思いつきですわ
激しい拒否に遭って、計算式を教えることは叶わなかった。
その後は、エリマキトカゲみたいな竜種に追いかけられたり(ラクダチョウの脚力で逃げ切った)、ロードランナーみたいな鳥のモンスターに追いかけられたり(こっちは逃げ切れそうになかったので、メグが射殺した)しながら旅を続け、砂漠でキャンプ。
「寒い寒い寒い」
メグがリームを毛皮の中に入れてしまった。
私は仕方なくキャメリーナにより掛かる。
タカヤマさんとスギタさんはどうしてるかな。もしかして、2人で抱き合ってたり?
ラクダンナーに寄り掛かってた。
とりあえず、スギタさんが火を起こしてくれる。
あ、バナナの繊維を火口にしてる・・・・そっか、あれでもいいんだ。
メグが、焚き火に手のひらを向けながら震える。
「なんでこんなに寒暖差激しいの!? 太陽が昼は真上、夜は裏側だから?」
「違いますわ」
「あ、あれ!? そう聞いたよ?」
「俺も聞いたことがあるな」
「私は初耳ですね」
スギタさんも聞いたことあるらしい。
タカヤマさんは初耳。
「わくしもその説明をどこかで聞いた気がしますけれど、乾燥してるからですわ」
「そ、そうなの!?」
「ほう」
スギタさんが星空を見上げた。
澄んだ空気に星がよく見える。ほんと澄んでるからなぁ・・・水分もあんまりないほど。
「ええ。ここは北緯40シア度――惑星の赤道からは結構離れてますのよ」
地球なら北緯28度くらい。太陽が赤道を通ると、球状の地球の結構影になるくらいの位置。
「そして砂漠はこの辺りにできやすい。なのに砂漠はどこも昼は灼熱、夜は極寒なのか? ――水分という温度調節役がいないからですわ。昼は太陽のエネルギーで直火焼き、夜は宇宙に太陽からもらったエネルギーを全部お返ししまーす。ってやってるんですのよ」
「地面の熱が、宇宙まで飛んでくんだ?」
「ですわ」
「あっ、そうだ。アリシアさん、メグミちゃん前から気になってたことがあって。聞いていい?」
「答えられることならこたえますわよ?」
「アリシアさんなら、絶対知ってると思う。――えっと、エネルギーって質量なんでしょ? E=mc²!」
「へぇ。その式をよく知ってましたわね。人類史上最も美しいな物理式の一つですわね」
「メグちゃんだって、有名な式は知ってるよ! で、毎日太陽から膨大なエネルギーが降ってきてるんでしょ?」
「ええ、そうです」
「重さにしたらどのくらい?」
「160トンちょい位だったはずですわね」
「え、そんなに!? で、質問なんだけど、太陽のエネルギーで地球が重くならないの?」
「今こうして寒いみたいに、宇宙にほぼ全部返してますわ」
「な、なるほど・・・」
メグが砂を握って星を遮る文明の光がない空に「君も宇宙帰るかー?」空に投げた。
砂が舞って、メグが目を押さえた。
「あだだだ」
「・・・なにやってんですの」
「ご、ごめん」
私が水筒を渡すと、メグが目を洗い始めた。
あの水は、私がモンスターの血に魔法のナトリウムを少量ずつ混ぜて、30分で魔法が消える現象を利用して、水分を増やしてから蒸留したもの。
この旅、砂漠での水の確保が結構難題だった。
水は巨大なオオカミ達の内臓から作った水袋に入れて、ジャングルから大量に持ってきたけど、それでも、もう旅が2週間近い。
ラクダンナーとキャメリーナをテイムしてから、サバンナの水辺で水を確保しようとしたけど、水辺はモンスターが水を飲んでいて、これがまた大変だった。
スギタさんと、タカヤマさんとリームの分も確保しないといけないし。
ラクダンナーとキャメリーナも、ラクダだから少なめとはいえ、水を飲むし。
「アリシアさんがモンスターの血を水に変え始めた時は、ビックリしたよ」
「まぁ、背に腹は変えられませんわ」
モンスターの血から、確保した水は、流石に飲料以外だけど(あとラクダンナーとキャメリーナの飲み水もにはしてる。2匹とも、ごめんね)。
私は焚き火で今日、湖で手に入れたばかりの水を、陶器のレトルトで蒸留し始める。
なぜ煮沸ではなく蒸留かというと、この水は出口の川がない湖の水で、かなり塩分が高い。
入ってくる水ばかりの湖――海に流れ出ない湖の水は、溶け込んだ塩類が出ていかない。
水だけが太陽光で蒸発していくので、ミネラルだけが、どんどん濃くなる。
「でもアリシアさん、今蒸留してる水があった場所も塩湖なんでしょ? 目的達成してない?」
「確かにこの水からも塩や、様々な物は手に入ります。ですが、わたくしが目指しているのはこんなちんけな塩湖ではありませんわ」
「塩湖くん、ちんけ言われてる」
「わたくしたちが目指すべきは、地形からして、必ずある筈の元・海が干からびた〝干からび塩湖〟です」
「どう違うの?」
「干からび塩湖なら、生物や地質が何万年もの歳月を掛けて作り上げた様々に有用な化学素材が手に入りますの。生物から有用な化学素材を取り出すのは、非常に難しいんですのよ。しかし、こ干からび塩湖があれば、本来は困難だったり、長い時間が掛かったりする化学工程を、一気に飛ばせますわ。――」
例えば、本来、何年も掛かったりするR-18の硝石作りとかね。
目を洗い終わったメグを見て、私は問う。
「――しかしメグ、貴女いろんなことを突然思いつきでやりますけど、失敗が怖くないんですの?」
「アリシアさんだって、思いつきで黒曜石を釉薬? にしたり、モンスターの血から水を作ったりするじゃん」
「わたくしのは、深い考察と裏付けがあるんですのよ」
「んー、考えてるのかぁ。ウチは失敗が怖くないっていうか――失敗ってさ、未来の説明書じゃない?」
「み、未来の説明書?」
「今のウチは、未来のウチに教えてるんだよ、こうしたら失敗するよって。だから失敗できる時に、沢山失敗しておく。――スポーツも同じなんだと思う、それが練習だと思うんだ」
「・・・なるほど」
メグの言葉に、大人のスギタさんやタカヤマさんまで感心してた。
私も、もちろん感心してしまった。
やっぱメグは凄いなぁ。そんなことを思いながら、砂漠の寒い夜、体を寄せて眠った。
凄く寒いし、やっぱりスギタさんと、タカヤマさんも?
「チラ」
――んな訳なかった。




