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夜凪に溶ける  作者: 深幸-みさき-
第6章:「波の向こうから」
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第2話「夏の前」


季節は巡る。


夏が終わり。


秋が過ぎ。


冬が来た。


冷たい風が吹き。


海の色も変わる。


春になれば。


島にはまた花が咲いた。


凪は大学へ通い。


家へ帰り。


いつも通りの日々を過ごした。


何も変わらない。


そう思っていた。


けれど。


本当は違う。


少しずつ。


いろいろなものが変わっていた。


波音が響く。


窓の外には海が広がっている。


凪はぼんやりと眺めた。


もうすぐ夏だった。


去年の今頃。


ノアと出会った。


夜の海。


月明かり。


歌声。


今でも覚えている。


忘れられない。


それなのに。


もうずっと会えていない。


胸の奥が少しだけ痛む。


凪は視線を落とした。


そして。


もうひとりのことを思い出す。


兄だった。


兄は海へ行った。


あの日。


最後に二人で話した。


誰にも言えなかった話を。


兄は全部話してくれた。


人魚のこと。


レヴィのこと。


苦しかったこと。


選んだ未来のこと。


凪は最後まで聞いた。


否定もしなかった。


止めもしなかった。


兄が初めて見せた顔だったから。


あんなに穏やかな顔を。


凪は知らなかった。


だから。


送り出した。


海へ。


兄の幸せを願って。


波音が響く。


あの日から。


兄はいない。


寂しくないと言えば嘘になる。


でも。


不思議と後悔はなかった。


兄はきっと。


今なら自由に泳いでいる。


そんな気がした。


ふっと笑う。


昔。


兄に言ったことがある。


魚みたいだと。


あの頃はただの冗談だった。


けれど。


今なら本当にそう思う。


兄はきっと。


海の方が似合う。


潮風が吹く。


カーテンが揺れる。


凪は窓の外を見る。


青い海。


遠い水平線。


その向こうに。


兄がいるのかもしれない。


そして。


ノアも。


会えなくなった人たちは。


みんな海の向こう側にいる。


そう思った。


胸の奥が少しだけ苦しくなる。


凪は立ち上がった。


部屋の隅にはギターケースがある。


長い間触っていない。


視線が止まる。


しばらく考える。


そして。


ゆっくり手を伸ばした。


たまには。


弾いてみようか。


そんな気分だった。


窓の外では。


夏の匂いを含んだ風が吹いている。


もうすぐ。


また夏が来る。

ご覧いただきありがとうございます。

『夜凪に溶ける』は、毎日【23:00】に更新予定です。


ふたつの海の物語──。

真逆の空気感を持つ、もうひとつの人魚BLも同時連載中です。

深く、静かに沈んでいく、透明感あふれる恋の余韻をぜひあわせてお楽しみください。


▼ もうひとつの人魚BL

『深海に溺れる』

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