ガスマスクですわ
「近代化に必要なのは、電力。金属(材料)。火薬(軍事/工業力)だ。スカルン鉱床と火薬で材料と軍事工業は揃った。あとはエネルギー――強力な磁石が欲しいなぁ」
とりあえずこれで、塩湖で欲しい物は手に入った――帰りはカルデラを通ろう。風の裂け目の近くにカルデラがある。
と、帰っている途中――ふと思い出す。
そうだ。たしか塩湖の端には、アレが有る可能性・・・・。
「アニメで大好きになった私の推し宝石――フォスフォライト!」
アニメで「脆い脆い」言われてたけど、そりゃ当たり前、リンの鉱石なんだもん。
「『水35L、炭素20kg、アンモニア4L、石灰1.5kg、〝リン800g〟、塩分250g、硝石100g、硫黄80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、その他少量の15の元素……』」
私が呟いた、有名な人間の構成物の説明。
ここで言われている通り、リンは、人間の体で鉄より多い構成物。フォスフォライトはつまり、元・生き物の体なんだ。
ちなみにリンを生き物の体から取り出すのはメチャクチャ大変、一番大変とも言われるレベル。
硝石作りから解放されたのに、リン作りが立ちふさがるのは勘弁して。
というわけで、塩湖の端を掘ってみる。
閉じ込められた海に、生き物が沢山いただろう頃の地層。
「なにしてるのアリシアさん?」
「宝石を探してるんですわ」
「宝石?」
ふと視える、ほぼ透明でわずかに薄い青の宝石・・・・!
ピッケルの先で削ればあっさり削れる! よし、脆い!!
フォスフォライトもゲットだ。
その後、カルデラに寄って、ドラゴンに見つからないようにこそこそ。
「長居したくないので、手分けしましょう。スギタさん、タカヤマさん辰砂を探してくださりますか? ――このマスクを付けて、それでも硫黄の匂いがする場所には近づかないように」
私がタカヤマさんに望遠鏡を渡すと、タカヤマさんが首を傾げる。
「辰砂とは?」
「赤い石で――」
するとスギタさんがマスクを付けながら、頷く。
「安心しろタカヤマ、辰砂なら見たことがある」
「本当ですか! それは助かります」
「だが、どういう地形にあるのかがわからないな」
私は、スギタさんに答えた。
「地下水に削られたような地形を探してくださいまし――ただ、窪みにあるかもしれないので、そういう場所だったら入らないでくださいまし。望遠鏡で確認するだけにして下さい――そしてもし、硫黄の匂いがしていて、急に匂いがしなくなったら、息を止めて一目散に逃げてください」
「大丈夫、その辺りは私が心得ています。じゃあ行きましょうか、スギタ」
「ああ。ドラゴンにも注意しよう」
「あまり長居したくないので、陽が頂点に来る頃には戻ってくださいな」
2人は、手を振って答えてくれた。
こうしてスギタさんとタカヤマさんが、2人で辰砂の探索に向かった。
男同士、2人、何も起きないはずはなく。
なんて2人のお尻を眺めながら、心のなかでナレーションを付けて、メグを振り返る。
「メグはここにいて下さいまし」
「えっ? ――メグちゃんも、なにかするよ?」
「ここから先は、危険ですので」
私は口を覆うマスクを付ける。
「そういえば、タカヤマさんとスギタさんにも渡してたけど、そのマスクなに?」
「ガスマスクですわ」
私は大げさにも見える巨大なガスマスクを、しっかりと付けた。
メグが、目を見開く。
「ガ ス マ ス ク!? ――え、毒ガス!?」
「これからメグが前に言っていた、温泉地に行くんですのよ」
「硫 化 水 素!!」
「ですわ」
「即死する奴じゃん!! アリシアさん死んじゃうじゃん!! やだ!! ウチも行く!! 緊急事態の時は、メグちゃんがアリシアさんを背負って逃げるの!!」
「そういう知識だけはしっかりと付けて・・・・大丈夫ですわ。死にませんわよ」
「アリシアさん死んだら、メグちゃんもどうせ野垂れ死ぬんだから、一緒に行くの!」
「わたくしが死んでも、タカヤマさんと、スギタさんがいますわ」
「やだ! 一緒に行くの!!」
「無理ですわ!」
「なんでッ!!」
「マスクが、もう、これ1つしかありませんわ」
「・・・・わざとだね?」
「まぁ、わざとですわ。――でも本当に大丈夫ですわよ」
「そのマスク、信用なるの?」
「まあ、多分」
「多分!?」
「ジャングルで見つけたパンヤって言うのがあったでしょう?」
「あー。糸にしようとしたら、繊維が短いし、ボロボロに砕けるし、無理だった役に立たなかった綿」
「その役立たず・・・を、綿を灰にして、さらにそれを水にとかして炭パンヤに染み込ませた、かなり強い硫化水素対策ですわ」
それをバナナの皮の繊維で編んだ(メグが)布に、詰めた。
「どうしてそれが対策になるの? しっかり説明してくれないなら、メグはアリシアさんをここでロープでキャメリーナに縛り付けて帰るからね」
「・・・・それじゃぁ火薬が作れなくなるじゃないですの」
「まず、硫化水素ガスを炭の多孔質が捕らえます――さらに灰水のアルカリが、硫化水素を中和して酸性から中性にしますの」
「えっと、えっと」
メグが目をあちこちに彷徨わせながら、なんとか理解しょうとしている。
「あ、そっか。――なるほど・・・・確かにかなり無効化できそう」
「あとは、管の辺りは静電気を帯びていて、静電吸着も起こしますわ」
「せーでんきゅうちゃく?」
「下敷き髪の毛を立てたことは?」
「あるある!」
「あんな風に物体を吸着するんですわ。ガスを吸った粉の1つも通しません」
「おお・・・なんか本格的だ」
「あとですわね。――最後の手段、逃走」
「え、逃げられるの?」
「ええ。タカヤマさんもご存知でしたけれど、硫化水素はまず、嗅覚を破壊してきますの。なので臭いがしなくなった瞬間、即座に息を止めて引き返せば、助かる可能性があるんですのよ」
「か、可能性かぁ」
「あと、わたくし、窪地とかガスの溜まる場所をそもそも歩くつもりもないですわ」
「な、なるほど」
「まあまず、死ぬことはありませんわ。アリシアを信じなさいな――それよりドラゴンが怖いので、メグこそ気をつけてくださいまし」
「うん・・・・わかった。じゃあメグはここでリームとラクダンナーとキャメリーナのお世話してる。――早く帰ってきてね!? ずっと心配してるメグがいるってこと忘れないでね?」
「もちろんですわ」
というわけで私は湯の花採取に向かった。




