を見逃さぬ!』


「とんだ言い掛かりね……アンジュさん、サーガイル王子への報告、頼んだわよ」


パタン…。アンジュが部屋を後にし、ついに密室に取り残された男女二人と一体の骨に奇妙な空気が流れる。

エネアウラはごくりと唾を飲み込んだ。鏡に映る自分。無防備なアルト。そして、なぜか隅っこで歯ブラシを構えている骨。


王都の夜は、まだ始まったばかりである。


「あ、僕、お風呂溜めてくるね〜。ここのお湯、お花の良い匂いがするんだよ!」

鼻歌交じりに、慣れた手つきで浴室へ向かうアルト。その淀みのない動作こそが、この部屋が彼にとって「既知」であることを物語っていた。


『エネアウラ殿……。これは、追体験……せねばならんというやつなのかな……』

りっちゃんがカタカタと顎を鳴らし、鏡に映る自分を空虚に見つめる。


「え……!? まさか、エルキア様がこのスケスケの空間で、アルト君と……その、共に入浴を……!?この時はまだ保護者だったはずよ!?」

エネアウラの顔が、みるみるうちに沸騰した薬缶のように赤くなる。


『…保護者だから、アルトの無邪気な誘いを無碍に断れなかったのではないか…?主様であれば、仲睦まじく背中の流し合いっこくらいはしていてもおかしくはないな。我々の知らない「師弟の絆(物理)」があったのだ……』

「えええ!? まさかそんな……!!」


『案ずるな。タオルで隠せばよかろう……? 肉体など、所詮は魂を包む器に過ぎぬのだからな』


「そ、そうよね……隠せばいいのよね……」


しかし、エネアウラはある「致命的な欠陥」に気づき、悲鳴のような声を上げました。

「ひぅっ!! りっちゃん……!! とんでもないことに気がついたわ!」


『どうしたのだ? 恥骨の歪みでも見つけたか?』


「ほら……あそこよ!!」

彼女が震える指で指し示したのは、浴室の隣に鎮座する、これまた全面クリスタルガラス張りのトイレ。


かわやか。それがどうした。我は1900年、排泄という概念を捨て去っているが』


「りっちゃん……あなたやエルキア様は、トイレに行かないから良いわ……でも!! 私は人間なのよ!! 行くのよ! トイレに!!」


『な……!? 膀胱に貯められた聖水を、神経の制御と筋肉の協調運動によって体外へ排泄する一連のプロセスを……アルトに見られてしまう恐れがあるということか!!』


「……そうよ。なんかひたすら生理学的にオブラートに包むのね……」


『待て……逆も有り得るということなのではないか……!? アルトがあの小さな、全方位視認可能なガラスの聖域で……ひとり、己を解放する様を…座ってするのか、立ってするのか興味深いな…!!』


「やめてよりっちゃん!! 私はそういう変態的な趣味はないわよ!!」


大騒ぎする二人をよそに、アルトがふらりと部屋を出ていきました。

『ん……? 我々があまりにも騒々しいから愛想を尽かして出ていったのか?』


「あ! ちょっと待って! 今のアルト君を一人にするのはまずいわ! 迷子になったら……」


心配して追いかけようとした瞬間、アルトがスッキリとした顔で戻ってきました。

『アルト……どこに行っておったのだ?』


「え……!? ト、トイレだよ……。そこの角を曲がったところにある、共用の」

顔を赤らめ、もじもじとするアルト。


「あ……なるほど。エルキア様は、あの部屋のトイレを使わせないように、外のトイレを教えていたのね……」

その徹底した教育に、エネアウラは「聖女」の意地と、ある種の狂気を感じて深く頷いた二人だった。


安堵したのも束の間、アルトの瞳に「お世話焼き」の光が宿る。彼はスルスルとりっちゃんの包帯の結び目に手をかける。


『アルト……まさかとは思うが……よせ。我を、我をどうする気だ。我は今、この包帯という名の「コンプラの鎧」を纏っているのだぞ!』


「ここまでの旅で、一度もりっちゃんはお風呂に入っていなかったでしょ? 汚いままでベッドに入ってはいけません。清潔感のない骨はただの粗大ゴミだよ」


『あ……! そのセリフ!! 主様は言いそう……って、ちっがーう!! 納得している場合ではない!!』

アルトの手が、躊躇なく包帯を解いていく。


『あぁ、アルト……だめっ! 自分で取り外すからっ! そんなに強引に引っ張られたら、我の関節が、関節がぁぁ!!』


「一人ですると遅くなるよ、良いではないか、良いではないか〜!」


『あ〜れ〜……!!』

アルトが包帯の端を掴んだまま、勢いよくバックステップ。

軸足を中心に、りっちゃんは独楽こまのように高速回転を始める。

白い包帯が部屋中に舞い散り、鏡張りの壁に反射して、まるで見事なストリップ……もとい、「理科実験室のクリーニングショー」のような光景が展開されていくのだった。


「ちょ、アルト君!りっちゃんをそんなに回しちゃダメ!そんな知識どこから入手したの!!」

エネアウラの叫びも虚しく、部屋にはカタカタカタ!という骨の悲鳴と、アルトの楽しそうな笑い声が響き渡る。


八十一章読んでいただきありがとうございます。

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