表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜凪に溶ける  作者: 深幸-みさき-
第4章:「月の向こう側」
PR
25/51

第3話「昼の海」


「昼の海って、

どんな色なの?」


不意に。


ノアがそんなことを聞いた。


波打ち際へ腕を乗せながら、

月明かりの海を見ている。


凪は少し考えた。


「青」


「海はいつも青だよ」


「違う違う」


凪は笑う。


「昼はもっと明るい」


ノアが首を傾げる。


「明るい青?」


「空が映るんだよ」


その言葉に、

ノアの瞳が輝いた。


「空」


人魚にとって空は遠い。


海面から見上げることはできても、

昼間に長く留まることはほとんどない。


ましてや陸から見る景色なんて、

知らない。


「雲もある」


「くも?」


「白いやつ」


「白い海藻みたいな?」


「たぶん違う」


凪は吹き出した。


ノアもつられて笑う。


静かな夜だった。


波音が揺れる。


凪は海を見つめる。


本当なら。


見せてやりたかった。


昼の海。


夏の空。


太陽の光。


きらきら光る水平線。


ノアならきっと、

目を輝かせる。


そんな気がした。


「今度さ」


凪は何気なく言う。


「昼の海も見せたいな」


ノアが顔を上げる。


一瞬だけ。


本当に嬉しそうな顔をした。


けれど。


その笑顔はすぐ消える。


「……見てみたい」


小さな声だった。


凪も黙る。


人魚は昼、

海面近くへ長くはいられない。


人間に見つかる危険もある。


何より。


ノアは海から出られない。


当たり前のことだ。


分かっている。


それでも。


「残念だな」


ぽつりと凪が言う。


ノアは少し笑った。


「ナギは変だね」


「なんで」


「私に色んなもの見せたがる」


凪は返事に困った。


どうしてだろう。


祭りも。


花火も。


昼の海も。


気付けば、

ノアに見せたいものばかり増えている。


「……綺麗だと思うから」


結局。


それしか言えなかった。


ノアは少し目を丸くする。


それから。


ふわりと笑った。


月明かりの下で見るその笑顔は、

やっぱり綺麗だった。


「ありがとう」


静かな声。


凪の胸が少しだけ苦しくなる。


その時。


遠くの水平線の向こうで、

小さな光が瞬いた。


漁船の灯りだろう。


ノアは海面を見つめる。


その瞳には、

昼の海への憧れが映っていた。


「いつか」


ぽつりと呟く。


「見てみたいな」


昼の海。


青空。


白い雲。


ナギが見ている世界。


凪は何も言えなかった。


見せたい。


でも見せられない。


海と陸。


人魚と人間。


今まで考えないようにしていた境界が、

少しだけ目の前に現れた気がした。


波音が響く。


月の光が揺れる。


二人は並んで海を見つめる。


同じ海を見ているはずなのに。


見えている景色は、

少しだけ違っていた。

ご覧いただきありがとうございます。

『夜凪に溶ける』は、毎日【23:00】に更新予定です。


ふたつの海の物語──。

真逆の空気感を持つ、もうひとつの人魚BLも同時連載中です。

深く、静かに沈んでいく、透明感あふれる恋の余韻をぜひあわせてお楽しみください。


▼ もうひとつの人魚BL

『深海に溺れる』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