運命の出会いですわ
「とりあえず湖畔スタートだったのは有情かも。あそこで色々確保できる。そしたら必要なのは、衣食住。――衣類はいま着ている物があるし、作るのが大変すぎるから後回し。ここの熱帯雨林みたいな環境なら、かなり色々食べられるものが手に入る。なら優先すべきは住居だね。――それからこの元・ゲームの世界はどれくらい現実と同じなのかも調べないと。――まあ、この辺りは化学的な事をすれば追々わかるかな。とりあえず、ナトリウムが水と反応するくらいの化学現象が起きるのは理解した」
実は私、生前は厨二病患者だった。ステージ8位のヤバイ奴だった。
人生のほぼ全てをボッチで暮らし、友達だと思ってた人には「私達、友達だよね」と聞いたら大笑で否定され。
常に「異世界転生したいなぁ」と思うくらいには。
なので、たくさん準備もしてきた。
学校の勉強も「異世界転生学」と名付け、学校の成績は首席。
過酷なサバイバル動画を幾つも視聴し、化学、工学、天文学――さらにはおじいちゃんが製薬会社で働いていたので薬学。暇があれば動画視聴、図書館で本を読んできた。
科学の解説動画もアップしてたし。
発狂のマッド・サイエンティスト『乱子』。それが私の真名。
だから――転生したいなんて思ってたから・・・・神様が転生させたのかもしれない。
けど、魔の森は酷くない? ・・・転生人生すぐ終わるじゃんね。
「お前ならそこでも生きれるだろう?」とか言われてるのかね?
だけど、
「私が妄想した転生は、ゲームの男性キャラに抱っこされてナデナデされる感じだったんだけどなぁ」
夢女子で悪いかー!
まぁ、ナデナデして貰うために知識チートするためにも、色々用意してきたけど。
「これが機関銃か。乱子、偉いぞ」ナデナデ。
「ぐへへ」
こんな妄想だったのに。
まずは目的をはっきりさせよう。
文明作りとかいう前に、今はともかく。
◤オーダー〝生き残れ!〟◢
まぁ、文明作りや生き残りなんて簡単よ。作業台を作るでしょ。
「まて、――私は何を言っているんだ? ・・・・あまりにも異常な状態に、トリップしかけたか」
でも、リアルにサンドボックスするハメになるとは思わなかったなぁ。
私はぶつくさ言いながら、湖の近くにある地面を掘っておく。
やっぱりあった、粘土だ。こういう水はけの悪い場所では、粘土を見つけやすい。まずは現実と同じで良かった。
粘土があれば、土器にできる。
あと、さっき竹が見えたんだよね。
ジャングルには竹がある。別のゲームで学んだ。
ジャングルで竹を探し回ったなぁ。その前にジャングルを探し回った。
昔はジャングルバイオームからスタートとかよくあったのに、すっかりレアバイオームになっちゃって。
なんて思い出しながら、竹を取りに行く。
というわけで竹を発見。――さて、どうやって伐るか。
ナイフで伐ってもいいけど、時間がかかる。
「〖金属生成〗――26 イェルン」
魔法を使えるのは、やっぱゲームだね。
サバイバルとかの動画も、結構見たからわかる。
私は鉄でノコギリを生成。
竹をギコギコする。
カグヤ姫は出てこなかった。とか思っていると、私の背後で「ぼんっ」という音とがした。
「えっ!? なに!? モンスター!? 魔法を使うやつとか!?」
振り返ると、お肉になる予定のダイアハウンドのお腹から煙が出ていた。
「な、なんだ? 何があったんだ・・・」とその様子を観察しようと近寄ろうとしたとき・・・、
また「ぼんっ」ダイアハウンドお腹が爆ぜた。内蔵が飛び出すほどに。
「ななな、何事!? マジで何事!?」
私は『新手のスタンドの攻撃!?』などと混乱しながらも、気づく。
「―――あっ、そうか!! Loveナレク.sideMⅡの魔法で作った生成物は、30分後に消えるから!!」
つまり酸素と水素と合体していた水酸化ナトリウムのナトリウムが消えて、水素と酸素だけが残って爆発したんだ!
