醤油ですわ
さて、銃本体を作ろう。カオリナイトで作った炉に向かう。
魔法で型を作って、型の内部から熱しながら焼き固めた炉を作り、その炉で焼いた――という1手間掛けたレンガを積み重ねて、巨大な煙突と、炉を作った。
これはもう、本当に高温になるよ。
フイゴも無しに、鉄を鍛造できるかもしれない。
まあ、フイゴを使う気マンマンなんで、川の近くに作ってる。
さらに燃料も高温がでる石炭とか使う気マンマンなんだけどね。石炭がないなら、備長炭みたいな高品質の炭や、細かい炭を固めたオガ炭みたいなのを使っても良い。
私が銅を抽出する準備を整えていると、メグとスギタさんが帰ってきた。
「アリシアさーん! 向こうの荷物、全部運び終わったよー! 新・拠点に置いてきた!」
「終わったぞ、アリシア」
メグが振り向いて、ラクダチョウたちを抱きしめる。
「ラクダンナー、キャメリーナお手伝いありがと」
「クエーーー!」
「クワッ!」
メグは頬ずりしてくるラクダチョウたちに翻弄されて笑ってた。
ところでラクダンナー、キャメリーナ、私に頬ずりしてもいいんですのよ?
「お帰りなさい二人とも! 何事もなくてよかったですわ。ありがとうです。お疲れ様」
「にしし~。近いからねー」
「今戻った」
近いって、2日の距離だよ?
「アリシアさんの役に立てて、メグちゃん嬉しい。ここで銅を溶かすの?」
「ええ。そのつもりですわ」
「にしても、綺麗な川を見つけたねぇ!」
「まあ、偶然ですわ」
「このままでも飲めそうなレベルだよ!」
「多分飲めますけれど、止めておきなさいな」
「はぁい! でも、なんでこんな場所に窯を作ったの?」
「水車でフイゴを動かすつもりなのですわ」
「え・・・・この辺り、前の川に比べたら河の流れ弱いよ・・・? ミスった?」
「深ければいいんですわ。パワーがあれば、それは速度に変換できます。パワー is スピードですわ」
「なるほど、意味はわからないけど、アリシアさんもいよいよ力 is パワーが、わかってきたんだね!」
「そんなもの理解したら、脳ミソが筋断裂起こしそうですわ」
その後、私が仕掛けていた籠罠を持ち上げたメグが高く持ち上げ、「お魚いっぱい!」とか叫んでいた。
タカヤマさんも同じ罠を仕掛けていたから、メグがそれも持ち上げてる。持ち上げるたび「お魚いっぱい!」と、やってる。
スギタさんも手伝い始めた。
あの罠、簡単な作りのクセに滅茶苦茶優秀で、食べ残しを入れておくだけで売るほど魚が穫れる――売る相手がいないけど。
「あの水質なら、刺身・・・・。――だめだめ! ・・・・なにをホームシックに脳を冒されてるんだ・・・」
「アリシアさん。あの罠、すごい量のお魚が、捕れるね!」
「ですわね」
ふと、メグが私に力なくしなだれ掛かる。
えっ、なにごと!?
「大変ですアリシアさん」
「メグ、きゅ、急にどうしたんですの!?」
「メグちゃん、絶賛ホームシックです。ステージ8」
アンタもホームシックか。でも、それは・・・行き過ぎてステージ降りてない?
