老人ガンダム
老人ガンダム
そこは天地がひっくり返った場所だった。
いや、違う。地はあるが、天にも地がある。要するに、ここには天がない。
それもそのはずであろう。この巣の外に広大な宇宙が広がっているのだから。
「アムロ。アムロ」
老人は聞き慣れない名前を呼ばれるので、折角の睡眠を中断せざるを得なかった。
「一体誰じゃ。わしを変な名で呼ぶのは」
「ジオンが攻めてきた」
「は?」
うっすらと皺だらけの瞼を持ち上げると、そこには逃げ惑う老人。そして、緑色の巨人。
「おお、ザク、じゃ」
老人は働き盛りの頃目にしたアニメの光景そのものに驚きを隠せない。
(ぶいあーるとかいうものかしら)
ぎゅいん、ぎゅいん。
緑の巨人は真っ直ぐ老人のもとへと向かって行く。それを眺めているだけの老人の手を引っ張り走るものがいた。老人と同じ歳か、それより年老いた老婆だった。
「おい、どこぞの婆さん。走ると血管が詰まるぞ」
「そんなこと言ってる場合じゃないわ」
確かに、巨人に踏み潰されればひとたまりもない。
「わしはどっちかというと、ジオン派だったんじゃ。ほら。奴らを見てみい。近接武器しか使っておらんじゃろう。あれはコロニーを傷付けないためじゃ。まあ、ミラーを蹴り破いておいて今さらな気もするがの」
「早くガンダムに乗れ。ポンコツ」
老人はポンコツ呼ばわりされてムッとする。だが、ぽんっと蹴り飛ばされた瞬間、老人は白い巨人の体内に埋没する羽目になった。
「おいおい。老人の体にモビルスーツはキツイぞ。そもそも、連邦が初めて作った試作機がこれほど強いって、設定おかしくない?ザクを盗んでそれで戦う方が理にかなってない?」
老人の言葉に耳を貸さず、ロボットはその胸に蓋をする。そして、老人が望むと望まざるとに関わらず、勝手に動き始める。
「だから、死んじゃうだろ!」
老人は戦う前から死にそうであった。
「モビルスーツはシルバー用に作ってないんじゃ。兵器じゃからな。全然平気じゃない」
うぅおぉおぉおぉ!
老人は敵が無意味な雄たけびを上げているのかと思ったが、違うようだった。緑の巨人にも老人と同じく老人が乗り込んでいて、勝手に巨人が動いている。
「お互い精が出ますな」
もう出なくなった精を懐かしみつつ、老人は老人に最後の挨拶をした。
場面は急に漆黒の世界に変わる。
「ほおう。これが宇宙恐怖症というやつか」
宇宙には何もない。太陽に近ければ近いほど、足場を演出する星の光は弱くなる。ただでさえ、宇宙は地球に比べて星が見えないのだ。今老人の目に映るのは己のなれの果てのようなスペースデブリのみ。
老人の前にぎょぎょしい音楽とともに赤い何かが近づく。
「来おったな。赤い彗星」
通常の三倍で動く赤い巨人が現れる。
「ちなみに、あの有名なセリフを言ったキャラはあの後、すぐに死んだぞ」
老人は赤い巨人にもまた、老人が乗っていることを確認する。だが、老人たちの意思に関係なく巨人は動く。
「お互い大変ですなあ」
「そうですなあ」
老人たちは優しそうな目で呑気に挨拶をした。
巨人たちは老人たちと何の関係もなく、激しく戦い続ける。
すると、どこからともなく光の帯が巨人たちを囲んだ。
光の帯から小さなおじさんのように小さな老婆がひらひらと舞っている。
「ララァまで老婆だとは」
老人が失望したところで、夢は終わった。
「アムロが……シャアが……」
「ママ。またおじいちゃんが変なこと言ってるよ」
「おじいちゃん、時々夢と現実が分からなくなるから。どうしたの?おじいちゃん」
「わしがアムロで、シャアが……」
「志波さんなら、去年亡くなったわよ。安室さんは、誰かしら。軍隊の頃のお友達?」
「おじいちゃん、戦争には行ってないでしょ?」
「ああ!そうね!」
「……」
老人の話を誰も聞きはしない。そのような老人たちが毎日同じ夢を共有しているという不思議な体験も、老人の話に耳を貸すものがいない限り、表に出ることはない。




