英雄ヒエですわ
虚無僧メグが尋ねてくる。笛を吹く真似して口で「ふぉー、ふぉー」言ってる。
私は頭にリームを乗せてる。
「まだ畑で収穫してないのに、いきなり泥がいるんだね」
「ジャングルの土は本当にやばいんですのよ。周りの植物を観察してみなさいな。どんなのが生きてます?」
「木! 草! ――・・・草? あれ・・・草に見えるのも、茎が結構太いし、葉っぱが頑丈で、でっかい」
「そう、サバンナや草原で見るような草があまり生えてないでしょう。その代わり、草がない訳ではないですけれど、ツタやシダ、背の低い木が視界を塞ぐ。――わたくしは植物学者ではないですけれど、ここからわかることは恐らくこうですわ。この森の植物は、巨木を生態の頂点に、巨木に巻き付いて利用するツタ類と、日光をあまり必要としないシダ類がメイン」
「な、なるほど」
「追加に、生き物から直接栄養を得る3種。分解者の菌類や苔と、土の栄養が足りないから生きてる虫を食らう食虫植物(Loveナロクの植物は大型の哺乳類も捕食するけど・・・)。なんておかしなことになってんですわ」
「そういえば言ってたね、ジャングルの果物の多くが消化酵素を持ってるって。普通の草はここでは生きていけないんだね」
「ですわ。背の低い植物なんか僅かな光も逃さないために、あんなに葉っぱが大きい。しかし葉の細いイネ科はキツかった。だから、バナナ――イネ科ではないですが近縁種や、竹のようにまるで木みたいに進化したんですわ」
「竹も!?」
「・・・ほう」
スギタさんも感心の声をだした。
タカヤマさんは知っていたのか、頷いていた。
「ですわ。だからバナナの皮にも、たけのこの皮や笹と同じような抗菌作用があるんですわ」
「全部イネ科なんだ!? ・・・あ! メグちゃん凄いことに気づいた!」
「どうしたんですの?」
「パンダが笹を食べるのって、変だなぁって思ってたけど、他の動物と同じくイネ科食べてる・・・!」
「ああ・・・・わたくしも今気づきましたわ――やりますわね、メグ」
「おー! アリシアさんも気づいてなかったー!」
「ええ、驚きましたわ。――あと、あれとあれはイネ科ではないですが、あれも草ですわ」
メグが、近くの木みたいな草を見上げる。
「ヤシも・・・草なの? ――あっ、パパイヤもあるじゃん! 実が黄色く熟してる!! アリシアさん、帰りにもいで帰ろ!」
「ですわね――幾つか酢作りに使って宜しいかしら?」
「宜しいですわ!」
するとスギタさんが申し訳なさそうに言ってくる。
「アリシア・・・酒の時点で少し分けてくれないか?」
「もちろん、宜しいですわ。多めに作りますわね――では壺では少しきついので樽を作っていただけるかしら――ゴブリンの巣を攻略した時の樽は捨ててしまいましたし」
ゴブリンって不潔なんだもん。
ゴブリン退治した時の話は、また今度。
「助かる。もちろんだ」
「私も助かります」
メグがパパイヤを見上げる。
「なるほどジャングルに草が無いわけじゃなく、草も木みたいに進化しないと生き残れなかったんだね」
「けれど、全く背の低いイネ科がジャングルに無いわけでもなく、開けた場所――湖の側や、湖の中ならイネ科も生息してますわ。だからこそ水浸しの環境でも生存できる、米やヒエができた」
「な、なるほど・・・ジャングルみたいな環境が有ったからこそ、田んぼが作れたんだ?」
「ですわ――恐らく、そんな地域からイネは伝わったのでしょう――一緒に、ヒエも」
私が転生する前の最新の研究では、恐竜のフンの化石からイネ科が発見されてた。
恐竜が生きていた頃、イネの発祥のもう一つの候補、東南アジアはまだ海の底だった。
こからは私の勝手な仮説だけど。パンゲアからの大陸移動ルートとして、イネ科はインド亜大陸に元々あった。でも赤道付近に接近した時に、インドに巨木が増えて、イネ科はバナナや竹みたいに巨大になるか、水辺に押しやられた。まるで都落ち。――やがて水浸しの環境でも生きられるように進化した可能性がある。
その後、海底の隆起で生まれてきた東南アジアにも生息域を広げていったんじゃないだろうか?
そんな理由で、水中で生きるイネ科が生まれたのは東南アジアではなく、恐らくインド亜大陸。と私は予想する。スゲーそれっぽい仮説じゃろ?
で、水中で生きるイネ科がやがて米やヒエになり、東南アジアから日本に伝わってきた。米と同時に、ヒエも。
昔はヒエも立派な主食だった。私が簡単に育てられると、サバイバルで選ぶくらいには、農耕技術が未発達でも育てられるくらいには。
逆に、米は育てるのが難しすぎる。
「稗」なんて、まるで卑しいみたいな字を当てられてるけど。
ヒエは、何度も飢饉から人々を救ってきた英雄ぞ。
「なに。卑しいと言われ、田んぼから追い出され、それでも人々を救っちゃうなんて。ヒエくん、追放系主人公なの?」
小説のタイトルはこうかな?
『米の代用品と言われ「卑しい」と田んぼを追放された俺、飢饉が来たら英雄扱いされました』
私が脳内で、ヒエを追放されても優しい笑みを失わない、雑草精神を持った黄金の髪のカワイイ少年に擬人化して「ヒエくんウチに来るかい? デュフデュフ」などと言っていると、メグに気味の悪い物を見る目で見られた。
ヤバイ、あれは学校で周りのみんなが私に向けていた目が転生してきている。
寂シアじゃなくて、アリシアのフリをしなければ。
「と、というわけでイ・・・・イネ科は巨木になるか、水中で生きるしかなかったんですわ」
「――本当に地獄みたいな環境なんだね・・・そんな場所でイネ科のヒエを使って農業できるの?」
「だから、湖底の泥で、土壌を改良するのです。まず土の表面には栄養があるから、それは混ぜ込みますわ。さらに畑に必要な3大栄養素は、窒素、リン、カリウム」
「教えてもらったリンと、窒素しかしらない~」
「脳に酸素と、知識が足りてませんわね。――あとは土壌の酸性を中和するカルシウム」
「こりゃひでぇや。なんというストレートパンチな罵倒。メグミちゃん泣いちゃうぞ」
「カリウムなら、塩湖で見つけたじゃないですの」
「あっ! 火薬の材料!」
「ですわ!」




