石けん作りですわ
「さて、当面の食糧はあの狼を食べるとして」
保存方法が少ないから、ある程度は燻製や乾燥肉にして、残りは皮に包んで、冷たい地面の中に埋めておこう。
木の上は駄目だ。猿系、鳥系、小型獣系、虫系――様々なモンスターに狙われる。
んで、初日にやれることは全部やろう。もう夕方だけど、次は、
「石鹸をつくりましょう」
乙女だから、清潔大事。
「えっ、石鹸って作れるの!?」
「し、質が悪くていいなら、石鹸自体は簡単ですわよ。強いアルカリと油を混ぜればいいだけですわ」
駄目だな・・・・あまり親しくない他人と話し出すと、どうしてもどもる。しかも相手はあの宮村さんだもんなぁ。
「アルカリ? 科学の実験の?」
私は、昨日の焚き火を指さす。
「た、たとえば、あの灰。炭酸カリウムが混ざっていますわ。水に溶ければ強アルカリ水溶液になりますのよ」
「強アルカリ・・・・別に肌とか溶けないんでしょ?」
「溶けますわよ」
「ひゃい!?」
「思いっきり高温で長時間熱して純度を高めた灰を水に溶かし、しばらく指を入れているとただれていきます」
「こわっ、灰こわっ!!」
というわけで石鹸作り。
なんかメグが作業する私を、怯えながら遠くで見てる。
「と、溶けちゃうよ~」
と、か細い声。
「・・・この灰は不純物が多いから大丈夫ですわよ」
私は呆れながら、オオカミの油を灰水に入れて、加熱しながら混ぜ混ぜ。
今日のところは動物性油だけど、そのうちパームの油に変えよう。
できた粘性の物質を木箱に移して。
「完成」
「お、お手軽!?」
「あとはこれを数日天日干しにすればいいですわ」
「灰で石鹸ってできるんだねぇ」
「ですわね。普通は電気がないと、石鹸を作るのは難しいんですけれどね。そのうちゲットする予定な、塩湖にあるナトロンと石灰を混ぜて水酸化ナトリウムを作ったら、電気がなくても石鹸が作れますわね」
「・・・なんか、よくわからなくなってきた」
「あとは尿を腐らせて」
「石鹸に尿!?」
あ、そうだ。ついでに釉薬も作ろう。
「こんどは、土器から水分が染み出さないようにしますわね――次に焼く土器からですけれど」
「えっ、そんなこともできるの!?」
「灰があればできますわ」
「灰万能説!!」
「ガラスでコーティングしますのよ」
「あー!」
「しかし、ガラスの元の石英――二酸化ケイ素は1700度という鉄より高い温度でないと溶けないですわ」
「えっ、どうするの・・・・。というか、ガラスって簡単に溶けてるのよく見るけど」
「そう。ガラスとは、その簡単に溶けるヤツですわ。真名をソーダガラスと言います。石英は溶けにくい、けどソーダガラスは溶けやすい」
「あー・・・」
「例えば石英に灰――つまり炭酸カリウムを混ぜれば量にもよりますけれど、700~1000度位で溶けるようになります」
「一気に下がった!」
「灰を多めに入れれば、あのロケットストーブ炉でも溶かせますわ――そしてガラスでコーティングさえしてしまえば、ある程度の酸やアルカリも扱えます。ビーカーやフラスコの代わりにもできますのよ」
ビーカーやフラスコはいずれ必要になる。
「石英とかはどうするの??」
「この辺り、主な地質が花崗岩なので、そこら中にあるんですのよ・・・この黒と白のツブツブの石を砕けば、もう釉薬になりますわ」
「へー」
実際花崗岩は釉薬として使われていた。面白い風合いが出るんだよね。
ただ、硬いのよ、花崗岩。
というわけでなんとか砕いて灰と一緒に水に溶かして、焼く前の粘土の器に塗って炉に入れた。
そして放置して、寝る。
メグが心配そうにする。
「蚊とか来ないかなー」
私は、小屋の真ん中で燃える焚き火を示す。
「ある程度、大丈夫ですわ。こうして煙が出てると、蚊は寄ってきにくいんですのよ」
「そうなんだ?」
「なので、古い時代は案外、家の中では蚊に困ってなかったと言いますわ」
「ほえーーー」
というわけで、炉や焚き火は放置して寝た。
「アリシアさん、なにしてるの?」
「魔法の練習ですわ――〖金属生成〗――26 イェルン」
(〖金属生成〗――26 イェルン)
ポンっと、生まれる2つの鉄球。
あっ、やっぱ口と脳内で同時詠唱すれば、多重詠唱ができる。
じゃあ〝アレ〟もできるか、今度試しておこう。
あとは、作る物質の精度を上げたいな。複雑で精密な物を作れるように・・・と。
とりあえず、竹に、魔法の詠唱を全部書いておこう。
「よし、詠唱を思い出さないとね。・・・・思い出せ――全てを!」
次の日の朝、焼けた土器を炉から取り出す。
「メグに、水分と空気が入らないようにしてもらったので割れたりしてませんわね」
「メグミちゃん偉い!」
メグが「頭、撫でてー」と向けてくる。
「え、偉いですわ」
私はナデナデしてあげた。
「にししっ、アリシアさんにナデナデしてもらたぁ」
なんか嬉しそう。
まるで、夏の青空に浮かぶ入道雲をイメージさせる笑顔。
さすが陽キャの擬人化は違うぜ。
でも大丈夫か? 君の頭撫でてるの教室の端で「デュフデュフ」言ってた陰キャやぞ?
「器はもっと増やさないとですわね、花崗岩を砕くのはかなり苦労したので・・・いいものを使いましょう」
メグの頭を一通り撫でたら、新しく粘土を器の形にしたものに、灰、水、黒曜石の粉を混ぜた釉薬を塗り――
「まってアリシアさん!!」
「どうしたんですの?」
「それガラスの元じゃない! 黒曜石だよ!?」
「黒曜石は石英――クリスタルと同じ、主成分がケイ素ですわ」
「同じなの!?」
「ですわ。なのでこれを溶かせば釉薬になります」
なにより黒曜石は、石英や花崗岩より圧倒的に砕きやすいのがいい。
「ほえー。どこで教わったの?」
「このくらいは予想でいけますわよ」
「今から実験!?」
さて、これを炉に入れて。
「次は武器ですわね。――喫緊で身を守るのは、ナトリウム投石機でなんとかするとして、いずれは銃ですが欲しいですわね」
「ほんとに黒曜石で焼き始めちゃった。――え・・・銃?」
「で、ですわ」
「銃作れるの?」
「もちろんですわ」
「危険人物だーーー!」




