来訪者さんですわ
◆◇◆◇◆
メグが、私が、机においた木を持ち上げた。
「アリシアさん。この木、なんの木?」
「ピヨピヨピ?」
「メグ、気になってはいけませんわよ? コードに引っかかりますわ。あとリーム、その鳴き方もキワキワなので、止めなさい」
「ピヨ?」
私は、2人でそっくりに首を傾げる鳥類と人類に説明。
「この木は――ワサビノキですわ。実が成っていたので、ちょうどいいので採ってきましたの」
「実? 食べるの?」
「いえ、この種をすり潰して、少量の水と混ぜてペーストにします」
「うん」
「そうして、ここに川の水」
「あっ、濁った方の」
「ここに赤土を洗って取り出した酸化鉄を入れて、かき混ぜます」
ちなみに、じゃんごーには赤土がそこら中にある。アフリカの地面って赤いでしょ? あんな感じ。
「うわ・・・茶色い水が、さらに茶色になっちゃった」
「ここにさっき作ったワサビノキペーストを投入して、さらにかき混ぜますわ。あとは、放置!」
「放置!」
「ピヨ!」
その後、私とメグはスカルン鉱床から採ってきた鉱石の仕分け。
「ほら、メグ」
「なに~?」
「これキラキラしてるのなんだと思います?」
「なんだろ? ラメ?」
「金ですわよ」
「キン!」
「ピヨ!」
そして、水を放置して、30分後。
メグが、ふと机の上の水を見て目を剥いた。
「アリシアさん!? ――水が! 水が!」
「窓に! 窓に!」みたいな衝撃の受け方だ、「窓に! 窓に!」は小説なんで、どんな顔か知らんけど。
メグが化物でも見たような顔で続ける。
「透明になってる!?」
「ですわ。ワサビノキは天然の凝集剤なんですわよ」
「ヒエエ」
「さらに、酸化鉄に集められたヒ素も、酸化鉄ごとワサビノキが固めて沈殿させてしまったので、かなり安全に飲めるようになりましたわ。あとは煮沸すればいいですわね」
「アリシアさんが相変わらず人知を超えてく!」
「・・・・古くからある方法ですわよ――酸化鉄でヒ素を集める以外は。もしもの時の為に覚えておきなさいな」
◆◇◆◇◆
「アリシアさん、キノコなんか採ってどうするの? 食べないって言ってなかった? どうしてもきのこ狩りがしたくなっちゃったの? きのこ狩りの女なの?」
「別にきのこ狩りがしたくてたまらない、どこかのギロチンから逃げ回る姫じゃないんですわよ。あと、食べませんし」
「いや、食べないんかい! じゃあどうするん?」
「乾かして、肥料にしますのよ。まだ、本格的な農業はしませんけれど、品種改良は早い方がいいですわ」
「肥料? えっ、キノコって肥料になるの!?」
「メグ、生態系でのキノコの役割ってなんでしょう」
「メグちゃん、しらなーい」
「分解者ですわ。倒木、虫などなどの分解は、キノコ含む、菌類の役目」
「あー!」
「では、彼らが分解者として役目を果たすには、どうしないと駄目かしら」
「んー・・・? 栄養になる?」
「そう、彼らは枯れて砕けて、土に還り栄養に戻る――リン、カリウム、窒素。――土になり、植物が必要とするおおよそ全ての栄養素を大地に残す。そんな栄養を吸って、また植物が成長する」
「うわっ、輪廻!!」
「輪廻ではないですが・・・・循環ですわね」
メグが袖をまくる。
「よーし、メグちゃん、キノコ集めちゃうぞー! どんなキノコでもいいんだよね?」
「ええ。――ただ、あまり毒々しい色のキノコは尋ねてくださいまし。触れるだけで危険な物があるので」
「はーい!」
「ん? ・・・・メグッ!」
私は、メグの頭を抑えて低くさせる。
「アリシ」「――シッ!」
そうして、弓を取り出しながら、木々の向こうを睨む。
「誰かいますわ」
「・・・・え」
メグも、背中の弓を取り出し、矢を番える。
そして目標を見つけて、
「――えっ、人間?」
「気をつけてくださいまし! ・・・・ゴブリンやオーガ――ではありませんわね。――スーツに・・・作業着?」
