息子ですわ
陶器を作った次の日、私は弓にできそうな木を探していた。
「駄目だな・・・・やっぱりジャングル奥地の木は、脆いのが多い」
巨木を斧で叩いて、ちょっと木材を採ったらナイフを立ててみる――まるでウリだ。その上、信じられないほど軽い。
「こりゃ駄目だ」
この辺りは巨木しかない――もっと背の低い木を探さないと・・・・なんて困っていると、
「ピヨピヨピヨ」
どこからか、ヒヨコのような鳴き声がした。
ん?
何の声だろう。
私は声のする方向――茂みの方に歩いていく。
茂みを覗くと、グッタリした鳥がいた。
「鳥?」
と思ってその体を見ると、なんか馬い。
顔は白頭鷲なんだけど、体が馬だ。
「黒い――ヒポグリフ?」
そういえば、Loveナレクにいたっけヒポグリフ。
貴族とかが好んで、馬車の馬にするんだっけ。
グリフォンはさらに王族とかが好む。
ハルモニア家? 普通の馬だったなぁ。
ちなみに、ヒポグリフはグリフォンと牝馬が交配して、生まれるモンスター。
グリフォンにメスは居ないんだよね。だからグリフォンは牝馬と交尾する。
Loveナレクでもそう。
しかしこの世界のグリフォンも同じなら、牝馬はヒポグリフを育てるだろうか?
馬は優しいから育てようとする事はあるかもしれない。
しかし育てるのは無理な可能性が高い。
この子の口は鳥だし、乳を飲むのには向いていない気がする、食性が鳥なら草も食べないだろう。
馬は虫や種子を捕ってヒポグリフにあげられるんだろうか? 育てられるだろうか?
無理だろう――自然にヒポグリフが育つのは、恐らくありえないんじゃないだろうか。
じゃあなんでこの世の中に成獣のヒポグリフが存在するかって、多分、人が育てている。
「それに」
・・・・私は、辺りを見回す。
――周囲に、母馬やグリフォンは見当たらない。
「君、一人なの?」
「ピィピィ」
その上、馬の子供にしては体が小さい――猫くらいしかない。
仔馬よりずっと小さい。
多分優しい馬のことだ、地面に寝転がってヒポグリフに乳をあげようとしたことだろう。
でも、ヒポグリフは乳が飲めない。
ヒポグリフが、私に寄って来る。
(警戒心ないなあ。野生どうしたー?)
・・・ところが、このヒポグリフの赤ちゃんは、体力がないのか倒れてしまう。
それでも翼を広げてバランスを取りながら、ふらつき、つまづきながら寄ってくる。
私はヒポグリフの赤ちゃんを思わずすくい上げていた。
ここで私の母性が暴走した。
「助けよう! 〖金属生成〗」
私は銀のストローを造って竹の水筒の栓を抜いて、ストローを水に突っ込んで、ストローのおしりを親指で押さえて水を取り出した。
みんなご存知、大気圧で起こる現象だ。
「飲んで」
私は、半開きになっているヒポグリフのクチバシに水を入れてあげる。
すると、ヒポグリフが目をつむって、美味しそうに水を飲みだした。
め、めんこい。
愛してキュン。
「でも水だけじゃ駄目だな。虫とかあげないと。――命を救うのに命を奪うのはどうなの? って思うけど・・・・」
私は近くに居たシャクトリムシみたいなのを、捕まえる。
それをヒポグリフの赤ちゃんにあげた。
丸呑みにするヒポグリフの赤ちゃん。
「・・・・まあ、私も普段から沢山の生き物を食べて生きてるんだから、今更こういう事を考えるのは止めとこ」
多分虫一匹じゃ足りないだろうから、近くに見つけたイネ科っぽい草の種子を採ってヒポグリフの赤ちゃんの口に突っ込んであげる。
たぶん、猫じゃらしだな、これ。
私はスカートを太ももの裏に巻き込みながら、ヒポグリフの赤ちゃんの隣に座った。
そうして辺りから、食べられそうな物を掴んでは、ゆっくりとあげていった。
しばらく待っていると、ヒポグリフの赤ちゃんは元気になった。
私の肩に乗って頬を擦り寄せてくる。
「いい子いい子」
大分待ったけど、この子の親らしい者が近寄ってくる気配は無かった。
「君・・・ウチに来るかい?」
「ピィ!」
「いい返事――じゃあ行こうか?」
「ピィ!」
私は子猫サイズのヒポグリフの赤ちゃんを抱っこして、帰路につく。
「ヒポグリフの赤ちゃんだと名前が呼びにくいから、名前がほしいね・・・・そうだなあ――」
私は赤ちゃんを、高い高いするように掲げる。
ヒポグリフと言えば、風――よし、ストリームから名前を取って、
「――リーム。君は今日から、リームだ!」
「ピピー!」
リームが嬉しそうに翼をバタつかせた。
「あ、男の子だね、君」
「ピピッ」
自慢げに鳴くリーム。
「ふふっ――あんまり名前を付けるの上手くなくて、ごめんね」
「ピ?」
私がリームを抱っこして立ち上がった時だった。
背後の茂みが揺れた。
そこからゆっくりと現れたのは巨体。それは一頭の黒い馬だった。
「ピィ!!」
リームが激しく鳴いて、翼をバタつかせた。
「も・・・・もしかして、リームのお母さん?」
そ、そっか、お母さんが迎えに来たならリームは返さないと。
「えっと、ごめんなさい! よかったねリーム、お母さんが迎えに来たよ!」
ママから子供を引き離すのは、絶対に駄目だ。
「お子さんをお返しますね」
私がリームを黒馬に差し出そうとすると、黒馬は急に「ブルル」と嘶いた。
そうしてリームの匂いを嗅いで、頬ずりをした。
その後、黒馬はしばらくリームの瞳を見つめた。
なんだか急に「元気でね」――そんな声が、聞こえた気がした。
リームも寂しそうに「ピィ・・・」と鳴く。
まるで「お母さん、さようなら」と言っているみたいだった。
もしかして・・・・――そうか!
・・・・やっぱり黒馬には、リームが育てられないんだ・・・。
私がリームのお世話をしてたから、遠くから様子を見てたのかな・・・。
それでリームが元気になったから・・・私に?
黒馬が、私に頭を下げてくる。何度も何度も。
やがて黒馬は、頭を下げたまま踵を返し、森の奥へ消えていったのだった。まるで項垂れているかのようだった。
「・・・・そっか。分かりました。・・・息子さんをお預かりします。私にお任せ下さい」
私は黒馬に頭を下げて、リームを抱っこし、拠点へ向かうのだった。




