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夜凪に溶ける  作者: 深幸-みさき-
第6章:「波の向こうから」
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第1話「来ない」


夏の夜だった。


窓の外から、

波音が聞こえる。


凪はベッドへ寝転んだまま、

天井を見上げていた。


時計を見る。


いつもの時間。


少し前までなら。


今頃、

岩場へ向かっていた。


ギターを抱えて。


月明かりの海へ。


けれど。


最近は行っていない。


凪は目を閉じる。


ノアが来なくなってから。


夜の海へ行く理由がなくなった。


最初は数日だった。


何か用事でもあるのだろうと思った。


人魚にも、

人魚の都合があるのかもしれない。


そんなことを考えていた。


でも。


一週間が過ぎた。


二週間が過ぎた。


一か月が過ぎた。


それでも。


ノアは来なかった。


潮風がカーテンを揺らす。


窓の外には月が浮かんでいた。


あの日と同じ月。


静かな光が海へ落ちている。


凪はゆっくり起き上がる。


机の隅。


スマホ。


その横。


ギターのピック。


ノアが興味津々で触っていたことを思い出す。


『これなに?』


『ピック』


『ぴっく』


楽しそうに復唱していた。


思わず笑ってしまう。


そして。


すぐに笑えなくなる。


静かだった。


ノアがいないだけで。


こんなにも静かになるのかと思う。


会いたい。


その言葉は飲み込んだ。


代わりに。


窓の向こうの海を見る。


今頃どこにいるのだろう。


元気なのだろうか。


また会えるのだろうか。


分からない。


何も。


ただ。


夜になると考えてしまう。


波音が響く。


夏が終わろうとしていた。


空気が少しずつ変わる。


海の色も。


風の匂いも。


少しずつ。


それでも。


ノアだけは戻ってこない。


凪は窓から目を逸らした。


岩場へ行こうとは思わなかった。


行けば。


思い出してしまうから。


月明かりの海も。


歌声も。


名前を呼ぶ声も。


全部。


忘れられないまま。


季節だけが過ぎていく。


波音が響く。


その夜も。


ノアは来なかった。

ご覧いただきありがとうございます。

『夜凪に溶ける』は、毎日【23:00】に更新予定です。


ふたつの海の物語──。

真逆の空気感を持つ、もうひとつの人魚BLも同時連載中です。

深く、静かに沈んでいく、透明感あふれる恋の余韻をぜひあわせてお楽しみください。


▼ もうひとつの人魚BL

『深海に溺れる』

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