私たちの弓を見ると、男性2人が手を挙げた。
柔和な笑みのイケメン男性と、野性的な感じのイケメン男性だった。
柔和な笑みのイケメンが手を挙げたまま頭を下げる。なんか手を挙げてなきゃ名刺交換でも始まりそうな感じだ。
「危害を加える気はありません。――あ、杉田さん、交渉は任せて下さい」
柔和な笑顔の男性が、両手を挙げたまま近づいてくる。
「そこで止まって下さいな」
私は言って、矢を向ける。
相手は、害意は無いと言ってるけど、こっちは女子2人だ。男性二人組は十分に警戒対象になる。
一応、一足飛びされない距離で止まってもらう。
弓は構えたまま。
「そちらのお嬢さん――学制服? に見えますが・・・・我々、突然この森にいまして。かなり困惑しているのです。ここは一体?」
答えるのは私。
「魔の森ですわ」
「魔の森?」
「北ティファ大陸。その中央に横たわる、入れば生きてでられないという大森林。それが魔の森」
「・・・・なるほど、にわかには信じられませんが・・・」
柔和な笑みの男性が、遠くの空を見る。
そこには空に浮かぶ島。
「本当に、地球では無い・・・・ようですね」
するとメグが立ち上がる。
「そうなんだよー! オジさん達も転移して来た感じ? メグちゃんも困っちゃって!」
メグ・・・・弓下げちゃってるし、・・・本当に警戒心ゆるゆるな子だなぁ。
〔では、あれも・・・・ギアナ高地ではないのか――これは本格的に弱りましたね。ギアナ高地なら、日本に帰れたのに〕
柔和な笑みの男性が呟いてから、メグを見た。
「――転移・・・・どうやらそのようです。あ、私は高山 妙利。こちらは杉田 鋼一さん」
タカヤマさんが示した男性は、野性的なウルフヘアに作業服で、筋肉質な男性。
「杉田だ」
「宮村 恵だよ~」
「アリシア・フォン・ハルモニアですわ」
「フォン・ハルモニア――? アリシアさんは、この世界の人で?」
「そ、そんなモンですわ」
なんか一瞬、タカヤマさんの笑顔で隠れてる目がほんの少し私の瞳を覗き込んだ気がした。
うーん、この人、油断できないタイプかも?
メグ~、弓下ろしちゃだめだー、油断できない人がいる~。
「でも、オジさんたち、もう大丈夫だよ」
タカヤマさんが、首を傾げる。
「大丈夫・・・とは?」
メグが私を両手で示す。
「アリシアさんと出会ったからだよ! アリシアさんは本当になんでも知ってるし、なんでも思いつくんだよ!」
「へぇ」
「ほう」
「な、なんでもは知りませんし、なんでもは思いつきませんわ!」
タカヤマさんが私を見た。
「とりあえず、共同戦線と行きませんか? 男手が役に立たないということはないでしょう?」
私は、2人を見詰める。
人相学とかはわからないけど・・・。
「確かに男手は欲しいですけれど・・・・メグは美人ですからね」
注意しないと。
アリシアはそうでもないけど。
私は少し考えて続けた。
「まあ、では、少し距離を離した場所に、シェルターを作りましょう」
「助かります」
「ああ」
スギタって人の顔は――あれは、子供を守らないとって感じの顔だなぁ。
まぁ、有難いか。
私が、タカヤマさんと握手すると、森の奥から怒鳴り声が聞こえてきた。
「おいオッサン!! 俺等を置いていくんじゃねぇよ!! これっぽっちの水と食料で生きていけるわけねぇだろ!」
「そうよ、そうよ! 頭おかしいんじゃないの!?」
「すみませんすみません」
大学生くらいの男女だ。
タカヤマさんが笑顔のまま頭を下げて、謝る。
目の奥が一瞬「イラッ」としてた。でも全然それを外に出さない。
ふと、やってきた大学生くらいの男性が、メグを見た。
そうして、衝撃を受けたような顔になる。
・・・・不味いな、あれ、一目惚れしてないか? 運命の人を見つけたみたいな顔になってないか?
隣の彼女さんらしき人は、気づいてないけど。




