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夜凪に溶ける  作者: 深幸-みさき-
第6章:「波の向こうから」
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第3話「波打ち際」


その日は少しだけ風が暖かかった。


昼間の陽射しも強くなってきている。


もうすぐ夏だった。


大学から帰ったあと。


凪は部屋の隅に置かれたギターケースを見た。


しばらく考える。


そして。


ゆっくりと持ち上げた。


夜の海で弾きたくなった。


理由は分からない。


ただ。


なんとなく。


そんな気分だった。


潮風が吹く。


凪は海沿いの道を歩いた。


波音が聞こえる。


遠くで船の灯りが揺れている。


空には月が浮かんでいた。


あの頃と同じ。


静かな夜だった。


岩場へ向かうのは久しぶりだった。


冬は寒かったし。


大学も忙しかった。


それに。


あの場所へ行くと。


どうしても思い出してしまう。


月明かり。


歌声。


白い髪。


ノア。


凪は小さく息を吐く。


もう会えないのかもしれない。


そう思えるようになった。


それでも。


忘れられない。


不思議な人だった。


いや。


人ではなかったのか。


凪は少し笑う。


本当にいたのだろうか。


今でも時々分からなくなる。


波音が響く。


やがて見慣れた岩場が見えてきた。


懐かしい景色だった。


月明かりが海へ落ちる。


静かな夜。


凪は足を止めた。


そして。


眉をひそめる。


何かが見えた。


岩の近く。


白いものが横たわっている。


流木だろうか。


いや。


違う。


形がおかしい。


人影だった。


凪の鼓動が跳ねる。


まさか。


こんな時間に。


こんな場所で。


ギターケースを肩から下ろし、

慌てて駆け寄る。


波が寄せては返す。


月明かりがその姿を照らしていた。


白い肌。


濡れた身体。


肩までの淡い髪。


息を呑む。


男だった。


しかも。


服を着ていない。


「えっ……」


思わず声が漏れる。


青年は動かない。


目も閉じたままだ。


凪は膝をつく。


恐る恐る肩へ触れる。


冷たい。


けれど。


微かに呼吸はあった。


生きている。


胸を撫で下ろす。


その時だった。


月明かりが青年の顔を照らす。


凪は思わず見入った。


綺麗だった。


人形みたいに。


幻想の中から現れたみたいに。


見たこともないほど整った顔立ち。


白金色の髪が波に揺れている。


どこか。


懐かしい気がした。


けれど。


誰なのかは分からない。


波音が響く。


青年は静かに眠っていた。


まるで。


海がここへ運んできたみたいに。

ご覧いただきありがとうございます。

『夜凪に溶ける』は、毎日【23:00】に更新予定です。


ふたつの海の物語──。

真逆の空気感を持つ、もうひとつの人魚BLも同時連載中です。

深く、静かに沈んでいく、透明感あふれる恋の余韻をぜひあわせてお楽しみください。


▼ もうひとつの人魚BL

『深海に溺れる』

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