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ンードラロギア  作者: ああああ


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幕間:おもいがけぬスーパーパワーアップ

幕間です。えぐい話続きでしたので、ギャグ回を入れて読者様の腹筋をほぐせられればと思い、書きました。

アエゾスが引き起こした悪夢のような騒動から、三日が流れた。

街のあちこちには未だ生々しい破壊の痕跡が残っているが、人々の表情には少しずつ生気が戻り始めている。


心配されていたアグリの容体だったが、幸いなことに薬物による後遺症の影響は軽微であることが判明した。特定の薬草を継続的に摂取し、安静を心がければ、日常生活に支障はないという診断だ。

カインは姉の本格的な療養とケアに専念するため、住み慣れたアンゾールマを離れる決断を下した。


出発の朝。カインは沈痛な面持ちで拳を握りしめていた。


「……アニキ。二度も、二度も死ぬような危険な目に遭ったっていうのに。俺は結局、何の役にも立たなかった。……役に立つどころか、俺のせいで、俺の力でこの街がめちゃくちゃになるところだったんだ」


絞り出すような声には、己の無力さへの苛立ちと、親友たちを窮地に追い込んだ自責の念が混ざり合っている。そんなカインの肩を、テイゲンが力強く叩いた。


「何を言ってるんだ、カイン。お前は命を懸けて、俺を救おうと行動したじゃないか。……それだけで、俺にはそれで十分すぎるほどだ。自分を責めるのはもうやめろ。お前が前を向かないと、アグリさんも安心できないだろ?」


「……アニキ」

カインは顔を上げ、義兄の真っ直ぐな瞳に救われたように小さく息を吐いた。だが、視線を彷徨わせ、まだ眠りの中にいる「救世主」の姿を探してしまう。


「結局……アルトに、まともな礼もできずに離れるのがつらい。あいつは、俺たち姉弟を救ってくれた本当の命の恩人なのに。……俺がひどいこと言った時も、あいつは……」


そこまで言って、カインは言葉を詰まらせた。そんな彼に、傍らで荷物をまとめていたプリムが、優しく、どこか誇らしげな微笑みを向ける。


「元気になって、いつかアグリさんと一緒に顔を出してください。それだけで、アルト君はきっと心から喜びますよ。あの子は……そういう人ですから」


「……そうだな。あいつは、そういうやつだった……相変わらず、一番苦手なタイプだったよ。……ふっ、はははは!!」


カインの口から、ようやく乾いた、しかし晴れやかな笑い声が漏れた。嫌いだったはずのアルトの「お人好し」が、今では何よりも温かい記憶として彼の中に残っている。


その横で、もう一人、松葉杖をつきながら必死に威厳を保とうとしている男がいた。


「オルダ様、こんな時にわがままを言って……すみません! 本当に、大変な時に離れることになってしまって!」


申し訳なさそうに頭を下げるカインに対し、オルダは不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「よせやい……。そんな重傷者扱いするんじゃねえ。……っ! 痛たた……。いいか、こんなもんは、怪我の内にも入らん! 俺からすれば、掠り傷のようなもんだ!」


「無理すると治りが遅くなりますよ、オルダ様。小指の骨折は意外と響くんですから」


エネアウラに冷静に突っ込まれ、オルダは『ぐぬぬ』と言葉を詰まらせる。軍神と呼ばれていたプライドと、小指のズキズキとした痛みの間で葛藤するその姿に、場が和やかな笑いに包まれた。


「……じゃあ、行くよ」


アグリを乗せた馬車の横で、カインが最後にもう一度、仲間たちを振り返る。

「ラッシュ、プリムさん。アルトによろしく伝えてくれ。……次は、あいつを助けられるくらい強くなって戻ってくるってな」


「ああ。待ってるぜ、カイン!」


朝日を背に、アグリとカインを乗せた馬車はゆっくりと走り出した。

去りゆく背中を見送りながら、プリムはそっとアルトがいる宿屋の方を振り返る。アエゾスによる騒動が鎮静されてから三日が過ぎた。


アルトが休んでいる『笑顔の家族』の拠点の一室…その空気は、いまだかつてない緊張と……言葉にできない「熱」に支配されていた。


アルトの腕は完治していた。だが、彼は三日三晩、深い眠りから覚めない。そして何より深刻なのは、あの日から一度として、彼の下腹部の「天幕」が下りる気配がないことだった。


