11. 希望の朝
早朝、出先から戻ったらマダガスカルが木に登ろうとしているのを見つけた。
ミエイさんが植えた、枝葉が上の方にしかない大きな木である。かなり上までいかないと枝はないのに、どうするのかと思いきや、布と布を固く結んでつなぎ合わせ、バンドのようなものを作っている。材料は、おそらく俺の貸した毛布とシーツだ。
連れと一緒に、そのまま見学していると、それを木の幹と共に自分の背中を巡らせ、ぐるりと回して支えにした。そして布で背中を支えつつ、布を持つ手と、幹にかけた足の力だけで上へ上へ登っていった。マダガスカルのくせに何とも器用なものである。
ふと、上を見上げた。樹上に実が見えた。人間の赤ん坊の頭部サイズの実が、ちょうど熟している。そういえば昨日はマダガスカルと遊んでいたから実を収穫していない。
俺は足下の手頃の大きさの石を拾い、実の付け根へ狙いを定め、投げつけた。石は狙い通り命中、俺は落ちてきた実をあやまたずキャッチした。さすが俺。腕は落ちていない。
「俺の朝食~~~!!!」
上の方からマダガスカルの叫び声が聞こえた。何を吠えているのだろうか。腹が減っているのか。
腹が減っているのならそういえばいいのに、何故あんなところに登っているのか。変なマダガスカルだ。
俺は腕の中に実を抱えたまま、連れと一緒に家へと戻った。
収穫した実は自由にしてよいとミエイさんに言われているので、一緒に俺の家にやってきた双子に提供した。
双子が仲良く二人で実を分け合って、もそもそと食べはじめたころ、マダガスカルが騒がしくも、俺の家に登場した。
「おい、エレ。おまえ!」
やってきて早々叫ぶマダガスカルに、俺は外に出て冷静に挨拶をした。
「おはよう、おまえ起きるの早いな」
挨拶は人間関係の基本である。
「おはよう。おまえこそ朝早くからどこ行っていた」
きちんと挨拶は出来るようだ。俺はマダガスカルの質問に答えてやった。
「朝を迎えに」
「何故にそんな言い回し。相変わらず意味不明だな」
そのままの意味なのだが。マダガスカルには分からないようなので、俺はもう少し付け足してやることにした。
「俺は闇の神だからな」
「夜行性ってか? 普通に家に帰ってただけじゃないのか?」
おかしなことを言う。俺の仕事は夕方と明け方のみである。特に夜動く習性はない。
「俺の家はここだぞ?」
「はいはい」
俺は訂正してやったのだが、適当に流された。マダガスカルは反抗期のようである。
「ところで、何だ? そいつらは」
マダガスカルが室内の双子を指さして言った。
「そいつらって、双子のこと?」
俺はマダガスカルのために竈の準備をしながら質問を返した。
「いや、その前に……、どこから突っ込めばいい?」
マダガスカルがまた頭を抱えている。こいつは頭に持病でも抱えているのだろうか。……そうだな、持っているかもしれない。
しばらくしてから立ち直ったマダガスカルが、今度は俺の手元を指さしながら尋ねてきた。
「何を、作っている?」
マダガスカルの質問に、俺は捏ねていた赤土に、水と藁を足しながら答えた。
「竈」
見て分からないのだろうか。
俺は同時に木枠の位置を定めた。焚口の大きさはこれ位でよいだろうか。
「何故、竈を作ろうと思った?」
「腹が減っているのだろう?」
一度に訊けばいいのに、マダガスカルは質問を小出しにする。細かいやつだ。それにいちいち答えてあげる俺は、なんて優しいのだろう。
「スタート地点がおかしくないか? 後ろの二人にツッコむ前に、おまえへのツッコミが追いつかねーよ!」
マダガスカルが何だか脱力している。
双子は実を食べ終えて暇そうにしている。俺はマダガスカルのためにも、竈の製作に全力を注ぐことにした。




