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夜凪に溶ける  作者: 深幸-みさき-
第7章:「名前を呼ぶ」
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第5話「人気者」

蝉の声が響いていた。


強い陽射しが港を照らす。


潮風が吹く。


凪と(ウミ)は並んで歩いていた。


(ウミ)は楽しそうだった。


島へ来てから少し経つ。


今ではすっかり馴染んでいた。


魚屋のおじさんに声をかけられる。


近所のおばあちゃんに野菜をもらう。


子供たちと話す。


猫を追いかける。


誰とでも仲良くなる。


それが(ウミ)だった。


(ウミ)くん!」


声が飛ぶ。


(ウミ)が振り返る。


制服姿の女子高生が二人いた。


「あ!」


(ウミ)が手を振る。


嬉しそうだった。


凪は少し離れた場所で立ち止まる。


女子高生たちは駆け寄ってきた。


「また会った!」


(ウミ)くん今日もかっこいい!」


(ウミ)は瞬きをする。


「そうなの?」


真顔だった。


女子高生たちは笑う。


「そうだよ!」


「めちゃくちゃかっこいい!」


(ウミ)は少し考える。


そして。


「ありがとう」


素直だった。


女子高生たちはさらに盛り上がる。


凪は遠くを見る。


青空だった。


雲が流れている。


潮風が吹く。


(ウミ)は楽しそうだった。


女子高生たちも楽しそうだった。


別に。


何もおかしくない。


(ウミ)は綺麗だ。


目立つ。


白金色の髪。


整った顔立ち。


誰が見ても目を引く。


だから声をかけられる。


当然だ。


何も変じゃない。


なのに。


胸の奥が少しざわつく。


どうしてだろう。


凪は眉をひそめた。


「ナギ!」


(ウミ)が呼ぶ。


凪は顔を上げる。


(ウミ)が手招きしていた。


「来て」


「なんで」


「来て」


女子高生たちも凪を見る。


凪は仕方なく近付いた。


(ウミ)は嬉しそうに笑う。


「ナギ」


「ん?」


「この人たち面白い」


女子高生たちが吹き出した。


(ウミ)くんひどい!」


「面白いって何!」


(ウミ)は首を傾げる。


「面白いは褒め言葉じゃないの?」


「まあ褒め言葉だけど!」


また笑い声が上がる。


(ウミ)も笑う。


楽しそうだった。


その顔を見ていると。


胸の奥が少しだけ重くなる。


波が揺れるみたいに。


落ち着かない。


どうしてだろう。


(ウミ)は誰と話していても楽しそうだ。


それは良いことのはずなのに。


(ウミ)くんまたね!」


女子高生たちが手を振る。


(ウミ)も振り返す。


「またね」


風が吹いた。


二人が去っていく。


(ウミ)はしばらく見送っていた。


そして。


ぽつりと言う。


「いい人たちだったね」


凪は頷く。


「そうだな」


(ウミ)は笑う。


本当に嬉しそうに。


凪は少し目を逸らした。


面白くない。


何が。


自分でも分からない。


(ウミ)は気付いていない。


当然だ。


だって。


(ウミ)は何も悪くない。


むしろいつも通りだった。


波音が聞こえる。


港の向こう。


陽射しに照らされた海が揺れている。


(ウミ)は凪を見た。


「ナギ」


「ん?」


「帰ろう」


自然にそう言った。


当たり前みたいに。


凪と帰ることを。


凪は少しだけ目を瞬く。


そして。


小さく頷いた。


「……ああ」


(ウミ)は嬉しそうに笑う。


その笑顔を見た瞬間。


胸の奥のざわつきが少しだけ静かになった。


どうしてだろう。


その理由はまだ分からない。


ただ。


帰り道。


(ウミ)はずっと凪の隣を歩いていた。


夏の風が静かに吹いていた。

ご覧いただきありがとうございます。

『夜凪に溶ける』は、毎日【23:00】に更新予定です。


ふたつの海の物語──。

真逆の空気感を持つ、もうひとつの人魚BLも同時連載中です。

深く、静かに沈んでいく、透明感あふれる恋の余韻をぜひあわせてお楽しみください。


▼ もうひとつの人魚BL

『深海に溺れる』

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