さらになんか、ダイアハウンドのお腹がジュワジュワ言って溶け始めた。煙が・・・・。
「なるほど・・・片割れのナトリウムが消えたことで不安定になって、安定しようと手当たり次第に水素と結合してるのか」
「水酸」部分だけが残ったら、それは純粋な塩基だ。だから溶ける。
「でも、これ、マジで怖いな。――まてよ? 塩基なら石鹸も作れる? ――いや、だめだ。恐らくただのヤバイ物質ができるだけだ。石鹸は水酸化ナトリウムで作るものだ。水酸だけで作るものじゃない」
「水酸? そんな言葉はない?」ナトリウムだけが消えるなんて現象がそもそも無いじゃん。
「よし、この攻撃を塩基Doと名付けよう」
なんて中二病を発動しながら、命名してみた。
――危なすぎるから、使い方は応相談だなぁ。
「おっ、タケノコじゃん」
恐怖を感じながらも、視界の端で、お惣菜ゲット。
さらに竹藪を歩いていると、
「あっ、あの若い竹、先端がない・・・」
私は、まだ若い竹を揺らしてみる。
中からぽちゃんぽちゃんという返事。
「やった、竹水が溜まってる。奇麗な水ゲット」
竹に溜まった水は、昔から体に良い水として、神の水なんて言われ薬を作るのに使われていたらしい。ここも現実と同じなのか。――やっぱり、かなり現実に近い世界みたい。
ちなみに竹水は現代地球では美容に使われていた。
女子力があったかはともかく、女子だったから、こういうのは知ってる。
竹水は、生で飲めるこの環境では貴重な水だ。――たまーに飲めないことも有るけど。
「まあ、沸かして飲もう」
私は竹を揺らして音を聞いて、水の溜まっている節を切り落とした。
「動画ではなんか、ジャングルで太いツタ植物を切り落として真水を得てたけど・・・・」
どのツタかわからない。
下手な植物の水分を飲んだら内臓がただれたりするかもしれない。今はやめておこう。
私は知ってる竹水を飲むことを選択して、再び竹水が溜まるように、若そうな他の竹の先端を切り落としておく。
「あ、ノコギリも消えちゃった。まあ、もう帰るから丁度いいか」
そうして薪になりそうな木を拾いながら帰る途中、また発見をした。
「水の音?」
鳥の鳴き声の中に、微かにせせらぎの音。
私は音に引き寄せられるように歩く。
「あっ、川だ!」
きっとさっきの湖に繋がっているんだろうけど、水質も透明で美しい
「流れが早いな――水がきれいなのは多分、あの東の台地や、西の山脈のせいだな」
台地の上に針葉樹林が、かすかに見える。大地が天然のろ過フィルターになっているんだろう。
そうしてあの台地はかなり硬いだろうから、地面が削り取られにくいから水に混ざりにくい。
「きれいな水でよかった。そのままでも飲めそう」
流石に煮沸はするけども。
Loveナレクには状態異常は無かった。だけど、こうも現実と同じだと安心できない。
湖のような動かない水はちょっと怖いし、有り難い。
流れてる方が衛生的だ。
竹藪に戻って、さらに竹を採集。幾つかを水筒に改造。
川に戻って水を確保。
「あと川には、薪が落ちてるよね」
こういう所も現実とおなじらしい。――どうも、ゲームで明示されていた部分はゲームのままだけど、明示されていない部分は現実と同じって可能性が高いな。
なら『Loveナレク .said M』はノベルゲームだから、明示されていないことは無数にある。ほとんど現実と変わらないのかも。
とにかく川べりに流れ着くいて乾燥した木は、煙も出ないでよく燃える。
ソロキャンの知識は『既に、我々が11年前に通過した場所だッッッ!』 夢女子舐めんな。
「あ、松ぼっくりまで流れ着いてるじゃん。やっぱあの台地の上には針葉樹林があるんだな」
キャンプの着火剤と言えば松ぼっくりさん。これはよく乾燥してるし、貰っていこう。
針葉樹みたいな木も流れ着いてるなぁ。
「シダも貰っていこう。シダなら、松ぼっくりさんみたいな着火剤になるかもしれない。沢山持って帰ろう――収穫物がいっぱいだなぁ。――遠くに、アブラヤシ(パーム)っぽい植物も生えてるし」
ゲームには出てこない植物だけど、あれからは塩がほんの僅かだけど手に入る。
塩が手に入れにくいジャングルみたいな多雨の気候では、命綱になるかも。
