銅ですわ
そういえば麹が無くても、味噌もかなり無茶苦茶すれば作れないことはないな・・・・大豆を口噛み酒状態にしてデンプンを分解、そこにタンパク質の分解酵素を持つ物を入れて・・・ゲテモノだな――私のSAN値まで削れ始めた。やめとこ。
気合を入れたメグが、私の手元を見て「あ、ごめん。作業続けて」と、言いながら私が手に持つ緑の石を覗き込む。この石は、孔雀石。
「宝石?」
スギタさんは、拠点に魚を運ぶため帰っていった。拠点はすぐそこだけどね。
「宝石といえば宝石ですけれど・・・」
「翡翠じゃないの?」
「翡翠はもう少し透明感がありますわ。これは孔雀石です」
「初めて聞いた宝石かも?」
「〖金属生成〗――26 イェルン」
私は孔雀石を、鉄の棒を作って砕き始める。
ある程度砕いたら、石臼(スギタさんに作ってもらった)を使ってさらに細かくする。
「な、なにしてんの!? 宝石をそんな粉々にして!!」
「孔雀石は銅の原材料なんですわ」
「えっ、銅って金塊みたいに、銅塊って感じで土に埋まってるんじゃないの?」
「確かに黄銅鉱という、もっと結晶みたいなのが有りますけれど、あれは硫黄が不純物として混ざりやすいので、質のいい銅にしにくい」
「あじかぁ」
「あじですわ――というかほら、この金色の部分」
「あっ、銅だ!」
「この緑色の成分の多くは、銅が酸化して積層したものなんですのよ。だからこれは紛れもなく銅ですわ」
「おー!」
「そして、この金色の部分は、銅に戻しにくいので今は使いません」
「え!? そっちこそ銅って感じなのに!?」
「ここは、恐らく黄銅鉱と同じ成分ですのよ」
「・・・あー」
「いずれ量産が必要になったら、こちらも使いますけれど、今は使えませんわ」
孔雀石の緑の部分と、石灰石と、炭を、石臼で細かく粉々にする。そして、カオリナイトで作ったでっかい試験管みたいな器(坩堝って奴)に投入する。
そうして錫石も粉々にして、石灰石と、炭を混ぜ――孔雀石とは別の坩堝に投入。
「え、それ木炭じゃない!? 不純物ががが」
「むしろ木炭を入れることで不純物がなくなるんですわ」
「ふぁい!?」
これら2つの坩堝を、さっき作った窯に空けておいた穴へ差し込む。あとは、窯の中にも炭を入れて燃やす。
温度が足りないなって思ったらフイゴ(今は手動)も使い、窯の中に酸素を送りながら熱する。
「こうして温めると、錫石や孔雀石とくっついていた酸素を木炭が奪って二酸化炭素になって抜けていくんですの。メグ・・・・ちょっと疲れたんでフイゴ代わって下さいまし」
「おけ~。木炭が気体になって消えていくとか、なんかもう魔法みたいな世界だね――あっ、アリシアさん、ウチ凄いことに気づいた!」
「なにか、面白い化学反応にでも気づきました?」
「温めると溶ける。つまり温melt!」
「・・・・。――脳みそでも溶けましたの? 頭meltですの?」
「こりゃひでぇや!」
「あ、火が十分になったのでフイゴはもういいですわよ」
メグがフイゴを離して、背中に背負っていた弓を「ベンベン」弾きだした。
そうして、私の後ろで昔動画サイトで流行った歌を歌ってた。
「石灰石は何のために入れたの?」
「2つの効果が有りますわ」
「一挙両得なのかぁ」
「ケイ素(ガラスの素)ってそこら中に有るんですのよね、なのにこれがまた溶けない。なので石灰石で溶けやすくしてこの孔雀石はガラスや他にも不純物が多いでしょうから、それらも包んで回収」
「石灰石凄い」
この石灰石は、スカルン鉱床から取ってきたのを砕いただけ。地産地消。
「こうして金属を取り出す工程は、スカルン鉱床でのできごとの再現なんですわよ」
「どういうこと?」
「スカルン鉱床ができる時、高温のマグマ成分や熱水が石灰石と衝突しますわ」
「そうなんだ?」
「ええ。高温と、石灰石――」
「あっ、その坩堝の中と同じ!」
「そう、スカルン鉱床ができるときも、石灰石と衝突したことで、マグマや地中に含まれていた金属などが沈殿しやすくなります」
「だから大事な金属が集められる?」
「ですわ。石灰石によって重要な元素が纏められた場所――天然の精錬所、それがスカルン鉱床の正体。そしてわたくしが今高温の中に銅と石灰を入れて銅を集めているのも、その再現」
「なるほどぉ!」
「さて、こうして、酸素もケイ素も他の不純物も取られた孔雀石は、銅に変化」
錫石の方も、同じような反応をして、坩堝の下に金属スズが溜まった。
浮いているスラグを丁寧に取って、燃料が勿体ないので、溶けたままのスズと銅を――スズ1:銅9の割合で混合。
「あ、混ぜるんだ?」
「これで青銅になりますわ」
「へー、青くなるの?」
「金色になりますわ」
「あれ?」
「青くなってる青銅は、酸化してるんですのよ」
「錆びてるの!?」
「孔雀石の緑と同じですわ」