どっかの厨二病患者みたいに。
「アリシアさん、メグちゃんを治して。お薬ちょうだい。具体的には『ちゅー』して、『ナデナデ』して」
「バカに付ける薬ですか、作り方は存じ上げませんわね」
「こりゃひでぇや」
だってクラスのトップカーストだったメグに、私の中身が、元・クラスメイトの陰キャってバレたら捨てられるでしょ。
こっちもバレないように、ポーカーフェイスを気取るのも必死なんだ。
あと『ちゅー』は無い。そっちの気は・・・・ないこと、ないけど・・・ないということにしておいて。
「じゃあ、夜には何か日本の料理を作ってあげますわ。――にしても魚、ものすごい量とれましたわね――余ったお魚は、肥料と――醤油にしましょうか」
あれじゃ燻製にしても、食べきる前に腐っちゃう量の魚だ。実際、魚が結構余っちゃってる。
もう、干物にしといて食べないぶんは肥料にしたほうが良さそう。
魚は、凄く良い肥料になるんだよね。
わたしは肥料のことを考えてたけど、メグはもう一つの方が気になったようだ。
「しょしょしょ・・・・醤油!?」
「ええ。魚醤――魚で作る醤油ですけれど」
「魚で醤油ってできるの!?」
「似たものができますわ。――そもそもタンパク質と、分解酵素さえあれば、醤油関連はできるんですのよ」
「分解酵素・・・漬けておくんだよね? お酒の時みたいに、菌?」
実はスギタさんとタカヤマさんと出会って間もないころ、酒造りはしたんだよね。
その時の話は、またいずれ。
メグは、あの時の酒造りを覚えてたみたい。
「いえ、大豆から作るの醤油は菌が必要なんですけれど、魚で作る場合、魚は体内に分解酵素を持ってますの。なので塩漬けにしておけば、勝手に醤になりますのよ」
魚醤を作るなら、大量の塩と一緒に魚を漬けておけばいい。
「お魚便利!」
「ああ、魚だけではないですわよ、異世界行ったら、醤油が恋しくなるでしょう。その時のために覚えておきなさい」
「ここが異世界!」
「でしたわね。――まず貝」
「オイスターソース!?」
「それは違いますけれど、牡蠣で作ったら、牡蠣醤油って奴ですわ」
「あー! 卵かけご飯によく合うやつ!」
「――ちなみに、ほぼ全ての貝類が、タンパク質を分解する酵素を持ってますわ」
「でも、なんでそんな酵素もってるの? 自分を溶かすとか意味わかんない」
「この酵素とは、要は消化液ですわ。胃酸とか」
「あーーーっ!」
「他にも、植物や菌類ならパナップルとか、キウイ、舞茸もタンパク質を柔らかくする酵素をもってますわね――玉ねぎで分解した醤は美味しいらしいですわよ」
「お肉柔らかくするヤツ等!」
言った、メグが考える仕草になった。
「メグちゃん・・・・怖いことに気づいたかも」
「ん?」
「も、もしかして動物って、胃ごと漬けたら・・・」
「なりますわよ、醤に」
「ギャァァァ!!」
「そういう意味では、食虫植物ウツボカズラの分解液とかでも、醤は作れます」
「ヒィィィィィィ!!」
「そもそも、パイナップルが消化酵素を持っているのも、栄養の取得に一役買ってるんですのよ――パイナップルの葉は筒状に生えて、真ん中に水がたまります。そこに虫が落下すると、水や消化酵素で栄養になるんですのよ。パイナップルは半食虫植物という感じですわ」
「パイナップルって食虫植物だったの!?」
「いいえ、パイナップルはそれに近いだけです。ですがパイナップル科には、完全に食虫植物と分類されている種がありますわ。――というか、ジャングルの果物は多くがお肉を柔らかくするんですのよ」
「栄養がないから・・・・?」
「素晴らしい洞察ですわ」
「なんか、醤油って怖くない?」
「ようこそ、恐るべき醤の世界に――ちなみにツボが開いていない、内部が無菌のウツボカズラに肉やコメを入れて、蒸し焼きにする料理が存在――」
「も、もうやめてー! メグちゃんのSAN値がガリガリ削られてるの!!」
「・・・・じゃあ、ここらで止めておきましょう。――ただ、麹がないと、醤油作りは滅茶苦茶時間が掛かるんですのよねぇ。普通、魚醤ができるまでは1年とかになります。――ただ、ここは温かいので6ヶ月くらいかしら? ・・・メグ、6ヶ月、ホームシックを辛抱できます?」
「・・・・メグちゃん辛抱するぅ! 気合で乗り切るぅ!!」
「あっ、でもメグ。ウツボカズラの分解液なら、もっと早く――」
「メグちゃん、確固たる意思で、半年待つ―――!!」
メグは強い意志で、ホームシックを耐えるらしい。




