第2話 袁紹ちゃん、汜水関で病む。③
汜水関――城門前。
巨大な城門は固く閉ざされ、その前で――
董卓軍と連合軍が、激しくぶつかり合っていた。
ガキィンッ!!
ズバッ!!
ドゴォッ!!
金属音と、肉を断つ鈍い音。
怒号と悲鳴が、絶え間なく入り混じる。
土煙が立ち上り、視界を曇らせる中――
ひときわ異様な存在が、戦場の中心に立っていた。
華雄「ハアッ!!」
振り上げられる金棒。
次の瞬間。
ドゴォンッ!!
連合兵「ぐはっ!!」
連合兵「ぐふうッ!!」
直撃した兵が、まるで紙のように吹き飛ぶ。
黒い肌。
鬼のような形相。
振るわれる一撃一撃が、常識を超えていた。
金棒が空を裂くたびに、兵が宙を舞う。
まるで、そこだけ“人間ではない何か”が暴れているかのようだった。
連合軍の前線が、目に見えて後退していく。
「ぬう……」
田豊は歯を食いしばる。
「さすがは天下に聞こえる猛将、華雄……。まさか、これほどとは……」
想定を、上回っていた。
その隣で、曹操が静かに戦場を見つめていた。
(……兵たちが、怯え切っておる)
華雄一人に。
それだけで、士気が崩れ始めている。
(このままでは……孫堅殿が背後を突くより先に――連合が瓦解する)
その時だった。
鮑信「我ら兄弟にお任せをッ!!」
声が、鋭く響く。
鮑忠「俺たちの連携で、華雄めを討ち取ってご覧にいれますッ!!」
馬を蹴り、前へ出てきたのは――曹操配下の兄弟。
鮑信と鮑忠。
曹操の目が、わずかに細まる。
(……鮑信、鮑忠)
曹操軍の中でも屈指の実力者。
単独では厳しくとも――
(……二人同時であれば、あるいは)
一瞬の判断。
曹操は、短く命じた。
「よしッ! 行けッ!!」
鮑信、鮑忠「ハハアッ!!」
二騎の馬が、地を蹴る。
土を巻き上げ、一気に加速する。
一直線に――華雄へ。
華雄「んんっ?」
迫り来る気配に、華雄が顔を上げる。
その口元が、わずかに歪む。
まず動いたのは――兄、鮑信。
腰から鎖鎌を抜き放つ。
ブンッ……ブンッ……
重い分銅が、唸りを上げる。
勢いを乗せる。そして――
ヒュンッ!!
鎖が放たれる。
一直線に華雄の腕へと飛び――
ガシャッ!!
分銅が絡みつき、鎖が巻き付く。
華雄の右腕が、拘束される。
その瞬間。
間髪入れずに――
鮑忠「うおおッ!!」
弟、鮑忠が突っ込む。
両手に握った二本の刀を、同時に振り上げる。
狙いは――拘束された右腕ごと、胴を断つ一撃。
(……これで終わる)
誰もが、そう思った。
だが。
華雄の目が、わずかに細まる。
次の瞬間。
グンッ!!
拘束されたはずの右腕が、動いた。
力任せに――鎖を手繰り寄せる。
鮑信「なッ――!?」
体が、引き寄せられる。
抵抗する間もなく――そのまま、持ち上げられた。
片腕で。
人一人を。
ブシュウッ!!
振り下ろされた鮑忠の刃が――
盾のように掲げられた兄の身体を、切り裂く。
鮑信の体が、血を噴きながら裂ける。
鮑忠「……ッ」
一瞬、思考が止まる。
鮑忠「兄者アッ!!」
叫びが、戦場に響く。
だが、その声に応じるものはない。
ブンッ!!
無造作に投げ捨てられる。
鮑信の身体が、地に叩きつけられる。
動かない。
鮑忠「貴様アアアッ!!」
怒りに任せて、突っ込む。
左右から同時に刀を振るい、華雄を挟み込む。
だが――その刹那。
華雄の金棒が、振り抜かれた。
ドゴオッ!!
衝撃。
鮑忠の身体が、空中へと弾き飛ばされる。
回転しながら、地面へと叩きつけられる。
動かない。
曹操「――ッ!?」
思わず、目を見開く。
鮑信。
鮑忠。
二人とも――微動だにしない。
戦場が、一瞬だけ静まる。
誰もが、その光景を目にした。
華雄は、ゆっくりと金棒を肩に担ぎ直す。
その動きには、まるで疲労がない。
ただ――圧倒的な存在として、そこに立っていた。