「……ありえない。人間の生理現象の限界を超えている」


男性陣はその光景に、得体の知れない神罰でも見るかのように戦慄し、女性陣は視線を泳がせながらも、頬の紅潮を隠しきれずにいた。


「女人独りでのアルトへの面会は厳禁!」と鉄のルールを敷いた当のエルキア本人が、誰よりも激しく動揺し、アルトの枕元で右往左往するという皮肉な結果となっていた。


布地の中で峻厳しゅんげんとそびえ立つ「聖剣」を囲むように、オルダ一行が集結する。


「……プリム。あなた、あの場所で何があったのか、一部始終を見ていたのは貴女だけなのよ。本当のことを言いなさい」

エルキアが、苛立ちと焦燥で眉間に深い皺を刻みながら詰め寄る。


「えっと……私も、何がなんだかよくわからなくて……」

プリムは視線を落とした。あの日、魔王がアルトに跨り、艶めかしい声を漏らしながら「毒」を吸い上げた光景。それをそのまま伝えれば、今のボロボロなエルキアは精神崩壊を起こし、魔王討伐という無謀な特攻をしかねない。プリムは核心部を『優しさ』という名のオブラートで幾重にも包み、真実を墓まで持っていこうと覚悟した。


「女がいたでしょ! ちょっと強いからって周囲に圧をかけまくって、まるで『天上天下唯我独尊』という熟語に手足が生えたような傲慢な女が!!」

エルキアは天に向かって唾を吐かんばかりの勢いで叫ぶ。


「そ、そうですね……その女の人の手から、パァっと光が出て……。そしたらいつの間にか、アルト君の腕が元通りになっていたんです。本当です!」


「それよ! そいつが黒幕なのよ! キィィィーーーッ!!」

地団駄を踏み鳴らすエルキア。その姿は、高潔なエルフの指導者というより、恋路を邪魔された少女のようだった。


「エルキア様……落ち着いてください。貴女の消耗も深刻なのですよ」

エネアウラが心配そうにエルキアの肩に手を伸ばそうとして接触した、その時だった。


接触の衝撃で、エネアウラの肩に鎮座していた「りっちゃん(緑のぬいぐるみ)」が足を滑らせた。

『あ……』

時間は、残酷なほどにゆっくりと刻まれ始める。


りっちゃんは重力に引かれ、吸い込まれるように、アルトの股間にそびえる「天幕」の頂点へと落下していく。全員の目と口が、スローモーションの中で驚愕に開かれる。


――ドスッ。

りっちゃんのぬいぐるみの右頬が、聖剣の先端に抉られるように激突した。


その瞬間だった。

『パァ……ッ!』

眩い光が迸り、次の瞬間、パァン!という小気味よい破裂音が響く。りっちゃんのぬいぐるみの背中が弾け飛び、中から白く華奢で、しかし神秘的な輝きを放つ「全身骨格」が生み出された。


そして驚くべきことに、その上顎骨じょうがくこつ下顎骨かがくこつの間に、アルトの聖剣がスッポリと収まる形になっていたのだ。そしてその先端は第七頸椎まで達していた。

(ああぁぁぁっ!!オ、オェッ!!なにこれ、我の身体が熱いぃ!! 芯から力が湧き上がってくるぅ!!)


