第4話 袁紹ちゃん、虎牢関でごり押す。②
前線では、連合軍と董卓軍が激しくぶつかり合っていた。
ガキンッ!!
ズバッ!!
ドゴォッ!!
金属音と、肉を裂く鈍い音。
怒号と悲鳴が入り混じり、戦場は混沌に包まれている。
「押してるぞ!」
「このまま前へッ!」
士気の高い連合軍に、董卓軍は対応しきれない。
陣形が崩れ、兵たちが後退し始める。
一歩、また一歩と。
じりじりと――確実に。
前線は、虎牢関へと近づいていた。
曹操軍の先頭。
そこに立つのは――曹操配下の猛将、夏侯惇。
槍を構え、前へと踏み込む。
夏侯惇「フンッ!!」
一閃。
槍が横薙ぎに振るわれる。
ドゴォッ!!
董卓兵が、まとめて吹き飛ばされる。
夏侯惇「ハアッ!!」
さらに一歩。
突き。
ブシュッ!!
槍先が鎧を貫き、兵が崩れ落ちる。
その動きに、無駄は一切ない。
「夏侯惇様が道を開いたぞ!」
「続けッ!!」
その背を追うように、曹操軍が一気に押し上げる。
そして――ついに。
虎牢関、城門前。
夏侯惇が、最前へと到達した。
目の前には、巨大な門。
鉄で補強された、重厚な扉。
夏侯惇「城門前を確保したッ!!」
声を張り上げる。
周囲の兵たちが呼応する。
夏侯惇「これより、城門を破壊――」
槍を構え、門へと向けた、その時だった。
ギイイイッ……
低く、重い音。
門が――内側から、ゆっくりと動いた。
夏侯惇「……?」
眉をひそめる。
次の瞬間。
ドゴオオオッ!!
爆音。
まるで弾かれた小石のように――城門前にいた連合兵たちが、一斉に吹き飛んだ。
地面を転がり、血を撒き散らす。
夏侯惇「――ッ!?」
槍を構えたまま、立ち尽くす。
何が起きたのか、理解が追いつかない。
だが――
空気が、変わった。それだけは分かる。
重い。
圧が、のしかかる。
呼吸が、わずかに詰まる。
やがて――門の奥から、ゆっくりと影が現れる。
まず、視界を覆ったのは――巨大な馬。
常識を超えた大きさ。
筋肉が盛り上がり、地を踏みしめるたびに土が沈む。
たてがみは燃えるように揺れ――その肌は、血のように赤い。
異様な存在。
ただの馬ではない。
そして――その上。
ゆっくりと、視線を上げる。
漆黒の鎧。
光を吸い込むような重厚な装甲。
その手には――巨大な方天戟。
ただ持っているだけで、空気が震える。
さらに――兜の隙間から覗く、目。
それは――人のものではなかった。
ぎらりと光る、獣のような眼光。
すべてを見下ろす、絶対的な強者の視線。
誰もが、息を呑む。
そして――理解する。
“これが”――中華最強。
『呂布』であると。
呂布は、ゆっくりと夏侯惇を一瞥した。
その視線は、まるで獲物の値踏み。
やがて――無言のまま、馬から降りた。
ドスン……
重い着地音。
地面がわずかに沈む。
呂布「……最初に死にたいのは、お前か?」
挑発の色すらない。
ただの確認。
夏侯惇「――たわけッ!!」
迷いを振り払うように叫ぶ。
槍を抱え、地を蹴る。
一直線に――呂布へ。
夏侯惇「ハアッ!!」
鋭い突き。
だが――呂布は、方天戟を軽く持ち上げる。
ギイイイイインッ!!
槍が、大きく弾かれる。
夏侯惇の体勢が、一瞬崩れる。
その隙を――呂布は見逃さない。
そのまま、頭上から力任せに、方天戟を振り下ろした。
ドゴオオオオンッ!!
かろうじて槍で受け止める。
衝撃が、地面にまで伝わる。
意識が一瞬、飛んだ。
夏侯惇「――ぐうッ……!」
膝が沈みかけるのを、必死にこらえる。
両腕が、軋む。
だが――倒れない。
夏侯惇は、無理やり体勢を立て直した。
荒い息。
それでも槍を握り直す。
夏侯惇「化け物がッ!!」
叫び。
怒りと意地を込める。
夏侯惇「これでも喰らえッ!!」
踏み込む。
突き。
さらに突き。
連続の刺突。
目にも留まらぬ速度。
だが――呂布は、片手で方天戟を振るった。
まるで風車のように。
ガキンッ!!
ギィンッ!!
すべてを、弾く。
そして――ふいに、動きが変わる。
呂布の足が、わずかに踏み込まれた。
次の瞬間。
ドゴッ!!
鈍い音。
呂布の蹴りが、夏侯惇の腹部に叩き込まれる。
夏侯惇「グハッ!!」
息が、強制的に吐き出される。
体が浮く。
そのまま――
ドサッ!!
地面へ叩きつけられた。
砂が舞い上がる。
夏侯惇は、転がるようにして距離を取る。
呂布は――ゆっくりと歩く。
一歩ずつ。確実に、距離を詰める。
その途中。
ふと、地面に視線を落とした。
そこに転がっていたのは――折れた矢じり。
呂布は、それを無造作に拾い上げた。
呂布「……この程度か」
呟く。
興味を失ったような声音。
呂布「下らん」
そのまま、立ち上がろうとする夏侯惇へ――無造作に、投げた。
ヒュンッ
風を裂く音。
次の瞬間。
ブシュッ
夏侯惇「ぐおおおッ!!」
絶叫。
矢じりが――吸い込まれるように、左目へ突き刺さった。
鮮血が噴き出す。
夏侯惇は、思わずその場に膝をついた。
左目を押さえ、うずくまる。
呂布は、その様子を見下ろしていた。
ゆっくりと。
確実に、歩み寄る。
その一歩一歩が、死を刻むように。
そして――頭上へ。
方天戟を、ゆっくりと振り上げた。
とどめの一撃。
それが――今、振り下ろされた。