私はアブラヤシの花をつまんで、これも持って帰ることにした。
「あと、油で、石鹸作れるかなぁ」
女子なのでキレイキレイ大事。
たとえジャングルにボッチでも、清潔だけは乙女の砦。――生きていくためにも。
で、拠点になる場所を探そうとしたら、小さな黒い石をみつけた。
大分丸くなってるけど――、
「黒曜石だ――火山が近いからかな?」
発見が一杯。そりゃ、ここに来たばっかりだから、周りのあらゆる物が素材だけど。
「でもこのサイズだと、道具は作れないなぁ」
私は西――森の端方向を視る。
見事な火山がそそり立っている。
あの火山にはダンジョンがある。ゲームに出てきた。
そそり立つ火山の山頂はカルデラ。何万年前かわからないけど周囲の地形から視るに破局噴火を起こしたようだ。
ゲームのマップを思い出す限り、さらに西では海の一部を陸地に封じ込める程の噴火も起きてる。
多分、地面が裂けてマグマが吹き出すようなことが起きたんだと思う。
恐らく閉じ込められた海は、今では干からびた塩湖になっているだろう。
幸い今の火山は、煙を吐いていない。
この黒曜石は、きっとあの火山から流れてきた黒曜石だね。
「とりあえず荷物が一杯なので、この黒曜石は小さすぎるから置いていこう」
で、森が開けた所で、近くに人なら登りやすそうな大木がある場所を見つけて「ここをキャンプ地とする」と言って、まずは罠を設置。
・・・魔の森だからね。
竹を割って地面にU字に刺す。これが土台。
次は獲物の足を絞り上げるツタ作り。
私は、比較的強靭な繊維のツタを切ってくる。
仕掛けは大きく分けて「輪っか」「重り」「作動棒」の3つ。
ツタの片側には動作のエネルギーとなる「重り」を付け、木に掛ける。
もう片側には、途中に「作動棒」を巻きつけ、先端には引っ張られると足を絞る「輪っか」を作る。
この作動棒を、土台である竹のU字に引っ掛ける。
なぜ動作のエネルギーに「重り」を選んだかと言うと、近くにしなる木はあるんだけど、細すぎて頼りない。
なので「重り」で動作させ、もう一本ツタを持ってきて、それにも絞り上げる輪を作り、他の太い木に巻き付け、「重り」の石に引っかかって絞り上げるようにした。
このままでは重りの力で作動棒が勝手に回転して外れてしまうので、別の棒を渡して回転をせき止める。
あとは、この回転を押さえているストッパー棒の上に、別の棒をいくつか乗っける。これが「スイッチになる棒」だ。
獲物がこのスイッチ棒を踏むことで、回転を押さえている棒が外れる。すると作動棒が解放されて重りでツタが一気に引っ張られ、輪っかが獲物の足を引き絞り、行動を阻害する仕掛け。
いわゆる、くくり罠。
「よし、とりあえず今夜はこれでいいかな・・・。そのうち、もっと強靭な縄に変更しよう」
さて焚き火を開始。――しようとした時だった。
悲鳴が聞こえた。
「た、た、た、助けてぇ!!」
「ん?」
遠くから聞こえてくる声。
声の方をみて、目を細めれば、女の子だった。
――ただ、格好がおかしい。
「ウチの高校の制服――?」
よく知るブレザーだった。
「人かぁ・・・・どうしよう」
私、苦手な物が有ります。――人類です。
人ってあれでしょ。人を取って食うでしょ?
「って! ――あの人、ウチのクラスの宮村 恵さんじゃん!!」
細くしなやかな体、短い茶髪に黄色いヘアバンド。
所属は女子サッカー部で、他の部とかの助っ人にも呼ばれる人。
陸上部から、リフティング部にまで呼ばれるという、陽キャ部所属。
スピード、テクニック、パワー。おおよそスポーツに必要なもの全部取り揃えたスポーツの一軍。
しかも周囲に人が絶えないという、人当たりの良さ。教室の空気清浄機。陽キャof陽キャ。もはや大量の星が集まった昴みたいな存在。つまり、昴キャ。
私みたいな陰キャが、一番苦手とする人種。
知ってる? 陰って、陽が当たると消えるんだぜ?
という訳で、陽に当たる前に、木陰に隠れ退散しようと思ったんだけど。
「っ、ぅえ!?」
彼女、ダイアハウンドに追われてる!
私は目をつけておいた大木に登る。
「こっちに来なさいまし! ――決して戦ってはいけませんわ!」




