若さを取り戻せ!
若さを取り戻せ!
うちのおじいちゃんは定年退職して、今は年金暮らしだ。学校に行っているわたしとは違い毎日のんびりと暮らしている。
「いいなあ、おじいちゃんは。毎日ダラダラできて」
わたしは嫌味を言います。でも、おじいちゃんは優しいので怒ることはありません。今日はその代りおじいちゃんはこんなことを言いました。
「じゃあ、その若さ、わしにくれんかの。レミもおばあちゃんになればダラダラできるぞ」
そんなバカなこと、と思う反面、わたしはおじいちゃんの提案がとても魅力的に感じていました。そう。わたしがお年寄りになれば、わたしもダラダラできるのです。
「いいよ。あげる」
そう簡単に言ってしまったのが事の始まりでした。
おじいちゃんを見るとおじいちゃんは特撮でも見ているかのようにみるみると若返っていきます。おじいちゃんはなんと、石原裕次郎似でした。
そして、わたしの方は――
「ぎゃあああああああ!」
声さえしわがれています。体は縮んで皺だらけで、眼もかすみます。体中が痛くてだるくて仕方がありません。
「しばらくの間、楽しませてもらうからの」
そう言っておじいちゃんは家から出て行きました。
「と、こんな事情なのです」
「そう」
家族の反応はこんなものだった。午前中に出かけたおじいちゃんはまだ帰ってこない。
「わたしがおばあちゃんになってしまっているんだよ?」
「でも、おじいちゃんが若返ったんなら、変わらないじゃない。家にいる年寄りの数は」
なんという家族でしょう。
でも、これは私自身が望んだことでもありました。今さらながら、後悔していますが。
「あんた、自分でトイレやらお風呂はいけるわよね」
「……自信ない」
おじいちゃんは時々トイレに間に合わなくて廊下で催すことがありました。また、お風呂も危ないということで誰かに見守られながら入っていました。
「じゃあ、誰かについて行ってもらう?」
「それは嫌だ」
もう恥ずかしさで死んでしまいそうです。
でも、ようやく思いました。おじいちゃんはずっとこんな羞恥心の中わたしに笑顔で話しかけてくれていたことに。
「この家のお金だって、おじいちゃんの年金でとっても助かってるの。あんたの学費とかね」
わたしは私立学校に通っています。だから、お金がかかるのです。
「ねえ。おじいちゃん、いつ帰ってくるかな」
「帰ってこないかもよ」
「え!?」
「だって、若さを取り戻されたら困るじゃない」
確かに、わたしがおじいちゃんの立場なら、決して若さを譲ったりはしません。老体というのがこれほど不自由なものだとは知りませんでした。
「そう、だよね」
わたしはおじいちゃんがずっと若い方がいいんじゃないか、と思い始めていました。わたしのように将来に何の希望も持たない人間よりもおじいちゃんが元気な方が世の中のためのように思えますし――
「まだ若いんじゃから、そんなこと気にせんでええ」
わたしの肩にポンっと手が置かれました。その瞬間、体中から血液が暴走して、沸き立って、そして、どんどんと若い姿に戻っていきます。
わたしは後ろを振り向きました。そこには石原裕次郎の面影はなく、いつものわたしの優しいおじいちゃんがいました。
「いいの?おじいちゃん」
わたしは涙を流していました。
「なに。ちょっと悪戯が過ぎたかの」
おじいちゃんは心配そうな顔をして言いました。
でも、わたしには分かっていました。おじいちゃんがわたしに未来への希望を持たせるためにこのようなことをしでかしたのを。
「パンドラの箱には希望が閉じ込められておったのじゃから」