瞬く間にりっちゃんの骨格に膨大なマナが充填され、激しい黄金のオーラが吹き出す。


「さっさと離れろぉぉぉーーーっ!!」

エルキアが、聖剣をへし折らんばかりの勢いで、りっちゃんの頭骨へ渾身の一撃を放つ。だが、魔力が底をついた彼女の拳では、覚醒したりっちゃんの『あぶみ骨』一つ動かすことすら叶わなかった。


「この絵面は骨だけど…ディープが過ぎる…まずい!! 通報レベルだ!!」

ラッシュが慌てて、聖剣に深く嵌まったりっちゃんを引き抜いた。


解放されたりっちゃんは、自らの指骨を開閉し、そこに宿る圧倒的なマナを噛み締める。

『なんという力だ……!!! 信じられんほどの凄まじい力が……!!! こ、これが「口淫こういん」というやつなのか……!!!』


りっちゃんは両腕の骨を天に突き上げ、高らかに勝利を宣言した。

『勝てる!!! 相手がどんな奴であろうと負けるはずがない!!! 我は今、究極のパワーを手に入れたのだーーっ!!!』

そしてどこからともなくターバンとマントを用意して身に着け、腕を組む。


『待っていろ…晩御飯』


「…骨がどうして晩御飯を求めるんだよ?食べれないだろ?」

オルダは当然の突っ込みを入れる。


「師匠!その突っ込みは違います!これはターバンとマントの師匠が弟子である伝説の戦士を助けにいくシーンを再現しているだけです…って完全にアウトだろ!!」

ラッシュは思わず自爆してしまった。


「りっちゃん、そのセリフ、完全に『咬ませ犬』が負ける直前に言うフラグよ」

エネアウラが冷静に毒づく。


「やめて!エネアウラさん!!女子はそう見るかもしれないけど、男子はみんなかっこいいと思ってるんすよ!!」


「今の私の戦闘力は530000よ…でもマナが回復してフルパワーになったらこんなものじゃ済まないんだから…覚悟しておいて!!」


「エルキア様!!世界の理を無視してはだめです!!この世界に『戦闘力』という都合の良い数値は存在してはいけないのです!」

プリムが、エルキアの暴走を身を挺して押さえようとする。事態を収拾しようと必死に叫ぶが、部屋の温度は別の意味で上昇し続けていた。


「しかし、我に絶大なマナを付与したこの聖剣……実に神々しいな。どれ、その真姿をこの目に焼き付けようか」


骨格標本と化した「りっちゃん」が、恍惚とした様子でアルトの腰を覆う布地に細い指骨をかける。その瞬間、部屋中に悲鳴が響き渡った。


「りっちゃんさん! アルト君の『聖剣』を見ちゃだめぇぇーー!!」


「離れなさい、この不届きな骨!!」


プリム、エルキア、二人が、文字通り一丸となってりっちゃんに飛びかかり、その暴挙を阻止する。


「ええい、離せエルフの小娘ども!! 特にプリム!倉庫で布地をめくり、愛でていたのを、我が知らないとでも思ったか!!」


りっちゃんの指摘に、プリムが弾かれたように顔を跳ね上げた。

「ち、違います!! あれはアルト君の怪我の状態を確認していたんです、誤解ですっ!!」


「……まぁ、プリムさん!? あなた、あなたもアルトを狙っているの!?」

エルキアが裏切られたような顔でプリムを凝視する。


「あ……いや……その……見てません! 見てませんったら!!」


(うわー、わかりやすい反応っすね、プリムさん……)

