表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜凪に溶ける  作者: 深幸-みさき-
第2章:「月夜の歌声」
PR
12/21

第4話「人魚」


「夜の海で歌を聞いたら、

振り返っちゃいけないよ」


不意に。


祖母の声を思い出した。


波音が静かに響く。


凪は岩場へ座ったまま、

隣のノアを見る。


白金の髪が、

月明かりを受けて淡く光っていた。


今日は珍しく、

ノアが先に歌っていた。


波へ溶けるような、

静かな旋律。


凪はギターを弾く手を止め、

その声へ耳を傾ける。


綺麗だと思う。


聞けば聞くほど。


胸の奥へ、

ゆっくり沈んでいくみたいな声だった。


歌い終えたノアが、

こちらを見る。


「……どうしたの?」


「え?」


「今日は、

あんまり弾かないね」


柔らかい声。


凪は少し視線を逸らした。


「いや……

昔話、思い出してた」


「昔話?」


ノアが首を傾げる。


その仕草が妙に可愛くて、

凪は少し笑ってしまう。


「この島、

人魚の話あるんだよ」


その瞬間、

ノアの瞳がわずかに揺れた。


けれど凪は気付かない。


「夜の海で歌を聞いたら、

魂を奪われるって」


ざあ、と波が揺れる。


ノアは黙ったまま、

静かに凪を見る。


「人魚は綺麗だから、

みんな海へ行きたくなるってさ」


凪は苦笑する。


「子供の頃、

ちょっと怖かった」


「……今は?」


ノアの声は、

少しだけ小さかった。


凪は海を見る。


月光が、

静かな波間を照らしている。


その中でノアの尾ひれだけが、

宝石みたいに光っていた。


怖い、

とは思わない。


むしろ。


「……綺麗だなって思う」


ノアが息を止める。


凪は気付かないまま、

ぽつりと続けた。


「歌も」


「尾ひれも」


「お前も」


言った瞬間。


ノアがぴたりと動きを止めた。


「……む」


「え」


「“お前”やだ」


凪は瞬きをする。


ノアは少し不満そうに眉を寄せた。


「ちゃんと名前あるのに」


「……いや、

つい」


「ノアは名前呼ぶと、

嬉しくなる」


真っ直ぐな声だった。


どくり、と胸が鳴る。


ノアはじっと凪を見る。


「だから、

ナギも呼んで」


潮風が吹く。


波音が揺れる。


凪は妙に落ち着かなくなって、

視線を逸らした。


「……ノア」


名前を呼ぶ。


その瞬間。


ノアの表情が、

ぱっと明るくなる。


本当に嬉しそうに笑った。


「うん」


その顔が綺麗すぎて、

凪は心臓を押さえたくなる。


まずい。


最近ずっと、

調子がおかしい。


ノアを見るたび、

胸の奥が落ち着かなくなる。


視線を向けられるだけで、

呼吸が浅くなる。


ノアはそんな凪を見ながら、

小さく笑った。


「ナギは、

怖くないんだね」


凪は少し考える。


普通なら怖いのかもしれない。


人じゃない存在。


夜の海。


人魚。


でも。


初めて会った時から、

不思議と恐怖はなかった。


それよりずっと強く、

惹かれてしまった。


「……ノアが、

怖そうに見えないからじゃない」


そう言うと、

ノアは少しだけ目を見開いた。


それから、

ふっと笑う。


月明かりの下で笑うその顔は、

あまりにも綺麗だった。


凪の心臓が、

どくん、と大きく鳴る。


祖母は言っていた。


“人魚は、

海へ連れていく”


本当にそうかもしれない、

と思う。


だって今。


凪はもう、

夜になるたび。


ノアのいる海へ、

来てしまうのだから。

ご覧いただきありがとうございます。

『夜凪に溶ける』は、毎日【23:00】に更新予定です。


ふたつの海の物語──。

真逆の空気感を持つ、もうひとつの人魚BLも同時連載中です。

深く、静かに沈んでいく、透明感あふれる恋の余韻をぜひあわせてお楽しみください。


▼ もうひとつの人魚BL

『深海に溺れる』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