第6話「写真」
夏の日差しが海へ落ちていた。
青い空。
白い雲。
潮風が吹く。
凪と海は海沿いの道を歩いていた。
海は相変わらず楽しそうだった。
見るもの全部が新しいらしい。
空を見上げる。
波を見る。
猫を追いかける。
忙しい。
ふと。
海が足を止めた。
浜辺の方を見ている。
「ナギ」
「ん?」
「あれ何してるの?」
視線の先。
女子高生たちが集まっていた。
スマホを向けている。
笑いながら写真を撮っていた。
「あー」
凪は頷く。
「写真」
「しゃしん?」
海は首を傾げる。
凪はスマホを取り出した。
「こうやって撮るんだよ」
画面を見せる。
海は目を丸くした。
「残るの?」
その言葉に。
凪の胸が少しだけ揺れた。
思い出す。
あの夜。
人魚だったノアに写真を見せたこと。
残せるの?
そう聞かれた。
だから撮ってみた。
けれど。
写真には何も映らなかった。
ノアだけが。
そこから消えていた。
波音が響く。
凪は海を見る。
今は人間だ。
もしかしたら。
「海」
「なに?」
「撮ってみるか」
海は嬉しそうに頷いた。
「うん!」
浜辺へ降りる。
青い海を背にして立つ。
風が吹いた。
白金の髪が揺れる。
綺麗だった。
凪はスマホを向ける。
シャッター音。
一枚。
もう一枚。
画面を確認する。
そこには。
ちゃんと海がいた。
消えていない。
ぼやけてもいない。
笑っている。
凪は少し目を細めた。
胸の奥が温かくなる。
どうしてだろう。
少しだけ。
嬉しかった。
「見せて」
海が覗き込む。
「わあ」
目を輝かせる。
「僕だ」
嬉しそうだった。
本当に。
子供みたいに。
「すごいね」
海は何度も画面を見る。
そして。
突然言った。
「ナギも撮ってあげる」
「え?」
スマホを差し出される。
「いや、俺はいいよ」
海は首を傾げた。
少し考える。
そして。
「じゃあ」
凪を見る。
海色の瞳が揺れた。
「一緒に撮りたい」
凪は固まる。
「え」
「だめ?」
少しだけ眉が下がる。
困ったような顔。
ずるい。
凪は視線を逸らした。
「……別に」
海の顔が明るくなる。
「やった」
数分後。
女子高生に頼んで撮ってもらった。
海は嬉しそうだった。
肩が触れそうなくらい近い。
凪は落ち着かなかった。
シャッター音が鳴る。
その瞬間。
海が笑った。
眩しいくらいに。
夏の光みたいに。
帰り道。
海は何度も写真を見ていた。
「好き」
ぽつりと言う。
「写真?」
凪が聞く。
海は首を振った。
「これ」
画面を見せる。
二人で写った写真。
海は笑う。
「ナギと一緒だから」
凪は何も言えなかった。
潮風が吹く。
夏の匂いがした。
数日後。
写真は印刷された。
海は平屋の部屋へ飾った。
一番よく見える場所に。
凪も自分の部屋へ飾った。
机の隅。
誰にも見えない場所。
窓の外では波音が響いている。
写真の中。
海は笑っていた。
ちゃんとそこにいる。
今度は消えない。
凪は少しだけ目を細めた。
胸の奥が温かかった。
夏の光が静かに部屋へ差し込んでいた。
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『夜凪に溶ける』は、毎日【23:00】に更新予定です。
ふたつの海の物語──。
真逆の空気感を持つ、もうひとつの人魚BLも同時連載中です。
深く、静かに沈んでいく、透明感あふれる恋の余韻をぜひあわせてお楽しみください。
▼ もうひとつの人魚BL
『深海に溺れる』




