メグが驚異的ですわ
私達は、恐らく水の侵食でできたであろう、元・川と思われる谷底を進む。
追い風なのはいいけど、それでも毛皮が吹き飛ばされそうになったりする。
スギタさんが、ラクダンナーなの手綱を引きながら、マントが飛ばないように庇って尋ねてくる。
「・・・・こ、この谷、なぜこんなにずっと風が吹いてるんだ?」
「か、風は、温度差で起こるものですわ。ならサバンナと砂漠の温度差でしょうね。昼の今は、砂漠側の空気が温められて上昇し、サバンナの空気を砂漠側が吸い込んでるんですわ。そして狭い場所だと風はより強くなる。ホースの先を狭くするあんな感じですわ」
すると、ラクダンナーに乗ったままのメグが頷く。
ちなみに、キャメリーナには私が乗ったままで、タカヤマさんが手綱を引いてくれている。
「そういえば、風が吹いてる日に窓をちょっとだけ開けると、風が強くなるっけ。メグちゃん、扇風機代わりにしてた」
「そういうことですわ」
さらに、この傾斜が風をバ◯キルトしてる。
「でも、この先って本当に砂漠なの!? ずっと植物がもっさり生えてるよ!?」
「この風が言ってます。――この先は砂漠だと! この辺りはまだ、サバンナの湿気を含んでいるから植物が育つんですわ」
突風に吹き飛ばさそうになりながらも、なんとか歩いていると――背の低いイソギンチャクみたいな生き物がいた。
メグが警戒する。
「・・・・なにあれ」
「食虫植物みたいなものでしょうね。飛んでくる虫や植物、胞子や種子を、ああして触手で捕らえて栄養にしてるんでしょう」
Loveナレク.sideMⅡにも出てきた。
「怖いやつ?」
「いえ、あれは怖くないですわ」
ただの背景で、モンスターではなかった。
「と言うか、怖いのは――」
背後から風切音。
「メグ、しゃがみなさい!」
言いながら、ラクダンナーの上のメグの頭を押して低くさせる。
「な、なに!?」
頭の上に起こるさらなる風。
振り返れば、モモンガ――いやヒヨケザルだな。キモイ。
そんな生き物が皮膜で風に乗って、こっちに滑空してきていた。
「ゲイルモンキーというモンスターですわ!」
「モンスターだと!?」
「モンスターですか!!」
スギタさんが大木槌を構えて、タカヤマさんが竹槍を構える。
メグも背中の弓を取り出す。私も、弓を構えた。
「気をつけてくださいまし! 奴の魔法、真空。魔法で真空を作り出して攻撃しますの! 風が強いので、できた真空に一気に空気が集まり、威力が増強されてますわ。近くでやられると、衝撃で内臓破裂の危険もありますわよ!!」
「え・・・・」
「内蔵破裂・・・だと!?」
「そんなに危険なんですか!!」
「ゲイルモンキーは、あのイソギンチャクを捕食するんですの。普段はナマケモノみたいにエネルギー消費を抑えていて、量は食べません。移動するときはああして風の力を利用します」
「とことん省エネ!」
魔法さえなければ、全く恐ろしくない生き物なのに。
しかも魔法で使う体力まで風で補うから。どんだけ省エネなんだよ、環境省から表彰物だよ。
私は背中の矢に手を掛ける。
そして弓につがえ、頭上を風に乗って駆け抜けていく、キモイ生き物に向かって放った。
駄目だ、かすりもしやしない。
「――風が強すぎて、弓が真っすぐ飛びません・・・・こんな環境でどうやって弓で戦えと」
スギタさんの木槌も、タカヤマさんの竹槍も当たりそうにない。
私は遠距離でないと戦えない。アリシアと寂シアは、接近戦が苦手なんだよ。
粉塵爆発はこの風じゃ無理だし――というかマグネシウムとかアルミに着火できる熱を用意できない。松明もすぐに消えてしまうだろう。
私が歯ぎしりしていると、メグも弓を構えていた。
そうして目をつむり・・・・。
「・・・風を感じろ――」
・・・・呟いて、目を開いた。
私たちの視線が、メグに集中する。
そうしてどこを見ているかわからないメグの瞳の視線にゲイル・モンキーが入ってくる。
「――風に乗れ。・・・・この線―――ッ!!」
言って矢を放った。
メグの放った矢は風に乗り、まるで風そのものに導かれるように軌道を変え、うねり―――ゲイルモンキーを貫いた。
「・・・・なっ!?」
「こ、これは」
「うそでしょ」
スギタさん、タカヤマさん、私は唖然。
こ、これが、天才って言うもの?
「にししっ! アリシアさん、見てた!? メグミちゃんやったよ!」
・・・いや、そんな「やったよ」で済むレベルじゃないんだけど。
「す、凄まじいですわ、メグ」
「やった! アリシアさんに褒めてもらった!!」
本当に凄まじい物を見た。
無邪気に「ナデナデ」を要求してくる脅威の生き物の頭を撫でて、進軍を再開した。
やがて日が暮れる前に、なんとか谷越えにも成功。
「やっぱり・・・」
「うわぁ、マジだった。アリシアさんの言う事、ピタリと的中してるし!」
「実は、半信半疑な部分もあったが」
「知識の桁が違いますね。アリシアさんは」
私たちの視界に広がったのは、岩石砂漠だった。
「きっとあっちに干からびた塩湖がありますわ。風の裂け目からまっすぐ北西へですわ」
ゲームの地図的にも間違いない。
私達は旅を再開。
「今日の太陽を概算した太陽の高さはおおよそ+30シア度だから」
「それ、よく覚えてるねぇ」
私が、分度器で図っていると、メグがちょっと呆れてた。
忘れたら大変じゃん。
緯度は地球で言ったら25~30度を目指す。この惑星でも恐らく一番乾燥する地域。
だから緯度を測りながら進む。
一応、方位磁石で方角を見ながら進んでるけど。
方位磁石を見ると、ほぼ真南に太陽が来たので、砂漠の大地に映る自分の陰を見る。
自分の陰を見れば、さっきまで伸びていたのが、ちょっと短くなり始めた。
ほぼ真昼だ。
私は太陽の角度を512度分度器で測る。
「えっと太陽の高度が115。夏至補正が30。差し引き85――赤道基準の直角128から引いて・・・・緯度40シア度になりましたわ。オーケー、順調ですわね」
「学校で勉強したことって、役に立つんだねぇ・・・」
「貴女も覚えておきなさいな、512とメグの世界の円周360の変換式は512度をに変換される変数をaとして――」
「やめてメグちゃん数学アレルギーなの!! 数学の先生に嘘つかれた!! 数学って役に立たなかったんじゃないの!? 数学の先生が『数学は、数学の先生になるくらいしか役に立たない』って言ってたのにぃ!!」
まあ天文は数学が大事だから。