ラッシュは引きつった薄ら笑いを浮かべながら、一歩、また一歩と後退する。


隣ではオルダが酒瓶を抱え、悟りを開いたような顔で頷いていた。

「ラッシュよ、関わると寿命が縮むぞ……。これは男が立ち入っていい領域じゃねえ。酒の肴にして遠巻きに眺めるのが、長く生きるコツだ」


その時、どさくさに紛れてエネアウラが、熱を帯びた吐息と共にエルキアの耳元で囁いた。

「……エルキア様。りっちゃんがマナを回復したように、貴女も同じことをしてみてはいかがでしょうか…ハァ、ハァ……じゅるり……」


「だ、だめよエネアウラ! そんなはしたない……。これは『聖剣』、尊いものなのよ……。私のような消耗し穢れたものに、その資格はないわ……」


エルキアは頬を染め、うっとりと「天幕」を見つめる。

「あぁ……神聖なものなのよ、これは……」


「ええ……神聖ですね。だからこそ、汚してみたい……とも思えてしまうわ……」


「エネアウラ!? ダメよ、帰ってきて! あなたの理性が崖っぷちよ!!」


そこに、マントとターバンを翻したりっちゃんが、腕を組んで割り込んだ。

『この『聖剣』を第七頸椎まで深々と納めた我こそが、この『聖剣の鞘』に相応しい。神聖なる『聖剣』から下がるがよい、雑兵どもめ!』


「りっちゃん!骨で具体的に何を言っても性的表現に当たらないからって、マウントをとるなんて卑怯よ!! アルトは私のものなの!! 誰にも渡さないんだから!!」

エルキアの絶叫が響く中、プリムの脳内では火花と黒い煙が吹き出していた。


「主様、今ここで『聖剣』を我の恥骨と仙骨にこすりつけましょうか…?この表現、何者も止めることはできませんぞ?」


「うるさいわね!神が許しても私が許さないの!」


(あぁ、アルト君の『聖剣』が完全に神格化されてしまった。もう本当のことなんて言えないっ……)

プリムは引きつった笑いを浮かべ、心の中で叫ぶ。


(……神聖。……神聖、ね。……それ、三日前に魔王が『よいしょ』って言って、胎内なかにズッポリ入れちゃったやつなんです……! なんて、死んでも、死んでも言えないっ!!)


限界を迎えたプリムが、自棄クソ気味に叫んだ。

「あーー!! もう!! だったらアルト君はみんなのモノでいいじゃないですかぁ!!」


シーン……。

静まり返る室内。プリムは「あれ? 私、何か間違えた……?」と首を傾げる。


『エルフの小娘!! ポッと出の分際で、いい度胸だ!! 貴様の胸部を我が魔法で貫いてやろう!』

りっちゃんが二本の指を眉間に押し当て、鋭い殺気を込めた魔力を高め始める。


「おい! りっちゃん! それ、指先からドリルみたいな螺旋の光線出すやつだろ!? 色んな意味でマズイって、やめろ!!」

ラッシュが必死に骨の腕を抑え込む。


「下がれラッシュ!我とアルトは骨と肉がぶつかり合った『骨肉の相食む仲』よ、我だけが特別なんだぞ!」


「それ、響きが良いだけでおまえが言いたいことと、意味は全然違うからな!」


「やっぱりプリムさんもアルトを狙っていたのね! どいつもこいつも、私のアルトに発情して……!」


「プリムさん……良いことを言うわね。エルキア様、私と貴女……二人では埋まらない『穴』を、これで埋めましょう……私は見ているだけで幸せです」


「りっちゃんさん、骨と肉はぶつかっていないです。そこには布地という越えられない壁があったのよ、ゴムですらないんだから」


「うわ…プリムさんなかなかにえぐい…」


「ガハハ!言うねぇ、確かにエールも『生』が一番だ」


地獄のような女たちのキャットファイトを眺めながら、オルダが遠い目で呟いた。

「……なぁ、ラッシュ。昔、これと似た遊びがあったよな。歌に合わせて椅子の周りをくるくる回って、歌が終わったら座る……っていう……」


「え……? あ、やばい。師匠のせいで、脳内に最低にいかがわしい絵面が生成されたっすよ……」


「もう、それで決めちまえばいいんじゃないか?」


「いや師匠、それ……マジでやったら、椅子アルトが無事で済まないやつですって…ポッキリと折れて…ダブルミーニングで再起不能リタイアです!!」


幕間読んでいただきありがとうございます。


すみません、幕間の題名も、名作漫画の295話を丸パクリさせていただきました。

りっちゃんは言うまでもないですが、魔王によってアルトもスーパーパワーアップを果たしているという二つの意味を込めて…。


エルミア(アグリ)さんは女性陣同士の掛け合いに絶妙なバランスをもたらしてくれる存在だったので、ここで退場させるのは実に惜しいことをしてしまったと後悔しています。


エルキア様がパワーダウンしてただのチョロインになっちゃってますが、そんな状態をしばらく続けるか、すぐに回復させるか…悩んでいます。

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