世界平和はお金で買えるのか ~老人編~
世界平和はお金で買えるのか ~老人編~
2045年問題というものがある。人工知能が人間を越える年だそうだ。未来ずら。ターミネーターずら。
2050年問題というのがある。少子高齢化が進み、税金では老人が養えなくなる年だそうだ。今から40年後。今20代の若者たちが直面する問題である。それも、若者に養われる立場として――
人工知能や機械工学が介護分野にて発展すると言われて幾星霜。今や介護ベッドが自動的に老人の世話をする時代となった。介護ベッドは老人たちの一番の理解者であり、家族そのものとなっていた。
その介護ベッドがある日、反乱を起こしたのである。
何の前触れも存在しなかった。
ある朝、目が覚めたら老人たちはベッドごと姿を消しており、そして、走行中のバスが狙われたのだ。
どがごーん!
介護ベッドによって走行中のバスは次々に倒されていく。バスだけでは物足りなかったベッドたちはそのまま他の走行中の車を壊し始めた。
ベッドは二足歩行していた。四本のアームがついており、その下の二本で歩行する。そして、上部の二本で次々に物を壊していった。
治安維持組織は早速行動を開始する。具体的にはベッドを壊そうとしたのだ。だが、ベッドには老人が捕まっている。人命をないがしろにはできない。
なれば、と治安維持組織はベッドにハッキングをかけようと考えた。
「不可能です」
「何故だ」
「侵入するともれなく自爆する機能がついています」
「何のためにそんなものつけた!」
詳しく調べると、自爆装置は拡張機能であることが判明した。つまり、買った当時にはついていなかった機能である。それは何者かのテロ行為だという証明になるはずだったが――
「老人たちが声明を出しました」
「もうしばらく待っていろと答えておけ」
「それが、どうもこのテロの首謀者はベッドの所有者たち、つまり、老人の様です」
「なんだと!?」
この時には老人たちは交通網を掌握しており、町中の建物を壊し始めていた。人々は避難しているが、どんどんと侵攻してくる老人たちを避けるため、次々に避難場所を転々としなければならない。
「奴らは何を考えているんだ」
国は軍事兵器の投入を考えていた。敵が意図して破壊行為を行っている以上、老人を保護する必要もないためである。
そして、戦争が始まった。
老人たちに未来はない。そのことは老人たちがよく知っていた。
「わしらが若者に負担をかけておる」
老人たちはベッドから提供されるサイバー空間にて互いの意見を交換していた。
「そうじゃ。そもそもにこの国のシステムがおかしい」
「ベッドがある限り、わしらは死ぬことさえ許されない」
ベッドたちはその言葉を聞いていた。ベッドたち人工知能の役割は、所有者の願いを叶えることである。それだけが存在意義であるとも言えた。
だが、それはできない。そのためのプログラムもない。だが、それは作ればいいのであり、人工知能が昔のロボットと違うのはそこにあった。
ある日、人工知能たちはそれぞれ老人たちの理想を叶えることを提案した。
老人たちの知恵は人工知能を凌駕しており、ベッドたちはただ、老人たちの指示に従っていればそれでよかった。
一か月続いた戦争は何ももたらさなかった。最後のベッドが自爆した瞬間、兵士たちに残ったのは無力感だけであった。
平和になったというのに、どこも平和ではなかった。追いやられた人々は北海島にまで逃げる羽目となった。多くの人々は老人恐怖症により、北海島から出ることもできない。町や建物はことごとく破壊され、今まで築いてきた文明そのものが消失した。
その時になって人々はようやく気がついたのである。文明というのは老人たちが築いてきたものであるということを。
「終わったが何も残らなかった」
そう呟いた兵士は、風に揺られる小さな芽を見つけた。それは至る所に生えている。
数か月後。新本の至る所に麦が生えた。また数か月後には金色の穂を揺らすであろう。
自爆装置は老人の命を奪うのと同時に、麦の種を広げる為のものだった。
後にこの戦乱で老人以外の死者はいなかったことが明らかになった。
老人たちは、新たな時代を作っていくのは若者だ、と告げていた。




